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意味が分かんねぇぞ!

日が沈み始め、赤に近いオレンジ色の夕日が照らす土手の上。


そんな夕日に向かって汗をかきながら走り続ける俺達。


一見、青春ドラマ的なワンシーンの様に思えるけど、現実は酷く残酷だ。


軽く白眼をむき、全身汗まみれの口元はゲロまみれな桜田。


息を荒げて目をギラつかせながら、忙しなく過剰に周りをキョロキョロしている、全国指名手配中の逃走犯さながらな雫。


そして、



「オマエ!!  マジで!  なんてこと!!  してくれてんだ!!  よぉぉぉぉおおお!!」



かき氷頭のイカれビッチに激おこMAXな俺。



「ウルセェー!  モヤシ!!  ひとまず!  あそこに!  身を潜めるぞ!!」



マジキチビッチが執拗に背後を確認した後に、歩道を逸れて土手を駆け下りて高架下へと向かっていく。



「クソビッチがぁぁぁあああ!!」



いた仕方なく雫の跡を追って土手を駆け降りていくが、


桜田が、



「ブヒィ!?  オゴっ──!  アだっ──!  イダっ──!」



土手を上手く駆け下りる事ができずに途中で態勢を崩して激しく転がり落ちて行った。



「桜田ぁぁぁあああ!?」



いつもであれば、こんな面白おかしい桜田の醜態に腹を抱えて笑いあったりするのだろうが、状況と絵面が酷すぎて怒りしか湧いてこない。    



「寝てるんじゃねぇよ!!  さっさと立って走れ!!」


「葵ちゃん!  早く立って!!  向こうでいっぱい休めるから!!」



戻って来た雫と一緒に、キン◯クバスターをくらった後の様な格好で倒れている桜田の両脇を抱えて無理矢理立たせ、



「げ、限界でござるぅぅぅぅううううう!!」



強制的に豚を走らせる。



そして、高架下の影へと身を潜ませてしゃがみ込む俺達。


雫ん家からブっ通しで走り続け、膝はガクガク、息も激しく上がり、煩いくらいに心臓が速い鼓動を刻み続けている。


俺以上に息を荒げる豚のメガネは真っ白に曇り、雫の髪もバサバサで大量の汗によって顔にベッタリ張り付いている。


完全に死に体な、引きこもりと肥満とヤニ中。


日頃の不摂生がまざまざと現れて、誰一人としてこれ以上身体を動かす余裕が無く、誰一人として声をあげる事ができない。




なんでこんな事やってんだよ!


マジで意味が分かんねぇぞ!



全員が必死に息を整える事数分。


流石と言うかなんと言うか、雫が先に口を開いた。



「なぁ……  今夜、寝るとこどうするよ?」



しかし、全く考え無しの馬鹿な質問すぎて、怒りよりも呆れが先にやってきた。



「お前、何か考えがあって行動したんじゃねぇのかよ……」


「なんもねぇよ」


「──っ!?  コノっ──!!」



アホすぎる馬鹿の一言に、疲れと空腹によってマシマシになった怒りが込み上げる。



「多分でござるが、僕と紅葉氏の家はパパさん達に押さえられていると思うでござるよ……」


「マジかよ〜。  葵ちゃん家行きたかったなぁ〜」


「「………………」」



こんな状況で何考えてんだよこいつは!?



「この調子だと、カラオケとか漫喫にも八千流木さんの追っ手が出ているかもしれないでござるな……」


「警察の追っ手とかマジで引くわ。  どんな逃走劇だよ。  って言うか、どっかの馬鹿のせいでマジで八方塞がりじゃねぇか……  俺としてはさっさと捕まって、早いとこ服着替えたいんだけど」



汗で服がビチョビチョって依然に、微塵もサイズが合っていない服を着ている桜田と一緒に行動するのが嫌すぎる。


そんな桜田といつまでもペアルックってのもマジでキツい。



「腑抜けたこと言うなクソモヤシ。  捕まってたまるかっつうの。  ってかこんな時に服を着替えたいとか、お前、どんだけ乙女だよ?」


「黙れオッサンオトコオンナ。  捕まる捕まらない依然に俺は何も悪い事してねぇし、着替えたいのも桜田と全身ペアルックで街中を歩くのが嫌なだけだ」


「葵ちゃんと全身ペアルックとか、寧ろご褒美以外の何ものでもないだろうが?  モヤシのクセに贅沢言ってんじゃねぇよ」


「アホか。  お前にはご褒美かもしれんが、俺にとっちゃ全裸で市中引き摺り回しにされるのと同じくらいの極刑だわ」


「紅葉氏、辛辣ぅ!?」


「そんじゃ、私の服と取り替えるか?」


「どんだけだよ!?  ってかもう、お前は黙ってろ!  お前の一言一言がアホ過ぎて、腹も減ってて余計イライラするわ!」



マジでさっさと家に帰って風呂入って飯食って、ベッドでゴロゴロしたすぎる!



