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俺の為に死んでくれ!

「ハァハァハァハァハァハァハァハァ──」



桜田を担ぎながら公園内の舗装道路を道なりに移動する事数分。


やっとの事で公園の出入り口に到着。


真夏日の炎天下の中、超重量級のデブを担いで移動するとかマジで地獄だ。


もう、俺の汗なのか桜田の汗なのかも分からないくらいに全身がビチョビチョのグチャグチャ。


気持ち悪すぎて今すぐ風呂に入りたい。


そんな汗だくな俺の視界の先には、沢山のパトカーとお巡りさん達。


右から左へと軽く顔を動かして辺りを見回すと、公園の外周に沿ってパトカーとお巡りさんがビッチリ包囲網を敷いていた。


公園から俺が出てきたのを見つけた一人のお巡りさんが何か声を上げると、特殊部隊みたいな装備で透明なシールドを持った数人の機動隊が足早に俺に向かって来た。


ガチャガチャと音を立てながら走って来る機動隊は、透明のシールドを構えている人達を先頭に、ゴツい銃火器を構えている人達が後ろに続く。


そして、シールドを構えている人達は俺を囲む様にして位置取って周りを警戒し、銃を構えていた人達が俺の背中で気絶している桜田へと手を伸ばす。



「君!  大丈夫か!」


「お、俺は大丈夫です……  桜田を、コイツを……」


って言ったところで俺の脚がガクガク震えて力が抜けて立てなくなった。


「あ……」



「オイ!」



そんな俺を機動隊の一人が咄嗟に脇に抱えて支え、



「!?  頭から血が出てるぞ!  急いで救急車両を回せ!」



と、大声で叫んで後方へと指示を出した。



炎天下の猛暑の中、クッソ重たい豚を担いで小走りしたら、そりゃぁ脚にもくるわな……



等と思いながら俺と一緒に担がれて運ばれている桜田へと顔を向ける。


俺の視線の先で力無くグッタリとしている桜田の腕は、どう言う事なのか傷一つない状態だった。


って言うか、気絶している桜田には傷一つ見られない。


魔法少女の姿の時は、身体中を擦りむいて白い肌を赤く腫れさせ、左腕は皮膚から骨が突き出ているくらいの酷い怪我だったにも関わらず、豚に戻った桜田には一つとして外傷が見当たらなかった。


俺が赤装束に首チョンパされる寸前に助けられた時には、険しい表情で今すぐ泣きたいほど痛いって言っていたから、その時は相当の痛みがあったと思われる。


でも今は何故か無傷。


ソレが良いのか悪いのか知らないけど、どっちにしろ、怪我も無くて生きてて良かった。


俺的にも痛いのも死ぬのも嫌だし。


機動隊に担がれて運ばれていた俺達は、其々が担架に寝かされてそのまま救急車の中へ ヒァ ウィー ゴー。


俺を収容してバックドアが締まると、救急車は直ぐに発進し、



「ふぅ〜〜」



同時に安心感からか深い溜息が溢れ出た。


そして、余裕のできた俺の思考に思い出された、まるで家畜や害虫を殺すかの様に、訳の分からない事を言いながら躊躇なく人を殺しまくる赤装束の異常者集団。


公園から出るまでの道のりでも、あちこちで動かずに倒れていた多くの人。


そして、桜田のボロボロだった姿と、俺に腕を斬られて鮮血を撒き散らしていた赤装束。


思い出してしまった最悪すぎる光景に顔を顰める。



魔法は使いたいけど……


こんなのは嫌だ……



………………


…………


………









病院へと運ばれた俺と桜田は、今日は様子見で病院に泊まることになった。


しかも明日は警察の事情聴取らしい。


って言うか、無傷な桜田とは違い、俺は色々と怪我だらけ……


幸い、内蔵や骨には異常が無いって事らしいけど、殴られた顔の左側、瞼の所が時間が経つにつれて鬱血してパンパンに腫れまくっていた。


見た目がマジでお化けだ。


少し切って血抜きをすればマシな見た目になるって言われ、それじゃぁって事でよしなにしてもらう。


血抜きをしたらみるみる内に瞼の膨らみと痛みが引いていったけど、まだ少し腫れているのは仕方ない。


顔の痛みが引いたら急に疲れと眠気が襲ってきて、俺は泥の様に眠りについた。


………………


…………


………









──朝──


看護婦さんが運んできた朝食と共に目を覚ます。


寝起きで可愛い白衣の天使が朝ご飯を持ってきた事に、一瞬夢かと思って驚いたけど、直ぐに病院に泊まっていた事を思い出し、テレビを観ながらダラダラと朝ご飯を食べる。


垂れ流している朝の番組では、やはりと言うか、昨日の赤装束達の話題で持ちきりだった。


そしてニュースを観ている内に、ご飯を食べるのも忘れる程、その全貌に驚愕する。



「マジかよ……」



赤装束が現れたのは俺達が居た公園だけじゃなく、色々な所で同時多発的に現れた大事件だったらしい。


ニュースでは、



【過激な新興宗教団体による大規模な同時多発テロ】



として発表されていて、画面の下部分には被害者の名前と赤装束の死者数のテロップが流れていた。


昨日の光景を思い出し、寝起きの、しかもご飯時に観るんじゃなかったとガチでヘコむ。



そんなこんなで食後の軽い問診を受けた後、『1時間後に事情聴取が始まるから病室で待っててね』と言う事を白衣の天使さんに告げられた。


しかも、桜田とは別々に聴取を受けるから、桜田に『会いに行くのはダメよ』と言われた。



「分かりました!」



可愛い白衣の天使が言う事は、王様が言う事以上に絶対なので、俺は素直に愛玩犬の様に従う事に。


しかし、同時にイヤな予感が俺の中で盛大に芽吹く。


この事を聞かされた瞬間、桜田が赤装束を倒した魔法の事を自慢げに言うのか、それとも隠すのか、どうするんだろうって事だけが心配で心配で、何故か掌に変な汗が滲み出てきた。


