厄災かよ!
身体が未だに生温かい……
って言うか、たくあんとかカブトムシの餌みたいな、少し酸っぱくてすえた匂いが自分の身体に張り付いて離れない……
「マジクセぇ……」
クサい豚に抱きついて正気を取り戻した俺。
アレ?
自分で言っておいてアレだけど、なんか字面おかしくね……
「自分から抱きついて来ておいて、本人を前にして露骨に臭いと言うのは流石に人としてどうかと思うでござるよ」
「葵ちゃんは臭くねぇぞ。 葵ちゃんの匂いの良さが分からねぇオマエはマジでモヤシ。 略して、モヤシ死ね」
「いや、モヤシ関係ねぇし。 ってか略できてねぇからモヤシに全力で謝れ」
「オマエが葵ちゃんに謝れ」
「もうモヤシに謝らなくていいから、オマエは毎日、毎時間、たくあんとカブトムシの餌を鼻に詰めてろ。 いつでも愛しの葵ちゃんの匂いのを再現して堪能してろ」
「僕はカブトムシの餌と同じ匂いなのでござるか……」
カブトムシの餌の匂いがする豚がヘコんで項垂れるが、
「私は葵ちゃんの匂いは好きだぞ! ふごぉぉぉぉぉぉ──!!」
ヘコむ豚のふくよかな胸に顔を埋めてグリグリしながらハァハァ言っているバトルジャンキー。
マジで嫌なモノを見せられたから、さっさと家に帰ってゲームして忘れてしまおうと思う。
が、しかし、
「家に帰れねぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!」
雫のジジイや八千流木さんに指名手配くらって(多分)、赤装束に懸賞金をかけられていて(確実)、帰りたいのに帰れない。
桜田の刺激臭によって忘れ去られていた現状を思い出し、
「マジでどうすりゃ良いんだよ! マジで八方塞がりじゃねぇか!」
モブな俺のオロオロワチャワチャ病が再発。
「キョドんなモヤシ」
「キョドってねぇし!」
「んじゃファビョんなモヤシ」
「ファビョってねぇし!」
「ってか落ち着け。 海よりも深い慈悲と寛大なお心をお持ちである我らが葵ちゃんが、オマエの為にアイツら全滅させてやるって言ってんじゃねぇか」
「おぉ!?」
「え?」
「葵ちゃんがオマエと世界の平和の為にタワーごとヤツらを壊滅させてやるから、モブなオマエはその奇跡の観測者としてしっかりついて来い」
「「え?」」
「戦闘力皆無な俺にも来いってか!?」
ってか桜田が赤装束を壊滅させるって……?
って桜田に顔を向けたら、
「………………」
俺以上にブサイクを驚愕な顔に張り付かせて固まっていた。
アレ?
驚愕をブサイクな顔に?ブサイクを驚愕な顔に?
まぁ、どっちでも良いや。
その表情からも分かる通り、『壊滅させるなんて一言も言ってないでござる!!』と言う、心の叫び声が俺にはハッキリと聴こえてきている。
が、
「オマエら、取り敢えずどっか行くぞ。 此処に居たら色んなヤツらに見つかる可能性が高い」
そんな事などお構いなしな雫隊長は、スマホのマップで東京タワーへの経路を表示させている。
『どっか行くぞ』の『何処か』がピンポイント過ぎてワロタ。
「先ずは飯だな。 さっさと行くぞ」
俺と桜田に有無を言わさず、『飯に行くぞ』と言いつつも、スマホのマップを見ながら率先してタワーがある方向に向かって歩き出す男前な雫隊長。
マジで、なんて濃い一日なんだ……
………………
…………
……
…
取り敢えずと言う事で、近くのコンビニで弁当を買い、コレまた近くの神社の軒先で夜を明かす事に。
って思ってましたよ、最初は。
神社でコンビニ弁当を食べ終えた後、
「オマエら。 12時になったら行くから起こせよ」
「「え?」」
といきなりな事を言いって弁当を食べ終えるなりそそくさと眠り始めた雫。
「12時って、どんだけ寝るんだよオマエ……」
「まぁ、疲れたから昼過ぎまでぐっすり寝ていたいのは分からなくもないでござるが」
「は? なに言ってんだ? そんな真っ昼間にやる訳ないだろう? 夜中の12時に動くんだよ」
「「──!?」」
いきなり何言ってんだこのかき氷頭わっ!?
「正気かお前!?」
「木梨氏!? 嘘でござるよね!?」
「正気だし嘘じゃねぇ。 私がやるっつったらやるんだよ」
「オマエ!? いきなりどんだけジャイアニズム発揮してんだよ!?」
「劇場版と真逆でござるよ!?」
「ウルセェモヤシ、死ね。 葵ちゃんは一緒に添い寝してあげるからこっちおいで」
「な“!?」
「ブヒィ!?」
縁側の上で何故か両手両足を広げてガードポジションで待ち受け体勢の雫。
どんな添い寝だよ!?
