ストレスMAXでゲロ吐きそうなんですけどぉぉぉおおお!
結局──
俺達は八千流木さんの意を組んだパパさんによって強制的に追い出された。
まぁ、そうなるわな。
そんで、ブチキレた雫が家を出る時に、
『もう、パパとは一生口を聞かん!』
と言い放った事でパパさんが酷く落ち込んだ。
って事があったんだが──
「……オマエ、何するつもりだ」
──何故か俺達は捕らえられた赤装束の前にいる。
理力なるモノの使用を防ぐ為か、手足や身体をこれでもかと言わんばかりにロープで幾重にもガッチガチにグルグル巻きに縛られて猿轡をされ、真っ暗な蔵の中に閉じ込められていた赤装束。
ナニコレ?
住宅街のど真ん中でリアル拉致監禁ですか?
「決まってんだろ。 コイツにアジトの場所を吐かせて、私達が先に乗り込むんだよ」
「馬鹿だろオマエ?」
「木梨氏、僕は絶対に嫌でござる」
マジで頭のおかしいカキ氷頭。
何故にこうも訳の分からないおかしなベクトルに走るかね……
「黙れ。 連帯責任だ」
「責任って何だよ!? 何の責任だよ!?」
「コレは連帯責任じゃなくて道連れとか共犯の類いでござるよ!?」
ホント、雫はマジで生きる厄災だ……
「黙れ。 あいつらに手柄を渡してたまるか」
「手柄って何だよ!? ますます意味分かんねぇよ!」
「木梨氏! 落ち着けでござる! 僕達は一般ピーポーで── ま“っ!?」
「お“いぃぃぃぃいいい!?」
俺と桜田の言葉を無視するどころか、いきなり印を組み始めやがった!!
「【纏爪】!」
そして技名的な痛い厨二フレーズを唱えると、雫の右手の指先に折り紙が現れて、先を尖らせながらグルグルと巻きついていく。
そして左手にあるライターで紙に着火。
そんでもって炎の爪見参。
「「………………」」
こうなってしまっては、もう、何も言えない俺と桜田。
ここで俺たちが何か言えば、桜田は無いとして、俺は絶対に指先で燃えてるアレでもってブスリってやられるのは間違いない。
間違いないったら間違いない!
「オイ、オマエ。 今の話し聞こえていただろ?」
威嚇する様な殺気の篭った雫の冷たい声。
なんか、中学生の時に上級生にやられたカツアゲを思い出す……
そんな頭のおかしい行動をとっている、雫の燃え盛る指先から目が離せなくなっている赤装束。
雫の爪先に驚愕して、恐怖して、マジで怯えまくっていて、まるで陸に上がった魚みたいにジタバタもがいている哀れな赤装束。
木を折った時みたいなオラついた勢いは何処へ行った……
ぶっちゃけ、赤装束が必死にもがく気持ちは分からなくもない。
こんなイカれた酔っ払いのカキ氷頭に殺生与奪を握られるとか、ほとんど死んだも同じだわ。
って言うか喋る息が酒臭い。
俺だったらこんなイカれたヤツに何かされる前に、地面に頭ぶつけて自害するね。
「そんで、オマエらのアジトは何処だ?」
雫の声?感情?に合わせて、燃え盛る炎の爪に強弱が出て揺らめいている。
って言うか、股広げてウンコ座りで、炎の爪のある右手をこれ見よがしにチラつかせてる。
反社の輩と同じ、いや、それ以上にタチが悪い。
コイツは、全然、全く、1ミリも、決して善良な一般市民なんかじゃないと確信。
俺と同じ事を思っているのか、桜田が顔を青ざめさせながらドン引きしている。
「今から口の縄を解くから大人しく情報吐けよ? でないと燃やすかんな?」
吐けって何だよ!?
燃やすってなんだよ!?
こんなんどう見ても命の選択じゃねぇか!?
って言うか桜田がストレスMAXでゲロ吐きそうなんですけどぉぉぉおおお!!
オマエの好きな不細工な豚が、より不細工に頬をパンパンに膨らませながら、喉元をオェップオエップさせているぞ!!
