俺の感動を返せぇぇぇえ!
俺と桜田の両親は両家共に共働きだった。
幼稚園、小学校と、一人で家に居れる歳になるまでの間、雫の家で夜遅くまでよく世話になったもんだ。
しかし、実際問題、この家族(主にジジイ)は俺と桜田の家族の中でも問題の種だった。
この光景を見ても分かる通り、ジジイの素行と口が悪すぎるプラス、何も知らない子供の俺達は、色々と日常ではやらない様な事を当たり前の様にジジイに教えられてきた。
例えば、さっきの訳の分からない修行紛いなウェルカムサプライズ然り、広い土地を利用してのサバイバル術とかである。
火の起こし方。
水の確保のし方。
縄や道具の作り方。
寝床の作り方。
罠の作り方。
家畜の捌き方。
食べられる物の見分け方。
等々……
これだけであれば自然を愛するボーイスカウトっぽく見えるんだけど……
隠れんぼと称した、追手の捲き方と隠れている相手の探索の方法。
鬼ごっこと称した、逃げる相手への攻撃の方法。
氷オニと称した、相手の攻撃を躱す方法。
高オニと称した、高所での移動の方法。
等々、遊びに混ぜ込められたトチ狂った訓練の数々。
ジジイは正に、少年兵を育てるイカれ軍曹さながら、訓練紛いの事を俺達にさせ続けた。
そのせいで、桜田は日々の疲労によって過剰にカロリーを摂取し始めて瞬く間に肥え太り、俺は俺で逆にいくら食べても太らなくなった。
雫は……
まぁ、アレだ……
ジジイと同じDNAだからな……
コレに見かねた双方の親がやんわりと文句を言うも、成長期の一言で片付けられて今に至る。
桜田ん家は金があるから、ぶっちゃけ面倒を見てくれるお手伝いさんとか家庭教師をつける事もできたんだけど、雫の母親がそんじょそこらの教師や塾講師では敵わない程の大学教授で、雫ママに勉強を教わっていた俺達は、小中高と常に学年トップ10に入る成績だった。
コレに俺達の両親は味をしめ、このチグハグでイカれた場所に通わせる事に懸念を感じなくなりやがった。
流石に中学からは毎日通うって訳にはいかなくなったけど、最低でも週2、3回は来ていたな。
週2、3回ってのもまぁ、小学生の時みたいにジジイと遊ぶ事は無くなり、雫の母親が家に居る時に合わせて勉強を見てもらいに行ってただけだし。
そんな、何処か普通とは一味違うおかしな家庭。
それが木梨家。
………………
…………
……
…
雫も来て皆んな喉を潤して一心地ついたところで、
「そんじゃお前ら。 今から俺が大切な事を話すから耳の穴かっぽじって良く聞けよ」
「いきなり何しきりだしてんだこのジジイ?」
「かっぽじるどころか補聴器を必要としてるのはジジイの方だろうが。 グビグビ──」
「ついに介護施設行きを決めたのでござるか?」
「お前ら……」
俺達の態度や物言いにムカついたのか、口角や目尻をヒクつかせながら固まるジジイ。
「クソ! 最近のガキ共は老人への態度が全くなっていないなぁ! 一体どんな教育を受けたらこう言うダメな若者が育つんだろうなぁ!」
「ハイハイ。 鏡見ながら同じ事を自分に言えよジジイ。 グビグビ──」
「むぐぅっ!?」
雫の口撃反射が炸裂して、自分の放った口撃を直撃でモロに喰らったクソジジイ。
人呼んでブーメラン。
「黙れ黙れ!! とにかく今から大事な事を言うから静かに黙って聞いていろ!」
大声を上げて場の空気をぶった斬ったジジイ。
自分が一番ガキじゃねぇか……
「何を急に熱くなってんだ? グビ──」
「血糖値や血圧より大事な事ってなんだよ?」
「介護施設への入居相談でござろうな」
「ぐぬぬぬぬぬ──!!」
どうせ碌でもない事を言うに違いないと、俺、桜田、雫は、エアコンの効いた部屋で注目を集めようとするジジイを無下にして其々がダラダラ寛ぐ。
「もう良い! とにかく言うだけ言うからな! 勝手に聞いて勝手に判断しろ! 知らんぞ! 俺はもうお前達がどうなっても知らんからな!」
全く言う事を聞かない俺達にスネたジジイ。
「そこの嬢ちゃんから話を聞かせてもらったところ、お前達は非常にマズイ奴等に目をつけられたぞ!」
「あぁん? マズイ奴等に目をつけられてんのは、私達じゃなくてそこの刑事さんだろ?」