「取り敢えず、今日の寝床をなんとかしなくてはで、ござるな」


「あん?  オイそこの豚」


「んん??」


「お前、何言ってんだよ?  お前もそこの馬鹿と同類なのか?」


「え?」


「俺とお前はそこに居るオトコオンナと違って、別に何も悪い事もやましい事もしてねぇだろうが。  こんな馬鹿に付き合ってられるか。  俺はもう家に帰るぞ」


「な“!?  オイ!  クソモヤシ!!  テメ、私を裏切んのかよ!?」


「裏切るも何も、お前が勝手にした事だろうが。  勢いでここまでついて来たけど、よくよく考えたら俺と桜田はマジで関係ねぇわ」


「か弱い乙女をこんな所で見捨てんのかよ!?」


「黙れ、生きる厄災。  か弱い乙女って思ってんなら、こんな事やってないで大人しく帰れ」


「ぬぐぐぐぐぐぐ──!!」



マジで、誰がか弱い乙女だよ。


お前は紛争地帯の最前線で、目についた奴を片っ端から敵味方関係なく嬉々として蹂躙していそうな戦闘民族の末裔だろうが。


昼間に赤装束を一瞬でノシた事とか、ジジイ達の話を聞いた上で赤装束を脅して暴走したお前はマジものの戦闘狂だわ。


こんなん付き合ってられるかってんだ。



「ってことで帰るぞ桜田」


「オマっ!?」


「ござっ!」


「葵ちゃん!?」



意味のない無駄な逃走劇にマジで疲れたからさっさと帰る事にしようとしたんだけど、



『ギャァァァァァァァァァァァ──!!』


『助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ──!!』



近くでサッカーをしてた子供達の叫び声が聞こえてきた。



「なんだ?」


「子供の悲鳴?」



と思ってサッカーグラウンドの方に視線を向けると、



「紅葉氏!  アレ!!」


「あ”!?」


「マジかよ!?」



桜田が指差すそこには赤装束が居て、その足下には2人の大人が倒れていた。


悲鳴を上げながら散り散りに逃げる子供達。


そんな中、怖くて腰を抜かしたのか、1人の女性が赤装束の前で座っている。


しかも、赤装束が槍先を女性に向けていると言うヤバい状況。



「桜田!  魔法少女だ!」


「分かったでござる!!」



桜田が急いで鞄からドピンクのワンドを取り出して、



「輝け月!  煌めけ星!  照らすは太陽!  望むはマジカル──!」



頭上に掲げながら痛々しい変身呪文を詠唱する。



「──顕現せよ!  マッダ☆レぇぇぇナァァァぁぁぁああああああ!!」



ワンドを掲げて詠唱を終えた桜田は、アニメや特撮の魔法少女の様にキラキラ、ピカピカ光ったり輝く事はなく、ワンドから桜田の周りの風景と同色系のモザイクが降り注ぎ、みるみる全身を包み込む。



「桜田!  急げ!!」



そして、モザイクが段々と薄くなり、メガネっ娘魔法少女が姿を現した。



「ござっ!!」



と同時にグラウンドに向かって走り出し、



「は?」


「凄っ!?」



って言うか、凄い速さで空を駆けて女性の下へと向かって行った。



空を走るとかマジかよ!?



「葵ちゃん!!  私も行くぞ!!」



そして、この状況と変身した桜田を見て血湧き肉躍ったのか、戦闘狂が野へとリリースされた。


桜田を追ってグラウンドに向かって走るかき氷頭。


しかも、走りながら印を組み、



「【纏爪】っ!」



右手に紙の爪を発現させる。


流石に走りながら火を着ける事ができないのか、火を着けるために取り出したライターをポケットに仕舞う。


余りと言うか、マジで関わりたくないけど、モブな俺も渋々グラウンドに向かって走る。


空を駆け、赤装束と女性の間に降り立った魔法少女。



「やめろでござる!!」



桜田にワンドを向けられている赤装束は、急に空から降って来た桜田にも驚かず、桜田に向かって槍を突き刺そうと腕を絞るが、



「──っシャァァァァァァあああああああ!!」



遅れてやって来た雫が不意打ちドロップキック。


いきなり横からドロップキックをくらった赤装束は、槍を手放してグラウンドを転がる。



「葵ちゃん!  私も混ぜろ!!」


「木梨、氏……」



雫のいきなりな攻撃を見て驚愕する桜田。



って言うか、普通そこは、『私に任せろと』かじゃないのかよ……




お読みいただきありがとうございます。


モチベになりますので、☆やブクマを頂けましたら幸いです。

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