懲役は500年くらいでお願いします!
「私は! 【警視庁特別災害部特殊対策課所属、異能者統括並びに鎮圧部隊】の者です!」
「……え?」
「……は?」
「……ナニソレ?」
いきなり、クッソ長いお経なのか早口言葉なのか分からん事を噛まずに一息で言い放った八千流木さん。
雫が言うように、マジで『ナニソレ?』って感じだ。
「私は、先日の赤装束達による無差別テロの際に観測された、膨大で異質な力を追っていました!」
「「「は?」」」
重ね重ねご丁重に、ナニソレ?
異質な力を追って来たって、ナニソレ?
ってか、異質な力って、ナニソレ?
八千流木さんのイキナリでイキナリなイキナリすぎる事に訳が分からない俺達は、呆けた顔を八千流木さんへと向ける。
何言ってんのこの人?
頭オカシイの?
ってな具合に俺達が顔を見合わせていると、
「その力を追っている途中、赤装束の一味と接敵し戦闘となりながらも、力を感じた場所を確認する為に向かっていました!」
何故かドヤ顔で説明を続ける八千木さん。
「いや…… マジで意味が分からん……」
「同じく……」
「僕も……」
「っク──!?」
ドヤをキメていた八千流木さんは、やっぱりと言った様な少し恥ずかしさが籠もった赤い顔を下げ、俺達を上目で睨む。
「スゥ~、 ハァ~──」
そして大きく深呼吸をして、
「先日の森林公園で観測されましたものと同じ異質な力を感じ、千羽さんの供述にありました魔法少女なる者が居ると思い、この辺にやって来た次第なのですが……」
何故か俺に爆弾投下。
そして桜田と雫に睨まれる俺。
「いや、言うでしょ!? だって、警察の調書なんだよ!? 質問なんだよ!? って言うか、カフェの監視カメラにバッチリ映っていたんだよ!?」
って言うか、全部お前のせいだからな豚ぁぁぁあ!!
「あうぅぅ……」
そして豚も雫に睨まれる。
ザマァ!
「え、え~っと…… 赤装束も何かを探しにこの辺にやって来てたのか、途中でバッタリ会って交戦となりました。 しかし、不甲斐なくも私の力が及ばず…… この度はご迷惑をおかけし大変申し訳ございませんでした!」
そんな雫に睨まれている俺と桜田が目に入らないくらい、八千流木さんが深々と頭を下げる。
「交戦って…… って言うか、魔法少女が居ると思ったってなんですかそれ……?」
頭を下げていた八千流木さんが顔を上げ、
「はい。 我々、【警視庁特別災害部特殊対策課】は、先の魔法少女の行方を全力で追っております!」
うわぁ~……
桜田、警察組織から全力で指名手配くらってんじゃ~ん……
【悲報】 魔法少女、1日経たずに指名手配。
横にいる桜田にチラリと御愁傷様的な視線を向けると、悲壮を顔全面に貼り付けて、顔を青ざめさせている青いブタ。
うん?
新しい品種豚ブランドの爆誕か?
そんな青ブタに雫が『ガシっ』て肩を組んで、『コレコレ! こう言うのを待ってました!』と言わんばかりに楽しそうに目を輝かせている。
マジモノの生粋の戦闘民族じゃねぇか……
って言うか、コイツが絡むと余計ややこしくなりそうだ……
「しかし、監視カメラに映っていました魔法少女なる者の姿は此処には無く、代わりに、千羽さんと桜田さんが居ました。 これは明らかに──」
「──おい。 無視すんなよ。 私も居るだろ」
何が気に食わなかったのか、何故かプチギレ気味に自分も付け足そうとする雫。
笑ったり怒ったりと、マジで情緒が不安定すぎるカキ氷頭。
このまま黙ってりゃ良いものを、自ら渦中に入ってくるとかマジで馬鹿なのかコイツは……?
「はヒィ!? ハイ! 貴女もいました!」
そして、そんなサイコパスに盛大にビビる八千流木さん。
もう、恐喝罪でも公務執行妨害でも何でもいいから、このイカれたカキ氷頭を早急に逮捕して隔離してほしいものだ。
懲役は500年くらいでお願いします!
もしくは、封印術式かなんかで、魂が枯渇するまで井戸の底にでも閉じ込めておいてください!!
宇宙空間に飛ばすってのもアリです!!
「それで、警察が魔法少女を追っていると言うのは分かりましたけど、なんで赤装束も此処に? もしかして、赤装束達も魔法少女を?」
取り敢えず、雫にビビって思考が鈍っただろうから、少しだけ話しの方向を逸らしておく。
このままでは、またしても此処に居た『俺・桜田』=『魔法少女、若しくは関係者』って言う構図が出来上がりそうだしな。
って言うか、今回で雫が対象に加わった感じか?
素手で赤装束をブっ飛ばしたから、これで雫が魔法少女濃厚路線に突入だな!