あんな極限の状況の下、いくら正当防衛とは言え、桜田は魔法で2人も凍らせた。


取り敢えずも何も、あんだけ凍ってたら死ねるだろ多分……


俺も俺で、魔力の塊で思わず腕を切り落としたりとかしちゃったし。



ここで俺と桜田との答えが食い違っていたら、俺達、完全に黒だよな……



って事で、桜田の思考回路をトレースして、考えや答えを合わせるように、魔法や魔力の事をどうやって隠そうか必死に考えるけど、



「………………」


無理……



アイツが考えてる事なんて、どう考えても食い物の事にしか帰結しない……



「…………あ。  直接アイツに電話すれば良いじゃん!」



だが、此処に来て奇跡的な考えが思い浮かぶ。


鞄の中に入っていたスマホを手に取り、急いで桜田へと電話をした所、



ヴゥゥゥゥゥゥ──


ヴゥゥゥゥゥゥ──



何故か俺の鞄から着信を知らせる振動音が聞こえてきた。


不思議に思って鞄の中を覗いて見ると、



「………………」



何故か桜田のスマホが入っていた……


そして俺は思い出す。


俺達が赤装束に襲われた時、テーブルの上にあったモノを取り敢えず手当たり次第俺の鞄の中に突っ込んでいたと言う事を。


しかも俺の鞄の中には、桜田を担いでいる時に、コレまた適当に鞄に突っ込んだ、ドピンクな魔法少女ステッキも一緒に入っていた。



「………………」



違った意味で奇跡が舞い降りた。


コレさえ無ければ桜田は魔法が使えない。


多分……


魔法が使えなければ、先のテロで頭が狂ったと思われるだろう。


だが……


俺がこんなものを持っているところを白衣の天使さんに見られたら、社会的に殺されるのは間違いない。



コンコンコン!



「──ヒャァイっ!」



そんな矢先、不意にドアがノックされ、手にしていた魔法少女ステッキを反射的に服の中へと入れて隠す。



マジで心臓が飛び出るかと思ったわ!



急いでステッキを服から鞄の中の奥の奥へと仕舞い込み、ジップを閉めて棚の奥へと追いやっておく。



「ど、どうぞ!」



俺が上げた声に呼応するかの様にガラガラとスライド式のドアが開き、スーツを着た数人の人達が入って来た。



「失礼します。  千羽さん。  千羽 紅葉さんでお間違いないでしょうか?」


「はい。  千羽です……」



入って来るなり俺に声をかけてきたのは、パンツスーツの如何にも仕事ができそうな風合いの知的そうな女性。


その女性の背後には、イカつい顔でイカつい体格をした大柄な男性と、対照的に、細身で草食系なイケメン男性。


そんな面々がいきなり入室して来て、俺も思わずベッドから立ち上がる。



「先ずはこの度の事件に関しまして深くお詫び申し上げます」


「へ?」



そう言うや否や、女性がいきなり頭を下げた。



「え?  なんで?」


「もうご存知になられたかと……」



そして、つけっぱなしのテレビをチラリとみた後、



「この度の事件では多くの犠牲者が出ており──」



女性が淡々と今回の事件について説明を始めた。


この女性は八千流木と言う名前の刑事な人で、八千流木さんが言うには、赤装束が現れた内の一ヶ所、俺達が居た公園で赤装束達に襲われて生きていた被害者は、俺と桜田だけだった。


他の襲撃にあった場所とは違い中が見えない公園は、警察が動くには時間がかかる場所であり、多くの人が襲われ、赤装束と遭遇した被害者の全てが命を落としたらしい。


しかも俺が出て行った公園の出入り口は警察の包囲網の最後尾だったらしく、丁度反対側に当たる出入り口から機動隊が隊列を組みながら最後尾へと赤装束達を徐々に追い込んでいたんだとさ。



「それで、あの公園での唯一の生存者である千羽さんと桜田さんに確認したい事がございまして」


「……なんで、しょうか?」


「少々、不可解な事と言いますか、なんと言いますか……」



八千流木さんが何かを言い淀む。



こう来たかぁぁぁあああ!?



「不可解な事、ですか……?」



俺も同じく言い淀む。



「ええ。  公園で不可解な死体が見つかっていてですね……  ソレについて何か目撃されていますでしょうか?」


「……不可解な死体ですか?」



ヤバい……


何がヤバいって、一般人の、ましてや被害者の俺にそんな事を聞いてくる時点で疑われまくってるって事じゃねぇかっ!?


ってか死体って事は死んでるって事ですよねぇ!?



「不可解な死体が何を指しているのかは分かりませんが、あの日俺は、魔法少女に助けられました」



こうなったら先制パンチだ!


スマン桜田!


俺の為に死んでくれ!




お読みいただきありがとうございます。


モチベになるので、☆とか、ブクマとかお願いします。

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