お前の方がよっぽどバグってるわ!
「無難でコレとか…… 葵ちゃんの魔法の方はもっと凄いって事か……」
何故か既にお腹一杯と言った様子の雫。
そして酔いが軽く覚めたのか、横のコンビニまで桜田をパシってロング缶の追加を買いに行かせた。
コイツの愛ってなんなんだろうな……?
「あぁ。 俺が言うのもアレだけど、桜田のはマジでヤバイぜ。 お前、驚いてウンコ漏らすぜ」
「ハっ。 馬鹿言えモヤシ。 レディーが驚いたくらいでウンコ漏らす訳ねぇだろ?」
「そもそもレディーはウンコ漏らすってワード自体を口に出さないと思うぞ」
「お前、レディーを一体なんだと思ってんだ? ってか、レディーにどんな幻想抱いてんだよ? マジでキモイわ」
「………………」
対面でタバコをふかしてる、イカれた髪型のメンヘラサイコパスに対して湧き上がってくる怒りと殺意を抑えながら、俺は桜田の帰りを静かに待つ。
桜田よ、早く帰って来てくれ……
数分後、雫のパシリに行っていた桜田がアイスを咥えながら帰ってきた。
色々あったせいで、ピッチピチの格好は既に気にならなくなったご様子だ。
「葵ちゃんサンキュー。 葵ちゃんも飲む?」
「遠慮するでござる……」
「そか! よし! それじゃ、次、葵ちゃん張り切っていってみよぉ〜」
「「………………」」
酒が追加接種された雫のジャイアニズムによってこの場は瞬時に恐慌支配され、反論できずに桜田が無言でベンチから立ち上がる。
「よっ! 待ってました! 葵ちゃん!」
雫が場末のスナックにいるおっさんみたいにピィーピィー指笛を吹いて桜田を煽る。
「それでは、 桜田 葵。 “魔法使い”、をやるでござる……」
え?
ナニこの一発芸をやるみたいな雰囲気!?
しかもなんで魔法使いって言ってんだこのアニ豚は!?
違うだろ!?
桜田はそう言いながらカバンの中からドピンクな魔法少女ステッキを取り出した。
「葵ちゃん、本格的じゃん!」
「………………」
いや、本格的も何も、まんまソレな感じのアレだから……
魔法使いじゃないから……
やはりと言うかなんと言うか、女の子は魔法使いイコール朝の特番な感じなアレだと思っているんだろうな。
そして桜田は魔法少女ステッキを高々と頭上へ掲げ、
「輝け月! 煌めけ星! 照らすは太陽! 望むはマジカル! 顕現せよ! マッダ☆レぇぇぇナァァァぁぁぁああああああ!!」
痛々しい起動ワードを唱えた。
瞬間、桜田の身体がモザイクによって包まれ、全身放送禁止状態に。
「ギャハハハハハハハハ── モザイクかかってるよ葵ちゃん! マジウケる〜!!」
そして大爆笑する酔っ払い。
アホみたいに痛い呪文を唱えた後に全身をモザイクで包まれたら、そりゃ、大爆笑もするわな。
そして次第に桜田のモザイクが晴れていき、雫が爆笑しながらタバコに火を着けようとしたところで、
「ギャハハハハハハハハ── ハハハハハハ…… ハ?」
絶世のメガネっ娘美少女が姿を現した。
「………………」
桜田の変わり果てた姿を見て火を着けるのも忘れ、タバコを咥えながら盛大に顔の表情筋を固まらせている雫。
「どよ? カナリぶっ飛んでんだろ? 無難ってのがどれだけ大切なのかって事が分かっただろ?」
「………………あぁ」
「イヤイヤイヤイヤ! 紅葉氏の方がカナリぶっ飛んでるでござるよ! 無難がバグって崩壊しているでござるよ!」
変身を終えた美少女桜田が、鈴の音の様な可愛い声で反論してきた。
「巫山戯んな! なに、人をバグ扱いしてんだよ! 魔法少女にTSするお前の方がよっぽどバグってるわ! ってか、人をバグ扱いする前に雫に魔法見せてやれよ!」
「……分かったでござる」
美少女桜田が雫の側へと歩いて行き、雫が咥えているタバコへと向かって徐に指を立てて翳す。
そしてステッキが輝いて桜田の指先に火が現れ、
「どうぞでござる」
天使の様な笑顔で雫へと微笑みかける。
「あ、ありがと、う……」
立てた指が中指なのは何でなんだろうな……?
