本気で人権の主張を求めますけど?
雫たちの帰りが遅いから、ウP主のラボで、おジジと俺のマギアのレベルを確認してみた。
してみたんだけど……
「「「………………」」」
「なんですか、コレ……?」
計測する前の和気あいあいな感じから、次第になんか変な空気になっていって、
「おかしいでしょ、コレ……?」
何故か怒られているっポイ空気へとビフォーアフター。
「いや、俺に聞かれても……」
知らんがな……
ってか、俺のマギアレベルは361。
なんて言うか……
え……?
マジ?
何故か知らんけど、たった1日でレベルが爆上がりしてて草。
爆上がりしたのは良いんだけど、361って数字の "1" の部分がスッキリしなくて気持ち悪い……
そんで、おジジのマギアレベルは、
「1003って…… 1000越えって…… おかしいでしょ? 流石に1000越えはおかしいでしょ? 馬鹿にしてる?」
俺以上に強烈だった……
「千羽クン達は、一体、どんな地獄に居たんですか……? って言うか、雫ちゃんがこのマギアを手配したのって、一昨日ですよね……?」
「っスね…… 因みに、おジジのヤツは、地獄じゃなくて、ホテルに居ましたヤツですね……」
「は? ホテル? は?」
ウPが俺を見る冷たい目は、どこからどう見ても、『ナニ言ってんのコイツ? 馬鹿なの?』と、雄弁に語っている。
現に、そんな幻聴すら聞こえてきてるのは俺の気のせいか?
「モミジ、馬鹿って言われてるね?」
「………………」
ってか、幻聴じゃなかった。
アンナさん、俺を現実に戻してくれてありがとぅ。
愛してるよ。
「──っス…… 暇だったんで、ホテルで、試しに、俺の能力で発現させた魔力の塊を、俺が飽きるまでしこたま食わせてやりましたのですます……」
「え? は? どう言う事?」
「いや…… そんなキレ顔で、どう言う事って言われましても……」
「は? 今なんか言いました?」
「…………いえ」
ウP主は見るからにブチギレ。
なんで!?
なんでそんなにキレてるし!?
キレすぎやろ!?
「私が手塩にかけて開発した偉大なモノに、ナニ、勝手に変なモノ食わせちゃってんですか? 虚無を倒して回収する為の道具に、なんで虚無以外のモノを与えちゃってるんですか? 千羽さんは、なんでも吸えるからって、掃除機に煙草やお蕎麦を吸わせちゃうんですか? 吸うって言っても、用途、全然違いますよね?」
ってか、鬼ギレ。
「いや…… 変なモノでは……」
「は?」
「っス…… 変なモノっス…… ね……」
え?
ナニこの空気……
なんで俺、めっさ怒られてんの……
ってか、俺のダークマターの扱われようが酷すぎて草。
そんな、クーリングオフどころか、裁判も厭わないような、修羅場突入な俺たちの雰囲気に、
「まぁ、まぁ。 お嬢ちゃん。 そうカリカリしなさんな。 自分が開発した道具に、ちゃんとした正規の用途や手順を求める気持ちは分かるが、開発者として、新たな発見があると言うのは喜ばしい事ではないか?」
「………………」
両腕漆黒骸骨のおジジが、年の功的なアレでもって、メタギレなウP主を宥める。
「コレが不具合であれば、修正すればよいし、コレが良い発見であれば、バージョンアップに繋がるのではないか? ワシも若い頃は、魔道具や未知なる魔法に情熱をかけたものよ」
遠い昔を懐かしむように、カラカラと楽しそうに笑うおジジ。
そんなおジジに水を差され、ジト目で俺を睨むウP主。
だから、俺を睨むなし!