大好きな豚をも無視して、赤装束の猿轡に手をかける雫。
流石は戦闘民族の血を引く末裔。
どうやら、安らかな愛より波乱だらけの戦いの方に天秤の針が振り切れまくっているらしい。
「私の質問以外に声を出したら…… 分かってん、だろ?」
右手を赤装束の顔に近づけて、拭いきれない恐怖を植え付けると言う作業中のカキ氷頭。
そして、口を抑えて蔵の外へとダッシュした豚。
同時に外から『オロロロロロロ! オロロォォォオ!!』って言う、
「………………」
聞きたくない不快な音が聞こえてきた。
外に出て豚を介抱してやりたいが、雫から目を離したらマジで何するか分からないから、仕方なく蔵に残る。
決して、豚の着ているTシャツが、エアコンのない蒸し暑いサウナの様な蔵によって汗でビチョビチョになっていて、あまりと言うかカナリ触りたくないから、と言う訳では決してない。
足下の赤装束は、雫の燃え盛る指先にビビりまくって、壊れた民芸品の様に首を何度も縦に振っている。
「ヨシ。 洗いざらい吐き出せ」
そして雫が猿轡を下げた瞬間、
「「!?」」
「オロロロロロロっ──!! オロロォォォォオオオ──!!」
赤装束が胃の中のモノを床へと洗いざらいぶちまけた。
「………………」
「テメっ!? いきなり何すんだ!! 死にてぇのか!」
「ブボ、ゴベンナダイ! ゴベンバザイ!」
怒る雫に鼻水を垂らしながら涙目で必死に謝る赤装束。
蔵の中に立ち込める酸味の効いたすえた臭い。
ヤバイ……
俺の喉元にも押し寄せる何かが……
流石の雫もこの臭いには耐えきれないのか、赤装束の足首を掴んで引き摺りながら蔵の外に出た。
「アダ! イダっ!」
引き摺る雫は、段差で無防備に顔を打ち付けている赤装束にも何のその。
出た外は外で、焦燥しきって燃え尽きている、汗だくで虚な目をした桜田が壁にもたれて座っていた。
地獄絵図かよ……
しかし、雫の尋問はまだまだ続く。
「オマエ、ここまでやっておいて私に嘘ついたら、分かってんだろうな?」
涙目で必死に首を何度も縦に振る赤装束。
って言うか、
「オイ! オマエが忍術使ったせいでジジイ達に気づかれたっぽいぞ!」
母屋の方から慌てる様な八千流木さんの声が聞こえてきた。
「チっ── さっさと吐け! アジトは何処だ!」
悪びれる様子もなく露骨に舌打ちをし、炎の爪を赤装束の顔に翳す雫さん。
「ととと、東京タワーです!」
「巫山戯んな! んな目立つ様な所にアジトなんてある訳ねぇだろうが! 適当な事ぬかしてっと刺して焼くぞ!」
今度は爪を眼球に近づける雫さん。
「ほ、ホントです! 東京タワーの地下駐車場のDの場所にある配電室を装った扉の中の奥に、地下に続く階段があります! そこの先がアジトです!」
雫が恐怖すぎるからなのか、出会った時の何処かの方言な喋り方が消え、訛った標準語でキビキビ喋る赤装束。
「雫っ! ジジイ達が来るぞ!」
「チっ── 撤収だ」
撤収、って……?
何処の特殊部隊の者だよオマエは……?
「そんじゃ── オマエはもう少し寝てろ!」
そう言う雫が、
「アガっ──!?」
いきなり赤装束の首に手刀を入れ、
「──オマっ!?」
気絶させた。
って言うか、初めて見たわ生“クビトン“!!
マジでヤベーぞコイツ!?
流石にこの状況はマジでマズい。
絶対に俺まで共犯者に思われる。
って事で、
「クソ!? 桜田! 逃げるぞ!」
俺はこの場から取り敢えず逃げる!
「葵ちゃん! 急いで!」
「え? へ? ちょ、ちょっとぉぉぉお!? 何処行くでござるかぁぁぁあ!? 待つでござるよぉぉぉお!!」
勿論、やらかしている雫もこの場から逃げる。
俺と雫が走りだすと、座っていた桜田も慌てて立ち上がって俺達に着いてくる。
って言うか、イカれた雫の暴走のせいで、こうして、俺達はこの世の裏世界に足を踏み入れることになってしまったのであった。
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