俺を桜田と同じ枠に入れてんじゃねぇよ!
いやぁ~。
いつ来てもクッソ広いなこの家は。
母屋に到着する前に軽く竹林を抜けるってどんだけだよマジで。
車を使えばスグなんだけど、これを毎日徒歩で行き来とか、雫がコンビニの裏に自室のプレハブを建てたり、速攻で原付きや車の免許を取った気持ちも正直分かる。
ホント、正門から母屋までの道のりが結構ある。
小さい頃は、雫の荷台付きのチャリに乗ったり、セグウェイで移動したりして冒険気分で楽しかったけど、大人になるにつれてマジで面倒クサくなるなコレは……
真夏日が溢れる竹林をゆっくりと歩き、やっとのことで母屋に到着。
上下ピチピチ姿の豚は汗だくで、全身黒尽くめの八千流木さんも額に結構な量の汗をかいている。
って言うか、こんな真夏日に全身黒尽くめな上にフーデッドパーカーとか、減量中のボクサーなんですか?
大学に入ってからは、大体がコンビニ横の道場か雫のプレハブで集まっていて、母屋に来るのは結構久しぶり。
等と懐かしく思いながらも引き戸を開ける。
「「………………」」
そして、反射的にサッとドアの前で身構える俺と桜田。
そんな急に変な動きになった俺達へと、
「どうしたんですか? 入らないのですか?」
と、不思議そうな顔をする八千流木さん。
「いえ、ちょっとした癖で……」
「癖と言うよりもトラウマでござるな……」
「はぁ?」
前後左右上下を、しっかり、隙なく、くまなく見回して、
「おじゃましまぁ~す」
「ござる~」
安全と分かったら気持ち程度に小さな声で来訪を告げて中に入る。
「お邪魔、します……? どうしたんですか一体……?」
「出るんですよ」
「そうそう。 出るんでござるよ」
「はぁ? 何がですか?」
靴を脱いで玄関を抜け、周囲を警戒しながらゆっくりと静かに忍び足で廊下を歩き、
「一体、何をそんなに警戒しているのですか?」
「しっ! 静かに!」
普通に声を出す八千流木さんの言葉を遮り、襖を少し開けて隙間から中の様子を伺う様に視線を彷徨わせる。
そして居間に誰も居ないのが分かり、
「まぁ、この家には色々とありまし──」
緊張を緩めて襖を開けた瞬間、
「──ふごぉ!?」
「ブヒャィ!?」
俺と桜田の頭の上に大きな金手洗が落ちてきた。
「ふぇぇぇえ!?」
この異様な光景に恐れ慄く八千流木さん。
「かぁ~っ。 幾つになってもダメだな、お前らは」
外観は古そうな武家屋敷だけど、俺達が居る居間は何故か南国ハワイアンスタイル。
そんなエアコンの効いた異国を感じる居間の中には、さっきは誰も居なかった筈なのに、一体どこから現れたのか、カン酎ハイを片手にソファーに座って足を組み、ニヤニヤと楽しげに笑うアロハシャツに短パン姿のクソジジイ。
そう、コイツはこの家の当主にしてハワイフリークな雫の爺さん。
俺と桜田は雫の家に来る度に、小さい頃からこうやってこのクソジジイに悪戯されていた。
最早トラウマレベルにまで昇華し、この家に来て普通に『おじゃまします』が言えない体質になってしまった。
「黙れクソジジイ!! 久しぶりに来たってのになんて事してくれんてんだ!?」
「カっカっカっカっ── 鍛錬は1日にして成らずだ」
「いつもいつも、一体、なんの鍛錬でござるか!? そんなのは木梨氏だけにしていろでござるよ!」
「お? 今日は知らぬ御仁も一緒なのか? お前達誰かの恋人か?」
「ま”!?」
「ブヒぃ!?」
「え?」
初対面でいきなりなんて事を言うんだこのクソジジイは!?
って言うか、八千流木さんがすっごい嫌そうな顔してんですけどぉぉぉお!?
