なんて言うか、ザ・神殿
朝。
昨日の夜にダークマターを展開させて、アンナを感知できるかもな準備は整えた。
後は、ピラミッド ダンジョンに入って、自重無しにダークマターを張り巡らせてアンナを探す。
雫にも、揉み消すから自重するな言われたし、全力でやってやる。
身も心も準備万端。
って事で、協会の中なう。
『ピラミッドダンジョンに行くので、パーティー登録をお願いするでござる』
そんで、カウンターにいる、昨日、俺が会ったおっさんにそう告げる桜田。
協会のおっさんも見るからに動けなさそうなおっさんだけど、眼鏡で豚な桜田も、おっさんに負けず劣らずと、全く動けなさそうな風貌。
『………………』
そんな豚からのリクエストに、明らかにゴミを見る目を向けるおっさん。
協会のスタッフとは言え、こればかりは隠す気はないらしい。
『それじゃぁ、パーティー全員のマギアとカードを』
桜田が俺たちのマギアとカードを集め、
「はいでござる」
『………………』
おっさんがカードとマギアを受け取って、ダンジョンに入るに相応しいかどうかの確認を始めた。
そんで、真っ先に桜田の、次に雫のマギアレベルを見て、
『ないわー……』
ってか、二人の後ろにいる俺を見て、
『魔女じゃん…… バーサーカーじゃん…… 本当に連れて来たんか……? あんちゃん……』
ガチでドン引き。
そんで、桜田と雫を凝視した後、頭を抱えてカウンターに突っ伏した。
頭痛かな?
昨晩飲みすぎたのかな?
「たまたま知り合いだっただけで、たまたま一緒に居ただけですよ」
『そんな偶然あってたまるか。 あんちゃん、一体、何者なんだ……?』
「モブな一般市民です」
『いや…… うん。 これ以上、俺は何も聞かんし突っ込まん。 好奇心は猫を殺す。 藪蛇でとばっちり食らうのとか、絶対にごめんだ。 家で俺の帰りを待つチビ達に悲惨な思いはさせたくない』
おっさんは、極力俺に関わらない様にしようと、淡々と無言でパーティー登録を進める。
協会でパーティー登録を終えて、その場でタクシーを拾ってピラミッドダンジョン前なう。
入り口近辺は、網状のフェンスで厳重に囲まれていて、ガチな銃を持った軍隊とか警察みたいな人達がガードしていた。
「物々しいな……」
「初期の頃のダンジョンを思い出すでござるなぁ」
「え?」
「 ダンジョンが現れた初期は、何処のダンジョンも、こんな感じで一般の人が入れない様にしていたでござるよ」
「………………」
そうなると、雫達は、こんな状況の中、あえてダンジョンに入りまくって、馬鹿みたいにマギアレベルを上げまくったって事になる。
マギアレベルを上げるのが先か、ダンジョンに入ったのが先かは知らんけど、マジでモブの俺には考えられない狂い様。
桜田達は雫のせいで、相当苦労したに違いない。
もしかして、俺もアイツらと同じ事をさせられたのであろうって事を考えただけでも、
「鬼畜か……」
マジで人間不信になりそうだ。
そんなガッチガチなゲートでパーティー証と入ダン許可証を提示して、
『どうぞ!』
『ご武運を!』
「………………」
何故かクッソ敬礼されながらフェンスの中に入る。
ってか、桜田に見せてもらった入ダン許可証の恥の方に、手書きで『魔女とバーサーカーとそのお供』ってアラビア語で書かれてた。
協会のおっさんが配慮して一筆入れた様にも思えるけど、
「これを見た周りへのとばっちりと、責任転換したいんだろうな……」
おっさんは一人で抱え込みたくないらしい。
そんな入ダン許可証を見たセキュリティーの人達は、驚きの早さで無線でどこかに連絡している始末。
なんか、大事になってきた……
フェンスから少し歩いて、最大規模を誇る、クフ王のピラミッドにある入口に向かう。
本来であれば、クフ王のピラミッドの入り口は、盗掘で破壊された箇所なんだけど、ダンジョンの入り口は、ピラミッド前にある神殿みたいな所が入口にあたるらしい。
周りの砂と同じ色の巨大な柱。
結構な高さがあって、太陽が燦燦と輝いているのにも関わらず、柱と柱の間より向こう側の中が暗くて、何も見えないと言う不思議現象。
空中都市のゲートとは違った、黒一色の入り口。
見るからになんか怖い。
ってか、よくこんな所に入ろうって思ったよなコイツら……
って桜田達とダンジョンの入り口へと、交互に視線を行き来させる。
そんな中、
「それじゃ、僕達は此処まででござる」
「え?」
桜田達が足を止めた。
