碌な事にならないのは間違いない
シャワーを浴びて、気持ちが落ち着いたアンナ。
余程疲れていたのか、スーイートルームのフッコフコのベッドの寝心地によって、すぐに意識を手放して眠りについた。
「二人とも、余程気が張り詰めていたんだな……」
その間、ルームサービスで食事の手配をして、桜田に電話。
「んで、そっちはどう?」
『どうもこうも、状況は最悪でござるな……』
「え? どったの?」
『木梨氏が押収したあの黒い薬でござるが…… アレは、虚無の一部だったのでござるよ……』
「マジか……」
『マジでござる……』
桜田が言うには、あの黒い薬は虚無の一部で、アレを使った者は、一時的に虚無と同化して、虚無のチカラを得る事ができるらしい。
そんなイかれたモノが、世界各地で広まっていて、主に犯罪目的で使われまくっているいるっぽい。
量的に、一時的な虚無化で済んでいるけど、もし大量摂取とかしちゃったりしたら、完全に虚無と同化して、虚無に肉体を与え、最悪な事態になるかもらしい。
「絶っ対ぇーエルフの仕業だろコレ……?」
『絶対とは言い切れないでござるが、コレを作れる者は、そう言う知識がある者って事でござるな…… やろうと思えば、ウP主とか、ハコの者でも同じモノを作れるでござるよ…… 空中都市のエルフならまだしも、もし、地上のハコの者が率先して虚無化に手を貸していたらとか、ホント考えたくない結果でござるよ……』
桜田から聞く限り、マジで最悪な状況だった。
生きてる世界で、生きた人間をベースに虚無の要素が取り込まれるとか、ウPの知識としては今までに例がないらしい。
普通だったら虚無に人間が取り込まれるのに、その逆の現象が起こっているとか、こんなん、碌な事にならないのは間違いない。
ってか、空中都市で見た、虚無に変貌したエルフ以上にダメなヤツ。
ってか、アレの完成系的な感じ。
空中都市でエルフが言っていた実験ってのは、もう既に終わりを迎えていて、実用段階に突入しているんじゃね?
って思える程の手際の良さ。
こんなん、マジで関わりたくなさすぎる。
取りあえず、この薬の件は、大人な桜田達に丸投げって事にして、俺は俺でさっさと日本に戻って、そこから空中都市に戻って、リリマナを探して、急いでアンナの目とおジジの身体を治したい。
桜田と近況報告と情報交換をし終えて、ルームサービスで届けられた食事をする。
アンナとおジジも夕食だからって起こそうとしたけど、爆睡していて起きる気配が全くなかったから、明日の朝までそのままにしておく。
って事で暇になったから、スマホにゲームをダウンロードしまくって、空中都市滞在の準備をする。
………………
…………
……
…
ちゅんちゅんちゅん。
朝ですよー。
何故か7時に目覚めた。
昨日は何気に疲れてたから、もっと遅く起きると思っていたけど、
「おはよ……」
横で寝ているアンナが気になって起きてしまって、そのままアンナの寝顔を見てたら完全に目が覚めてしまっていた。
って事で、朝食のビュッフェに行ってくる。
そんで、パパっと食事を終えて、レストランで2人分の朝食のルームサービスを頼む。
部屋に戻ってもまだ2人は寝ていたけど、
「んん……」
部屋に届いた朝食の匂いにつられて眠りから覚醒し始めた。
って事で、アンナを起こして、おジジも起こす。
「おいしい♪」
「久しぶりの落ち着ける食事は、生き返った気分じゃ」
「お代わりいるなら言ってね」
「うん♪」
「うむ」
ってか、アンナは目が見えなくて、おジジは両腕がないから、俺は二人の間に入って、交互に食事をあ~んしてあげている。
アンナは能力で物や人や周りの輪郭的なのは把握できているらしい。
なんでも、黒一色の世界に、黄色い線で、デッサンみたいに描きなぐられたみたいに全てが見えるんだってさ。
久しぶりの平和な食事をし終えて、満足そうな顔の二人。
って事で、
「おジジ。 コレあげる」
昨日、雫に急いで取り寄せ対応させた、
「なんじゃぁ、こりゃ?」
使用者未登録のマギア。
「なんの玉じゃ?」
「コレは、この地上世界で発明された、魔力を使って武器とか防具を具現化させる道具」
「ほぅ。 その様なものが」
まぁ、本来は、虚無と戦うために武器とか防具を具現化させるヤツなんだけど、
「そんで、俺は思ったわけよ。 コレを使えば、おジジの手足、何とかなんじゃねってね」
武器とか防具を自分のイメージ通りに具現化させられるなら、動かせられる様な腕も具現化できんじゃねってね。
「ふむ。 そう言う事か。 コレを使ってワシの義手にすると」
「まぁ、早い話そう言う事なんだけど、できるかどうかの保証はないし、やるやらないはおジジ次第かな?」
「ふむ……」