「まぁ、ソレはないか。 お前達みたいなのに彼女ができた日にゃぁ、世の中は須らく終わったも一緒だからなぁ。 カっカっカっカっ──」
「クソジジイぃぃぃい!! 俺を桜田と同じ枠に入れてんじゃねぇよ!!」
「それはコッチの台詞でござるよ!!」
怒れる俺達を見ながら、心底どうでも良いという雰囲気を醸し出している八千流木さん。
最早、気にもされないレベルって事ですね……
「おう。 嬢ちゃん。 そんな遅かれ早かれ自然に淘汰されるであろうゴミ共は無視して、コッチ来て座んな」
サラッと毒を吐きながら、自分の横をポンポン叩くクソジジイ。
「は、はぁ?」
呆れまくっている八千流木さん。
「おい。 豚ぁ! 嬢ちゃんに飲み物持って来い! モヤシは茶菓子取ってこい!」
「俺達は客だぞ!?」
「そうでござる!」
「そんじゃお前達だけ今すぐ帰れ」
「「…………………」」
孫と言い、このクソジジイと言い、自由きまま過ぎるぞコイツら!
雫の口や素行が悪いのは確実にコイツのせいだ!
と思いつつも、このジジイに逆らうのは面倒臭いので、
「クっ── 覚えてろよクソジジイ!」
「いつか復讐してやるでござる!」
「言ってろ。 口だけの腑抜け共」
俺と桜田は毒づきながら渋々と言った感じで台所へと向かう。
………………
…………
……
…
「……さて嬢ちゃん」
紅葉と桜田が居間から出て行ったのを見届けた爺さんは、
「アイツらが居ない内に手短に説明してもらおうか?」
笑顔から一転、見透かす様な鋭い視線を八千流木へと向けながら、ゆっくりと覇気の籠もった重たい声を発した。
………………
…………
………
…
俺と桜田が台所で飲み物と茶請けを物色し終えて居間に戻ってくると、険しい表情の爺さんと下を俯く八千流木さんの姿が。
「うわ…… なんでござるかこのクッソ重い空気は」
「どうせジジイがセクハラでもしたんだろ?」
「サイテーでござるな」
俺と桜田はジジイにドン引き。
「バカ共め。 己のその発言がセクハラとも知らずに述べよってからに。 全く、なんと薄い責任と知識だ」
いつもヘラヘラと笑いながら冗談を言ってチャラけているジジイの癖に、何故か微塵も笑わずに正論を述べやがった。
「ヤバいぞ桜田…… ジジイが真っ当な正論吐いて論破してきたぞ……」
「コレはヤバいでござるな…… やっとお迎えが来たようでござるな……」
「お前が今すぐ精肉業者に迎えられろ。 豚」
「ブヒィ!?」
相変わらず辛辣なジジイだぜ……
って言うかそれよりも……
「そんじゃ、なんなんだよこの空気は?」
「まぁ、丁度、雫達も来た事だし、纏めて一緒に説明するとするか。 良いか?」
ジジイが八千流木さんへと睨む様に視線を向けると、
「はい……」
頷きと一緒に、か細く小さな声の返答が帰ってきた。
そして、
「葵ちゃぁぁぁ〜ん!! キンキンに冷えた水くれろ~!!」
雫のアホみたいな叫び声と共に、玄関先が騒がしくなった。
ドタドタと酷く五月蝿い足音が近づいて来て、勢いよく居間の襖が開け放たれる。
「みずぅ~!! 水をくれぇぇぇぇえ!!」
「木梨氏……」
汗だくで舌を出し、暑さによってゾンビの様にダラけている雫。
そしてサイドテーブルにある飲み物を見るやいなや、
「みずぅぅぅううう!!」
脇目も振らずに飛びついた。
「オマっ!? ソレは俺のだから!!」
カン酎ハイに……
「ウルセぇ! ジジイ!! 可愛くて愛しい孫が喉乾いて死にかけてんだぞ!!」
「だったら水を飲め!!」
「グチグチ小せぇ事言ってると寿命が縮むぞ! ってか今すぐ死ね! ングっングっングっングっ──」
「オマっ!? 実の祖父に向かってなんて事を!?」
「──プフぁぁぁあああ!! 生き返ったぁぁぁあああ!!」
このジジイにしてこの孫あり……
口と素行の悪さはDNAレベルでの問題だから仕方がない、のか……?
そんな雫は一瞬にしてロング缶を一気に飲み干し、八千流木さんはこの荒んだ家族にドン引きしていた。
お読みいただきありがとうございます。
本作品は、基本、土日以外の投稿になります。
投稿時間は基本、10時で、18時の場合もありますです。
一応、4月頭くらい迄は、土日以外は予約投稿埋まってますので、引き続き、息抜き?箸休め?なノリでお読み頂けましたら幸いです。
モチベになりますので、☆やブクマを頂けましたら幸いです。