「はぁ~…… それで、千羽クンの異能で発現した塊は、虚無からドロップされる魔石より、魔力吸収効率が良い、もしくは、内包されている魔力の量が桁違いって事ですよねソレ……?」
怒りで曇った眼鏡をフキフキしながら、テーブルの上にある俺のマギアと、おジジを指さす。
「因みに、アンナのヤツも吸収できたから、俺のだけって訳でもないッポイ」
「……え? ……なんて?」
眼鏡を拭き終えたウP主は、
「ワシら空中都市では、魔力と理力は別モノと考えておったのだが、この、マギアと言うヤツでは、ソレが一括りになっておる様じゃのぉ」
「………………」
虚無からとれた魔石と、俺が発現してやった、小さな三角錐を手に取って見比べる。
「私からすれば、どちらも魔力ですよコレ? 違いがあるとすれば、魔力の密度と純度ですかね?」
「密度と純度じゃと?」
「例えるなら、お爺さんが言う、魔力は石油の原油?で、理力と言うのは、ガソリンやナフサ?って事です」
「んん? お主の言うておる事がよく分からんぞ?」
そりゃぁ、そうだ。
空中都市には石油なんてないからな。
「原料は同じですけど、密度や純度によって違うものとして扱われている、と言うことですね」
「そう言う事、なのか……?」
コレだけでおジジは何か納得したのか、顎に手をあてて思案顔になった。
「私はこれでも、一応、世界から使わされている存在ですから、見ればすぐに分かります。 それに、世界のリソースと言うものは、例外無しに須らく同じモノですよ」
初めてソレらしい事を言ったウP主。
ってか、ウP主が世界からのお使いキャラって事、クッソ忘れてたわwww
「世界から使わされている存在、じゃと?」
やっぱりって言うかなんて言うか、ウP主のそのフレーズにおジジが食いついた。
「まぁ、世界から使わされている存在って言っても、世界から知識をダウンロードさせられただけの人間に過ぎないんですけどね」
「ふむ。 お主が何を言っておるのか、ワシにはさっぱり分からんよ」
って言いながらおジジが俺を見るけど、
「いや、俺も全く知らんし」
俺はマジでなんも知らん。
「って事で、さっきは変なモノって言ってしまいましたけど、要は、密度と純度の濃い魔力を吸収したって事ですね」
「そう、なる、のか……?」
イマイチ、ピンと来てない様子のおジジが顎に手を当てながら首を傾げる。
「世界のお使いがそう言ってんだから、そうなんじゃね?」
知らんけど。
「でも、コレは、誰もができるかと言えばできない事なんですよ? 千羽クンやアンナさんが作る魔力の結晶とか、基本、普通の能力者では作れないですから」
え?
「じゃぁ、神格者ってなんなん?」
「通常、魔力は、能力として魔力を何かの事象と一緒に混ぜて発現させる事は出来ても、魔力を、ソレ、単体の理や存在として結晶化させて操るとか、ぶっちゃけ、虚無と同じって事ですから」
「「「………………」」」
ウP主がそう言いながら、俺のダークマターを指さす。
言い方!?
虚無言うなし!?
「もっと簡単に言えばですねぇ。 コレは、さっきも同じ例えを出しましたけど、石油からできるガソリンとか軽油とかナフサみたいな感じで…… まぁ、虚無の亜種?みたいなモノですね」
「「「………………」」」
ウP主に虚無の亜種言われた……
マジ心外……
ってか、そんな虚無扱いされている神格者にも線の数でランクがあるから、アンナの2本線の倍以上の線を持っている俺とか……
「虚無が全てを包括している原油なら、千羽さんやアンナさんは、原油から一つの理を抽出し、純度を高めたナフサやガソリン。 そりゃぁ、いくら元が同じでも同じ様には使えませんねぇ。 しかも元のものよりもある一点で見れば、逆に濃くなってますし?」
「そう考えると…… 神格者は、線が増えれば増える程、虚無より濃い存在って事になるってこと……?」
「モミジよ……」
「モミジ……」
いや、コレは考えるのは止めておこう……
ってか、どんな目で俺を見てんだよお前ら!!
俺は、ヒト種、ヒト化の、ヒ! ト! ですから!!
「まぁ、千羽クンが帰って来る今まで、魔力を結晶化できる人なんていなかったですし…… しかも、それを異能として使えて操るとか……」
だから、俺をチラチラ見んな!!
他にもできる人いてるからぁぁぁああ!!!
ワイのお嫁さんも出来てるからぁぁぁああ!!!
とか言いながらも、
「コレは確かに面白い発見ですね…… あ、千羽クン? 後でで良いので、指定する倉庫に千羽クンの発現させた塊を出しておいて貰えますか? レベルの上り幅の検証をしたいので」
「………………」
サラッと俺を魔力をドロップさせる虚無と同じくくりにするのはやめてほしい。
本気で人権の主張を求めますけど?
俺の人権をかけて、朝まで生討論でも、裁判でも、拳でも、ガチでとことんまで戦うよ俺?
そんなこんなで、俺のダークマターの件から、おジジの義手へと話の流れが変わった。
試しにウP主がおジジと同じ様な事をやってみたけど、
「義手は問題なく発現させられますけど、魔力の繋がりとか、繋げたソレを精密に動かすイメージとか…… 普通の人に、こんなのやれと言われても無理ですね」
「なんでし? やれし。 ウP主ならやれるから頑張れし」
「無茶言わないでください! 頭おかしいんですか!? 相当、精密な魔力の操作を熟知していないと、義手の代わりとして使えないですよコレ!?」
どうやら、おジジも人外レベルだったらしい。
ってか、ウP主が普通の人と同じで草。
世界からのお使いって言っても、なんでもかんでもできる的な、最強なアレ的な存在じゃないって事が改めて発覚。
しかも、魔力や知識はあっても魔法や異能が使えないとか。
そりゃぁ、マギアなんて作る訳だ。
一見、趣味の延長線っぽくも見えるけど、完全に自衛用だなコレ……
世界のお使いなウP主の生存本能にガチさを感じて、なんか一気に萎えた。