「いや、お前達は、その刑事さんに目をつけられてしまってんだよ」
「なんでだよ?」
「どうしてでござるか?」
ジジイはそう言いながら、軽く八千流木さんに視線を向ける。
「あ〜。 なんて言うか、裏話しとか都市伝説の類いなんだが、【浦島太郎】は知っているよなお前達?」
「知っているも何も…… 都市伝説な浦島太郎ってどんな設定のお話だよ……」
「マジでボケたかジジイ? 【浦島太郎】は都市伝説でも裏話でもなくて、御伽話だろうが。 グビグビ──」
「童話でござるよ」
「あぁ。 そうそう童話で御伽話なヤツな」
浦島太郎の都市伝説って、逆に気になるわ……
「ってか、なんでいきなり浦島太郎の話になってんだよ?」
「ってか、3分も経ってないのに話がすり替わるとか、ガチでボケたかジジイ。 グビグビ──」
「アスペでござるな」
「クっ──!」
面白いくらい誰にも相手にされていないクソジジイ。
「──もういい。 俺がボケたでも何でもいいから、取り敢えず黙って話を聞け。 お前達は浦島太郎の最後は知っているか?」
「話を聞けって言っておいて、なんでいきなり質問してきてんだよ? ってか、なんで浦島太郎の話をまだ引っ張ってんだよ?」
「玉手箱を開けてお爺さんになるでござるな」
「まさか、ジジイが浦島太郎って話じゃねぇよな? カシュっ──!!」
「んな訳あるか!」
俺達と話をしながら、
「でもまぁ──」
ジジイは再度、八千流木さんに顔を向け、
「──この嬢ちゃんは浦島太郎の最後の続きを知っているかもだなぁ」
「「「………………」」」
ニヒルにニヤリって笑っている。
本人はカッコ良くしているつもりなんだろうけど、俺にはどう見てもボケた変態にしか見えない。
雫や桜田も俺と同じ事を思っているんだろうな。
って言うか、最後の続きってなんだよ?
終わりの始まりかよ?
「お前達はこの嬢ちゃんの所属先は聞いたんだろ?」
「あぁ。 警視庁のナンタラ言うエライ長いヤツだったけど、ソレが何だよ? グビグビ── 刑事さんだろう?」
新たな酎ハイを煽りながら雫が適当に答える。
って言うか何本目突入だよ!?
「【警視庁特別災害部特殊対策課所属、異能者統括並びに鎮圧部隊】──」
八千流木さんを見ながら、一息で一気に長いナンタラな所属先をドヤ顔で言うジジイ。
「──通称、【浦島機関】」
「うぅ……」
そして、ジジイが付け足した、聞きなれない言葉に頭を下げて縮こまる八千流木さん。
「はぁあ?」
「あぁん?」
「んん?」
怪訝な顔になる俺達。
しかし、
「【浦島機関】って何だよ? 通称って何だよ? 絶対、今考えただろ?」
「此処でなんで浦島が出て来るんだよ? グビグビ── アホか?」
「全く面白く無いでござる。 こじつけ過ぎが酷いでござるな」
ジジイはまたしても俺達に責められる。
「カァっ──!?」
怒りや哀しみと言った感情のベクトルが出口を失ったのか、怒ってるのに悲しそうな顔で固まるジジイ。
そんなジジイの話を全く聞かない俺達を見かねたのか、
「コラコラ、お前達。 全く興味が無くても、少しはお義父さんの話しを聞いてあげろい」
哀れなジジイに救いの手を差し伸べる雫パパ。
「だってパパ……」
「だよなぁ……」
「ござる……」
ジジイに強く、パパさんに弱い俺達。
だって、ジジイとパパさんでは信用度が桁外れなんだもん!
「お義父さんも、いちいち勿体ぶらずにちゃんと説明してあげないと」
「ふぐぐぐぐぐ──!」
「今時の子供って言うのはそこんトコシビアなんですよ。 出だしから興味を持たせてあげないと、聞いてくれないし見向きもされない。 飽きたら次、面白くなくなったら次ってね──」
やっぱり流石だな雫パパは。
世代や時流ってのを分かってる。
あの雫ママが選んだだけの事は──
「──って、有名な某売れっ子ユーチューバーが言ってましたよ!」
「「「「ユーチューバーかい!?」」」」
ジジイも含め、全員雫パパに驚愕。
俺の感動を返せぇぇぇえ!!
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