ザマァ!
「あ、う…‥ も、申し訳ございませんが…… 機密事項の為そこまでは……」
一瞬言い淀むも、八千流木さんは情報を秘匿して下を俯く。
まぁ、どうせそうだろうとは思っていたし、情報が貰えればそれはそれで良しだったのだが……
なんで豚(魔法少女)は警察や赤装束に狙われてんだよ?
警察の情報秘匿と言う伝家の宝刀を出された俺達は、これ以上どうすることもできずにモヤモヤを抱えたまま無言となる。
そんな中、
「おい! バカ娘っ!! さっきの音はなん──!?」
雫パパのご登場。
「──なんじゃこりゃぁ!? なんで木が倒れてるんだよ!?」
そしてやっぱり折れて倒れている木に驚く。
「ウッセぇぞパパぁあ!! 木が倒れているくらいでギャーギャー騒ぐな!」
いや、自分家の木が折れて倒れてたら騒ぐだろ普通。
「雫ぅぅぅう!! お前の仕業かぁぁぁあ!!」
「チゲぇーよっ!! か弱い私がこんなんできるかっつうの!!」
「嘘だな!! 絶対にお前の仕業だな!! お前がか弱いとかどんな詐欺だよ!!」
アラアラ、マァマァ。
おパパ様は全てお見通しでございますなぁ。
「巫山戯んなよ!! 詐欺はパパの声と見た目だろうが!!」
倒れた木を挟んだ向こう側からは、野太くて如何にも厳格で厳つい ”THE 漢“ って感じの声が聞こえてくるけど、
「黙れ黙れ!!」
ガサガサって音を立てながら倒れている木を跨いで現れたのは、
「ママが帰ってきたら言いつけてやるからな!」
草食系な見た目の、身体の線が細い優男。
雫パパのご登場だ。
「か!? ママは関係ないだろ!! って言うか、私じゃねぇって言ってんだろ!!」
「お? 葵ちゃんに紅葉くん! 久しぶりだねぇ」
「お、お邪魔しています……」
「パパさん…… お久しぶりでござる……」
雫もそうだが、雫パパの見た目と中身の差も結構凄い。
しかも、この発せられてる野太くて厳つい声なんて、誰がこんな童顔で華奢で草食系な男性を想像できるだろうかってくらいのギャップがある。
「それで、葵ちゃん、紅葉くん。 雫は何をやってこの木を倒したんだい?」
いつもの事ながら、全く親に信用されていない酔っ払いなカキ氷頭。
そりゃぁ、真っ昼間からカン酎ハイをしこたまあおってりゃ、信用もクソも何も無いわな。
「だぁかぁらぁ!! 私じゃねぇって言ってんだろぉがぁ!! 倒したのはコイツでぇっ!──」
雫は怒り心頭といった具合に、ビシぃって白目を剥いて倒れている赤装束を指さした後、
「──原因はこの人ぉっ!!」
俺の後ろに居た八千流木さんへと指先を移した。
「………………」
雫パパは細い切れ長の目を開いて倒れている赤装束に視線を向けた後、全身黒ずくめな八千流木さんへと顔を向ける。
「ほぉう。 ほ~ほ~ほ~ほ~。 ほぉ──」
「分かる言葉を話せよ!! 梟かよ!!」
雫パパは倒れている赤装束を足先でつつきながら、顔を隠していた赤い布をじぃ~って見て思案顔となった。
そして、右手を左肩に乗せて首を横へと傾げ、面倒臭そうにゴキリって首の骨を鳴らす。
「よし! 皆んな居間に行くぞ!! お茶だお茶!! お茶パーだ!!」
「え?」
「雫はロープ持って来い!」
「なんでだよ!! ってか、お茶パーってなんだよ!?」
「お茶パーティーに決まってるだろ? ロープはコイツを縛っておくからに決まってるだろ?」
マジで親子だな……
「うわぁ……」
いや、なんでお前がドン引きしてるんだよ?
ぶっちゃけ、パパさんはまんまお前と同じ感じだからな!
そんな我が子にドン引きされている雫パパは、
「うわぁじゃない。 いいからさっさと取って来い」
満面の笑顔で静かに雫にロープを取って来いって言っているけど、
「……分かった」
何故か雫は少し怯えた様子を見せながら素直に何処かへと走って行った。
「それじゃ、僕は雫と一緒にコイツを縛ってから行くから、葵ちゃん達は先に居間に行ってお茶の準備しておいてくれぇい!」
「相変わらずセルフサービスでござるな……」
「僕の分はカルピスを!」
「分かったでござる。 いつも通りの割合で良いでござるか?」
「うん! 1:1で!!」
「んじゃ、おじゃましてきま~す」
まるで我が家の様に庭の中を歩き始めた俺と桜田。
そして八千流木さんは、雫パパに一礼した後に俺達を追っていそいそと歩みを進める。
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