「『え?』じゃねぇ。 私たちにはクッソヤベー用事があんだよ。 今夜、日本に帰るんだよ」
「今夜って…… 今まだ朝だろ? だったら少しくらい中に入れば──」
「──無理でござるよ。 入ったら入り口が消えてしまうダンジョンでござるよ此処? 紅葉氏の知り合いも、入って何日経っているでござるか?」
「2週間、以上……?」
「ホレ見ろ。 入ったらホイホイ出れねぇだろぉが。 ってか、マジで悪ぃけど、直ぐに外に出れないダンジョンには、私たちは入れねぇ。 ってか、あの黒い薬のせいで、色々とキナ臭い事になってきてんだよ」
「………………」
「まぁ、オマエは自重せずに暴れてこい。 そんで、オマエは財宝をしこたま手に入れて、その手に入れた財宝は山分けだ。 おk?」
「いや、俺が財宝を手に入れたとしても、流石に山分けって事はないだろ……? ってか、お前ら何もしてねぇじゃん……」
マジで自分の耳を疑ったわ。
どんだけ強欲なんだよコイツ……
「はぁ? 誰のおかげでエジプトまで来れて、誰のおかげで規制されてるダンジョンに入れると思ってんだ? って事で、誠意ってのが必要だろ?」
「………………」
考え方が完全に反社の輩じゃねぇか……
誠意 = 金目のモノって……
完全にソレ目当てじゃねぇか……
ってか、俺のアンナとお揃いの財布、無理矢理売らされたし……
旅費も宿泊費も実費だし……
ダンジョンに入れたのだって、勝手についてきたお前らのレベルが偶々高かっただけだし……
マジで納得できない箇所が多すぎる、雫のクソすぎる言動。
「って事で、お前は隅々まで財宝を探してこい。 手ぶらで帰ってきたら、殺すからな?」
「………………」
ってか、アンナを救出すると言う目的から、今のコイツのオツムの中身は、完全に主旨が変って宝探しになってしまっている。
最凶で最悪な鳥頭。
もう、さっさと帰ってしまえ!!
「そんじゃ、行ってくる……」
シーカーライセンスを用意してくれたアレとかもあるから、クッソ文句を言いたいけど、言えずにゴックンする、モブな俺。
ベルトに通してある腰のボックスポーチに手をあてて、ちゃんとZIPが閉じている事を確認。
この中にはライセンスカードとマギアが入っているから、失くしたら桜田にクッソ怒られる。
背中のデカいバックパックには、軍で使っている携行食がわんさか入っているし、10リットルある水がなくならない限りは大丈夫だろう。
ってか、こんなんクソ重すぎて、モヤシな俺が持って歩くとかマジで無理すぎるから、バックパックをダークマターでコーティングして、右手の能力で浮かせている。
これに気付いた俺って、マジで天才!!
さすが俺っ!!
って事で、ダンジョンにGO!
………………
…………
……
…
真っ黒が広がる神殿みたいな入口。
まるで、俺のダークマターみたいな黒さ。
そんな黒の中に手を入れて、足を入れて、半身を入れてみて、
「………………」
最後に目を瞑って顔を入れ、全身を前に動かす。
顔や身体に何かが掛かる感じはなかった。
鼻腔の奥に届く、砂の様にザラつく少し埃っぽい匂い。
そんで一気に閉じていた目を開けると、
「………………」
なんて言うか、ザ・神殿。
入口と同じ様な、砂漠と同じ色をしたでっかい柱が規則的に配置され、これまた同じ色の壁には、
「絵…… 象形文字か……?」
アンナから聞いてた様な絵柄が彫られている。
足元には、石のタイルみたいなものが敷き詰められていて、疎らに砂が積もっている。
ってか、
「なんで見えてるし……?」
何故か視界が確保できている。
柱とか壁とか足元のタイルが薄く発光していて、室内で電気をつけているくらいの明るさがあった。
それよりも、
「入口、どこ行ったし……」
背後にある筈の入り口が消えていて、どこかに続く回廊が先へ先へと広がっている。
って言うか、背後とか辺りを見回したせいで、
「コレはマジでヤベーな…… 洒落になんねーぞ……」
何処が前で後ろか分からなくなった。
協会のおっさんが言っていた、迷子者続出な理由を早くも理解。
けど、
「自重、なし、っと」
足元からダークマターの細い線を発現させて、地面とか壁に張り巡らせていく。
全部を一気にダークマターで覆ったら、光源が減って視界の確保ができなさそうだったから、光源の邪魔にならない様に考えた結果がコレ。
さぁ、俺のダークマターよ!
アンナを探して来るのだ!!
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