僕の最高傑作なんですよ!
当然の如く、俺のアホみたいな返答に固まる八千流木さん。
そんな、俺のアホみたいに病んでいる厨二的な返答に対し、
「魔法少女です、か……?」
かなり胡乱気で痛い人を見る様な視線を向ける八千流木さん。
しまった……
コレは完全に俺が痛いヤツって思われてるぞ……
しかし、八千流木さんは俺の言葉を聞きながら、内ポケットからスマホを取り出して、ツゥぃぃツゥぃぃっと何か操作し始める。
あ……
ダメなヤツだコレ……
応援を呼ばれているヤツだコレ……
ガッチガチに武装した車両が全員集合するヤツだコレ……
恐怖に慄きながら八千流木さんがスマホを操作しているのを凝視していると、八千流木さんがスマホの画面を俺へと見せてきた。
「へ?」
──はぁうあっ!?
そしてそこに映っていたのは、ちょっとした植え込みを挟んでいるけれど、あの公園内にあるお洒落なカフェのテラス席で、お茶を楽しんでいる美少女と俺。
ソレはあの店の防犯カメラに映っていた、俺と美少女バージョン桜田の紛れもない姿だった。
「この人物は、千羽さんで間違いないですね」
「……ハイ」
「この向かいの席にいる女性が、千羽さんが言う、魔法少女、という事でしょうか?」
「……ハイ」
蛇に睨まれた蛙の様に、ものすごぉく息苦しい……
俺の周りだけ酸素が少ない様に感じるのは、俺の気のせいなのだろうか……
「こちらの女性は、所謂、コスプレイヤーとでも言うのでしょうか? そして、千羽さんと親しそうにお話をしている様に見受けられますが、お知り合いでしょうか?」
「いえ…… 知らないです」
「でも、親しそうに、楽しそうにお話ししていますよね?」
いやいやいやいや。
楽しそうには話してないだろ!?
どう見ても俺が怒って美少女を威圧している様にしか見えないだろ!?
「いえ、全く楽しくなかったですよ」
半分死んだ目をした俺は、Botロボットの様に淡々と応える。
「桜田、いえ、友達がお代わりを買いに行ったんですけど、なかなか戻って来なくてですね…… 待っていたらいきなりその女性が飲み物片手に相席をしてきまして……」
「こんなに席が空いているのにですか?」
「ハイ…… 僕も不思議に思いましたよ。 こんなに沢山席が空いているのになんでだろう?って、ね……」
何言ってるんだ俺ぇぇぇえええ──!?
「そりゃぁ、僕も男ですからぁ、色々と少しは期待しましたよ。 コレは所謂、”逆ナン“ と言うヤツなのではないか?と、ね」
「はぁ……?」
止めてください。
そんな目で俺を見るのを止めてくださいぃい!
八千流木さんは、可哀想な者を見るような憐れみの篭った視線を俺へと向けていた。
って言うか、八千流木さんだけでなく、背後にいる二人はもっと露骨に惨たらしい者を見る目を向けていた。
チクショー!!
俺が逆ナンされちゃダメなのかよ!?
「いやぁ。 逆ナンって思った僕も居ましたよ。 少しは舞い上がってしまっていましたよ。 でもですねぇ。 その女性は、宗教じみた訳の分からない痛い事を言い始めたんですよ。 『私は魔法少女で、危険を感じたから此処に来た』とか、なんとか」
「「「………………」」」
もう相槌すらも打ってくれないのですか……?
この後の俺ってどうなるワケ……?
この話しはどう帰結するワケ……?
「危険を感じるけど、危険はまだ来ないから、時間潰しにって事で、一人で座っていたモテなさそうで可哀想な僕に絡んでみたかったらしく……」
「「「………………」」」
「えぇ。 そりゃぁもう、その動画に映っている様に、クールを装いながらも僕の心中はかなり舞い上がってましたよ。 宗教じみた痛い話をしてくる部分を抜かせばかなりの美少女な訳ですし……?」
もう自分で言ってて死にたくなるわ……
見てみろよこの人達の顔……
なんか同情が芽生え始めたのか、優しくて生温かい顔つきになってるよ……
「そうこうしている内に、赤装束達が現れて、僕が襲われて、その自称魔法少女が本当に魔法を使って人間を凍らせちゃったんですよ…… 魔法少女なだけに……」
イヤほんと、画像が白黒な上に、背の高い植え込みプラス俺の真後ろから撮られていてマジで助かったわ。
だって、そこ行く前に、一回、俺の両腕凍っていたからね……?
植え込みでハッキリ見えないけど、両腕がポッキリ行く寸前だったからね!!
