もう、時代遅れなのかな?
俺の切実な願いも虚しく、
「コレが例のアレか……」
淡々と取引が進んでいく。
「えぇ。 初回は有料ですが、次回以降は無料でご提供させて頂きます。 まぁ…… 所謂、こっちサイドへの入会金の様なものですね」
「………………」
そんな怪しさしかない言葉と対応に、無言でスーツメンを睨むファッションリーダー。
しかし、
「あぁ。 今後も宜しく頼む」
強面に狂気が滲む笑みを浮かべながら右手を差し出し、
「えぇ、えぇ。 勿論ですとも」
お互いに手を取り合ってがっちり握手。
ディールな感じであっさりとビジネス成立しちゃったよ。
「次回からは無償で、とは言いましても…… ”ソレ” に ”お身体が耐える事ができれば” のお話ですので、その辺は重々ご留意ください」
「あぁ。 問題ない」
何が問題ないのか知らんけど、こんなん見てしまった俺的には問題しかない。
マジで最悪な現場を見てしまって、モブな俺的には早くこの場から逃げ出したい。
このやり取りが始まってからの一部始終をずっとスマホで動画撮影してたから、取り合えず、ソレを桜田に送っておく。
これで、後はアイツらに丸投げしてしまえばいい。
そして、俺は此処からオサラバすればいい。
って、数秒前までは思ってましたよ。
「貴様ら。 ソレの情報をはいてもらおうか?」
おジジが立ち上がって声をあげるまではね……?
『お”!? おジジぃぃぃいいい!?』
なんの前触れも相談もなく、隠れていた車の陰から立ち上がったおジジにビックリしすぎて、
『ヒぃぃぃいいい──!?』
思わずおジジの腰辺りを猫みたいに何度もエアカキカキしてしまったくらい、
『──何してるしぃぃぃいいい!?』
ビックリしてキョドリまくったわ。
「んだ!? テメぇわっ!!」
「おやおや? これはどう言う事ですか?」
ってか、俺だけじゃなくて、あちらさんも、おジジの急な出現に、モノすっごく驚いていらっしゃいやがりますですよ!
「まさか──!? お前ら──!?」
ファッションリーダが足元のボストンバッグを足蹴にして背後の仲間たちの方へと移動させ、
「それこそまさかですよ。 そもそも、我々が貴方方を裏切るにしても、こんな非効率的な事は微塵も考えもつかないですよ?」
インテリスーツは平静のまま、手にしていたアタッシュケースをそっと閉じた。
ってか、生で見たそっ閉じ。
おジジが出た事で、この場は見るからに険悪ムードMAX。
全員(俺も含む)の疑心暗鬼が天元突破。
こうなったら……
よし!
銃撃戦で相打ちになっておしまいなさい!!
俺はここで隠れているから!!
「クソ!! 舐めてんじゃねぇぞお前ら!! 全員ブっ殺してやる!!」
完全に理性を失ったファッションリーダーを筆頭に、
「お前らぁあああっ──!」
ファッション集団が次々と手にキューブ型のマギアを取り出して、
「──やっちまえ!!」
次々と武器を発現させていく。
ファッション集団が手にしているキューブ型のマギア。
桜田からの情報共有では、エジプトでも見た、この ”キューブ型のマギア” は、雫達が政府と一緒に、開発、製造、管理しているモノとは違って、非正規の ”闇マギア” らしい。
おい政府っ!?
情報統制ザルかよ!?
金か!?
金なのか!?
この前代未聞のリークに対して、現在、雫は激オコで、鬼の様に世界中の政府の中から犯人捜しをしているとの事。
『もう、いっそ、全員殺っちまって、新しくしてしまおうぜ?』
とか言っている始末らしい。
そんなマジギレの雫に付き合わされている、桜田とクリリンに黙祷を捧げたのは言うまでもない。
そりゃぁ、俺に構ってられないくらい忙しい訳だ…
ってか、ファッション集団がマギアを発現させたのに続き、
「ふぅ…… 今回は、ダメな様ですね……」
スーツ集団もキューブ型のマギアを取り出して武器を発現させた。
しかも──
「手間ですけど、人材は生かさず殺さずでお願いします」
──薬のドーピングって言うオマケ付き。
リーダー格以外が次々に何かを飲み込み、みるみる内に、黒い肌で耳長の姿へと変貌していくスーツ集団。
「な──!? テメっ──!?」
「やりおったな──!?」
ソレを見て驚くファッションリーダーとおジジ。
スーツ集団の全員が、エジプトで会った奴らと同じ、黒い模様入りのダークエルフな姿に変わった。
正に一色即発なピリピリしまくる空気。
ダークエルフな姿になったスーツ集団はそれなりの手練れなのか、おジジの突然の登場に狼狽える事無く、ファッション集団とおジジを見据えて、手にしている獲物を構える。
そんな中、アタッシュケースを持っているインテリスーツは、ヤレヤレと言った表情で、近くの車のボンネットに腰を下ろして優雅に足を組んで、
「まぁ、貴方が何処の誰かは知りませんが──」
親指を立てて首を切り裂く様なジェスチャーをしながら、
「──邪魔をした貴方は見せしめに殺しますので、あしからずご了承ください」
感情の無いニヤケた顔でおジジを見る。
「はん。 ワシを舐めるなよ。 貴様らなんぞにむざむざと殺されてやる程、ヤワではないわ」
そんで、おジジの両腕がいきなり燃え盛って、
「ほう…… 異能使いですか?」
着ていた服の袖が燃えて、
「ワシは──」
赤く焼けた鉄みたいな骨な感じの腕が現れた。
「──魔法使いじゃ」
『「「「………………」」」』
いや……
普通、魔法使いってのは、そんな最前線で、そんな何処ぞの武闘家みたいな構えはとらんと思うぞ?
俺の中の魔法使いのイメージと現実の魔法使いの剥離具合が激しすぐる。
俺が考えている魔法使いのイメージって、もう、時代遅れなのかな?
「ワシが一生をかけて研鑽してきた数々の知識と技術を、”異能” 等と言う生温いモノと一緒にするでない!」
ってか、おジジマジギレ。
どうやらおジジの琴線に触れたっぽい。
「それでは、貴方が一生を捧げたと言う、時代遅れの廃れた知識と技術で、ここから生きて帰れるかどうか頑張ってみてください」
「笑止。 貴様だけは絶対に仕留める!」
「アハハハハハ──!!」
何にツボったのか、顔を抑えて笑いまくるスーツの人。
「まぁ、その気位が私まで届くと良いですねぇ」
と、薬をキメたダークエルフなスーツ集団に指示を出し、
「それではやっちゃってください」
そんでもって、笑いすぎて涙目の顔をファッション集団に向け、
「──あぁそうそう。 お得意様になるであろう貴方方には危害は加えないのでご安心を。 まぁ、この場を生きて切り抜けられたらと言う条件付きではありますが」
「!? クソ──!!」
そんなサイコパスじみたスーツの人に狼狽えるファッションリーダー。
「──お前らぁあっ! あんなジジイ一人にヒヨるんじゃねぇぞ!!」
って事で、
「来い!! 新たな世界の技術によって更なる可能性を秘めたワシの魔法! 存分に試させてもらおうぞ!」
大乱闘の始まり始まりー。