「せめて、日付が変わった明日にしようぜ! 今日一日が濃すぎて色々と死ねるぞ!?」
「そうでござる! せめて休ませてくれでござる! こちとら退院してからずっと外に居ぱなっしでござるよ!」
両手両足を広げて寝ていた状態から勢い良く身体を起こして胡座で座った雫。
「12時まわれば、次の日じゃん。 12時まで後3時間休めるから」
「オマっ!? どんなシンデレラ理論だよ!?」
「奇襲ってのは夜にやるもんなんだよ。 ったく、ロマンのない奴だな。 だからモブなんだよ」
「モブ関係ねぇし! ロマン関係ねぇし!」
いちいち事ある度にモブモブモブモブ言いやがって!
「分かったらさっさと寝て休め」
「オマエのロマンとか微塵も分からねぇよ!」
「ハイハイ。 私ゃもう寝るぞ」
「こんの──!?」
イカれかき氷頭が!
って声を大にして言いたいけど、言えない辺りが俺がモブたる所以なんだろうな……
雫は俺達を無視してマジ寝に入りやがって、ピクリとも動かなくなった。
クソかき氷頭のジャイアニズム的独裁判断に対して言いたい事は山程あるけど、実際現実、コレと言った良いプランも思い浮かばない。
このままじゃマジで俺まで戦うハメになりそうだ……
いや、待て。
って言うか、この赤装束の情報を持ってジジイ達に匿って貰えば安全なんじゃねぇのか?
コレ結構マジで。
「なぁ、桜田」
「ござ」
って事で小声で桜田に話しかける。
「今、思ったけど、ジジイ達に赤装束の情報渡して匿ってもらった方が安全なんじゃね?」
「──!?」
「………………」
イヤ、驚きすぎだろ。
ブサイクがマシマシになってんぞ。
「八千流木さんのなんとか課ってトコには、理力ってのを使えるジジイやパパさんみたいな人達が沢山居るんだろ? 知らんけど」
「──!?」
いや、だから。
ブサイクにブスも追加されたぞ。
「って事は、俺達が特攻するより安全って事なんじゃね?」
「確かに……」
我の導きで豚が悟る。
迷える子羊、いや、物の怪を救った俺ちゃん。
「アイツはこのまま此処に置いておいて、ジジイんトコ行こうぜ。 どうせ、1人になったらアイツも大人しく帰るだろ?」
「で、ござるな。 さっきは紅葉氏を助けるとか、世界の平和を守るとか言ったでござるが、正直、襲うのも襲われるのもイヤでござるよ……」
少し神妙な顔で俯きながら、手の中にあるピンクのワンドを眺める豚。
「だな。 たまたま手に入れた不思議なチカラだけど、俺もそんな事には使いたくないな。 まぁ、降りかかって来た火の粉は全力で払うけど」
「同じくでござるよ」
拳を握って自分の意思を確認し、寝ている雫に顔を向ける。
「でも、流石に女性の木梨氏1人をこんな所に置いていくのは……」
桜田がイカれオトコオンナに優しさを見せるが、
「むしろ、アイツが襲う側だと思うが……」
「それでも、一応は女性でござるから……」
「クソ。 そんじゃ一回あの馬鹿起こすぞ。 面倒臭くなったら全部オマエに丸投げすっからな」
俺は面倒くさいから適当に桜田に丸投げする。
「ござる!」
何故か嬉しそうな桜田。
俺と桜田の意思も固まり、俺達に背中を向けて寝ているかき氷頭に近づく。
そして、桜田が雫の肩に手をかけた瞬間、
「き、木梨氏ぃぃぃいいい!?」
桜田が声をあげた。
「も、紅葉氏っ!! 木梨氏がっ!!」
「どうした? 寝ゲロでもしてんのか?」
「ち、違うでござる!! 木梨氏がマネキンに代わってるでござるよ!」
「は? 何言ってんだよ。 んな訳あるか。 気づかれずにマネキンに代わってるとか、どんな忍の者の仕業だよ」
「今の木梨氏はリアル忍びの者でござるよ!」
「は? 何言ってんだよおま──!?」
近寄って見てみると、寝てた筈のかき氷頭はマジでマネキンだった……
そしてマネキンの口には、如何にもなメッセージ入りの東京タワーのポストカードが。
「マジかよ……」
「木梨氏……」
アレだけ調子ブっこいておいて、真っ先に捕まってるとか……
マジで厄災かよ!!
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