桜田の天使の微笑みを見た雫は、照れて顔を火照らせながら、咥えているタバコに火を入れた。
「どうでござるか? コレでどれを選ぶか参考になったでござるか?」
「あ、うん…… ありがとう……」
は?
ナニこの雫の反応?
まるで、借りてきた猫みたいに大人しくて素直なんだけど……?
そんな急に大人しくなった雫は、何故か素直に自分のスマホの画面のロックを外す。
「んで、お前。 コレ見ても、マジでダウンロードするつもりなのか?」
「黙れモヤシ。 こんなの見せられてヤメる訳ねぇだろ。 こんなん毎日が楽しくなる事間違いナシじゃねぇか。 馬鹿か? アタマ涌いてんのか? クソモブなのか?」
「………………」
ナニコノ桜田との扱いの差……?
ってか、桜田が魔法少女になってから、余計に当たりが強くなってねぇか……?
「どうなっても俺は知らんからな…… 何が起こっても俺の責任にだけはすんなよ」
「巫山戯ろ。 モヤシなお前が責任を語るな。 お前が取れる責任なんて、朝顔の水やり以上、グッピーの餌やり以下だろうが」
「オマ──っ!?」
「責任なら葵ちゃんにとってもらうから」
そう言う雫は、照れながらチラチラと恥ずかしそうに乙女な視線を桜田へと向ける。
「ブヒィ!?」
そして、
「そんじゃ、私はコイツに決ぃぃぃ〜めたっ!」
どこぞのモンスター調教師の様に意を決して画面をタップ。
雫がタップしたアイコンは、角度的に俺と桜田からは見えない。
コイツが何を選んだのかカナリ気になって、俺は自分のタブレットでブクマしているURLをタップしてサイトへ入る。
桜田もカナリ気になったのか、俺の側に来て一緒にタブレットの画面を覗くが、
「マ──っ!?」
「え──?」
グレーアウトしているアイコンを見て言葉を失う。
雫が選んでグレーアウトさせた3つ目のアイコンは、
【ニンニン! 魔法で忍者になるってばよ!】
桜田が選んだ『魔法少女』に並ぶ、いや、それ以上に厨二全開の痛いヤツ。
「何故でござるか……?」
「一番訳が分からんヤツが消えてる、ぞ……!?」
しかも、魔法なのに忍者って言う、アホみたいな痛いトコ取りのAll in One的で、厨二患者も避ける様な最も酷いヤツ。
「「………………」」
俺と桜田は驚愕の表情で雫へと顔を向けるが、
「んだよ。 何か文句あんのかよ?」
全く恥ずかしがる様子も無く、堂々とした態度で喉を鳴らしながらチューハイを煽っている。
「木梨氏…… 何故コレを……?」
桜田も流石にコレが一番痛くて酷いと言う事は分かっているらしく、美少女が見せない様な痛々しい表情を浮かべて驚愕している。
すると、雫がロング缶から口を離して、何故かモジモジしながら素直に答える。
「コレで葵ちゃんと同じかな?って……」
「「………………」」
え?
何が?
同じってナニ?
ぶっちゃけ、こんなのを選ぶ様なヤツと同類扱いされるのだけは勘弁して欲しい。
桜田も俺と同じ事を思っているのか、盛大に顔を引き攣らせている。
「いや…… 同じでは…… あ〜。 うん。 え〜っと…… 僕とどう同じなのでござるかな?」
桜田スゲー……
なんて大人な対応なんだ……
「なんて言えばいいか…… 葵ちゃんと同じモノを背負って生きていく的な?」
「ハヒィ!?」
おっも!?
いきなり何言い出してんだコイツは!?
しかも背負うモノ思いっきり間違えてんぞ!?
メンヘラ指数が直角に上がってんぞ!?
桜田は、『違う違う。そんなモノは全く背負ってない』と言わんばかりに、ドン引きしながら無言で激しく顔を横に振っている。
「コレで、私が影から葵ちゃんを守ってあげる、から」
「ブヒィ!?」
「うわぁ……」
忍者なだけに影から守るってか?
心の支えとかじゃなくて、物理的にの方じゃねぇか……
此処に来て、雫のメンヘラっぷりが違うベクトルで暴走した。
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