「そしたら、自分で人間を凍らせておきながら、いきなりか弱い女の子みたいな感じで、『急に危険が現れてビックリして腰が抜けたぁ〜』なんて巫山戯た事を言うもんですから、紳士的に立たせた後に、僕は友達を探す為にこの自称魔法少女と別れて行動しました」
「……では、この土下座はどう言う事なのでしょうか?」
………………
「……ボッチな僕に悪ノリした事にお礼とお詫びを言ってました」
「……そう、ですか」
今、枕に顔を埋めて目を閉じたら、どんなに心地が良い事だろうか……
なんで俺がこんなにSAN値を削ってまで自虐しなくてはいけないのだろうか……
そして、そんな俺は、
『さぁ、こんな感じでどうでしょうか!』
と言わんばかりのジャッジを求める弱々しい視線を八千流木さんへと向けてみるが、
「………………」
「「「………………」」」
あ……
ダメだなコレ……
無音の画像でアフレコっぽく話し作ってみたけど、コレは、これからパトカーで遠い所にドライブするヤツかな……?
どうせなら、眠ってても凍死を気にしなくても良い様な、暖かいトコが良いなぁ……
と、俺が完全に諦めていたところ、
「八千流木さん」
思わぬ助け舟がイケメン警察官からもたらされた。
「さっき話を聞いた桜田さんの話しとも合っているようですね」
「えぇ、その様ですが…… 失礼ですが千羽さん。 あなたは “どこで” 桜田さんを “見つけました” か?」
そう来たかぁぁぁあ!?
うわっ!?
ナニコレっ!?
何択問題だよコレぇぇぇえ!?
あの豚、この人達になんて言ったんだよぉぉぉお!?
「……カフェの近くの、公衆トイレの中、です……」
んな訳あるかぁぁぁあ!
なんでトイレなんだよ!
しかもなんで中なんだよ!
何言ってるんだよ俺は!
店の中にもトイレあんだろうが!
なんで敢えて可能性が一番低いのを選んでんだよ!
「一致していますね……」
「………………」
え?
マジで?
ウソ?
「桜田さんは、公園に来る前に食べ過ぎて気分が悪くなったらしく、おかわりを買いに行く前に寄ったトイレでそのまま気絶していたとの事、ですよね?」
ナニ、この奇跡?
ナニ、この一糸違わないシンクロ率?
逆に気持ち悪いんですけど!?
気持ち悪すぎて鳥肌立ちまくってるんですけど!?
今なら、どんなロボットでも自在に乗りこなせる自信しかないんですけど!?
「そ、そう言えばアイツ、お昼ご飯にチャーハンの大盛りをオカズにカツ丼を食べてましたね。 その後に公園に向かう途中でコンビニでアイスも買って食べてましたし。 店に着いたらパフェみたいなのも飲んでましたし。 多分ソレですね(キリっ)」
俺はドヤ顔で桜田の暴食っぷりを淡々と答えてやった。
「八千流木さん。 全て桜田さんの証言と合ってます」
「そ、そうですね……」
うわぁ〜。
八千流木さん、ドン引きしてるぞ……
多分、さっき桜田から同じ事を聞いて、どうせ嘘だとかって思っていたパターンだなコレ……
「千羽さん。 あなた方を疑ってしまい申し訳ございませんでした。 我々は、貴方が遭遇した、その魔法少女なる女性について調べてみます。 つきましては、何か思い出したり気付いたりした事がありましたらご連絡頂けますでしょうか?」
「あ、ハイ……」
おっとぉ!?
女性刑事さんのお電話番号ゲットですよぉ〜!
コレはカナりレアなお電話番号ですよ〜!
「お電話番号と一緒に、チャットアプリのIDも交換頂いても宜しいでしょうか?」
しかもチャットアプリのIDもコミコミですよぉ〜!
「バッチ来いです! ちょ、ちょっと待って下さい!」
テンション爆上がりな俺は、スマホを取り出す為に慌てて棚の奥底に封印していたカバンを取り出す。
そしてジップを開けてスマホを取り出そうとした瞬間、
ゴトリ──
「「「「………………」」」」
ドギツいピンク色の魔法少女ステッキが鞄から溢れ落ちた。
「あ…… え、えっとですね…… 僕と桜田は、趣味でこう言うモノを作ってまして……」
「「「………………」」」
「コレ、僕の最高傑作なんですよ! 昨日、桜田に自慢する為に持って来ていたんですよ! 最高の出来栄えなんですよコレ! どうです? ちょっと試してみますか?」
俺は拾い上げた魔法少女ステッキを華麗にクルクルと手の中で回しながら、笑顔で八千流木さんへと差し出したが、
「い、いいえ…… 結構です……」
ゴミを見るような視線を向けられて断固拒否られた。
そして、チャットアプリのID交換は無くなった。
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