そういう技術的な事は知らんから桜田に聞けって雫に言われて聞いてみたけど、
『なかなか面白い発想でござるな。 僕もウP主も、虚無と戦う為の、武器とか防具の用途でしか考えてなかったでござるよ。 マギアには、そう言うイメージと先入観しかなかったでござるし、実際、今まで誰もソレは試していないでござるなぁ』
事例なしだった。
ってか、盲点だったと逆に興味の対象になってしまった。
『まぁ、ガントレットやアンクレットとして発現させている人たちもいるでござるから、義手や義足の発現は難しくないと思うでござるよ』
『ってか、義手が発現できたとしても、それって動かせられるの?』
『う~ん…… 今までの例で言えば、基本は、人が操る、 ”モノ” の発現しかなかったでござるな。 まぁ、マギア自体も、魔力と言う不思議素材で出来ているでござるから、イメージ次第では、ワンチャンあるかもでござるよ』
『分かった。 取りあえず、ダメモトで試してみるわ』
って事で、できたらラッキーくらいのダメモトで試してもらう。
まぁ、ダメだったとしても、コレはおジジにあげるんだけどね。
「そういえば、マギアの生体認証って、指紋だったよな……」
「「「………………」」」
おジジの両腕を見て全員が沈黙。
「あ、足の指でもイケんだろ! 多分!!」
って事で、俺が椅子に座っているおジジの足を持ち上げて、足の指の指紋をマギアに押し当てて、足でマギアを踏んでいる様な状態で足から魔力を流してもらい、マギアの所有者を認証登録させてみる。
「「「おぉぉー」」」
無事に所有者を登録させる事が出来たらしく、マギアを中心にして、周りに4つの光のリングが現れて、
「ん……?」
その光のリングが解けて、線になって、おジジの足とマギアが光の線で繋がった。
「ふむ……」
そして、ソレに何かを感じ取ったのか、おジジが納得したかの様に、楽しそうに口角を持ち上げた。
そして、おジジが徐に魔力を込めると、
「なるほど」
「承認、できたね……」
踏みつけていたマギアの代わりに、おジジの足の下にナイフが現れた。
「コレは、なんとも、便利な道具よのぉ」
「でも、魔力持ちにしか使えないから、魔力が無い神格者は使えないけどね」
「ふむ。 これは、魔力持ちを1本線の神格者に押し上げてくれておる。 まぁ、理の代わりに、魔力がその役割になっておるから、神格者の理の具現化には遠く及ばぬがのぉ」
それでもって言いながら、おジジはおもちゃを与えられた子供の様に目を輝かせている。
「長生きはするもんじゃな。 枯れた身ながら、まだまだ高みを目指せそうじゃわい」
「おじいちゃんなんだから、程々にな……」
「ホっホっホっホっホっ──」
とても嬉しそうに笑う、4本線の神格者に匹敵するって言われている、魔法使いのおじいちゃん。
「便利とは言うても、コレは今すぐにどうこうできる代物ではないのぉ。 ワシの魔力とは、別の動力で具現化されておる、のか? いくらワシが魔力を込めても、コレ以上、具現化させられる質量を増やせぬのぉ」
なんの説明もなしにマギアの特性や機能を理解するおジジ。
流石は大魔導士で、空中都市の最高責任者。
魔法や魔道具への理解が半端ない。
「マギアは、この地上の虚無からドロップされる魔石ってのを使って魔力をとりこませて、具現化できるリソースを増やしていくんだとさ」
「ふむ。 そう言う事か。 コレを考えた者は、魔力を使う者の事を熟知しているとみえる。 素晴らしい」
「え? ナニソレ? マジ?」
おジジはマギアの考案者を大絶賛。
でも、俺の頭の中には、アニ豚と、俗世にどっぷりなウP主の、ニチアサ脳のダメな大人の汚い姿が。
「だが、コレを使ってワシの手足の代わりとするには、まだまだリソースが足りぬのぉ……」
「自分の魔力をそのまま使えないとか、ぶっちゃけ、不便極まりねぇなコレ……」
やっぱり、豚とウP主が考えたモノは欠陥品。
俺はそう思ったんだけど、
「いや、コレはそれでよいのだ」
おジジはそう思っていないらしい。
「己の魔力と外部の魔力を分ければ、己の魔力を消費せずとも戦う手段を得られることになり、それは、魔力を用いて戦う者にとって、大きな戦力アップとなる」
「なんで?」
「この魔道具を利用するにあたり、常に己の魔力を注いでおったら、逆に本元の魔法が使えなくなるわい」
あー、なるホロ。
まぁ、おジジがソレで良いならそう言う事なんだろうな。
「そんじゃ、無事にマギアが使えたんだったら、そのまま俺も少し実験させておくれ」
「実験じゃと?」
俺の言葉に少し首を傾げたおジジ。
でも、子供みたいに目が輝いている。
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