マジで世紀末な世界になってるわ……
リリマナの理である、”治癒” によって、雫のエルフへの、ひいては空中都市への落とし前はなんとか薄まった感じになった。
ってか、リリマナの治癒ってマジでスッゲーのよ。
俺としては、そのまま手首千切れてしまえって思ってたんだけど、
「スッゲー……」
「みるみる治っているでござるよ……」
「玉藻さんのとは違う感じだね……」
雫のグチャな手首が数秒で元に戻ったの。
そりゃぁ、この前も、一人で階位4の虚無を相手に生き延びていたわけだ。
この前、丁度、リリマナが治癒を使っている医療現場に遭遇して、
『リリマナの理が ”治癒” だったんなら、あの時、アンナと共闘して虚無を倒せばよかったじゃん? なんでアンナが大怪我して殿してたし?』
少し怒りコミコミで聞いてみたら、
『うわー…… モミジさん、見るからに激オコですね…… そのですね、私の治癒は、治癒を受けた者のカロリーが著しく低下するんですよぉ。 なんて言いますか、身体自身が自身の治癒能力を使って、全力で急いで回復している感じ? なので、アンナさんがあのレベルの虚無と戦いながら治癒を受け続ければ、内臓に異常をきたしたり、思考能力の低下になって、それこそ、戦うどころじゃなくなるんですよねぇ』
ってことらしい。
『要は、受けた治癒によって極端にお腹がすいて、極端にカロリーが減ったら、内臓がヤバくなって戦うどころじゃなくなるってこと?』
『ですです。 なので、あの時、私、いろんな意味で本当に死にかけてたんですよねぇ…… 自分を治癒で回復させているのに、逆に死に近づいているって感じで……』
『治癒って言うか、もう、逆に特殊攻撃じゃんよ』
『そういう事もできますけど、基本、健康体にはあまり治癒の効果はないので、特殊攻撃するにも、攻撃して治してを繰り返すって感じで、そこに至る道のりは遠いですよ……』
結論、リリマナの治癒は酷くお腹が減る。
それはもう、治癒の度合いによっては、内臓に異常をきたすレベルで。
って事で、
キュゅぅぅぅぅ──
「──!? ひゃぃ!?」
治癒された雫のお腹が絶賛大合唱中。
「オマエのクセに、カワイイ音させてんな? 腹の中で小動物でも飼ってるのか?」
「バっ──!? オマエのクセにってなんだよ!! レディーの腹の音に悦ってんじゃねぇよ! この変態クソモヤシ!!」
バーサーカーからは想像がつかないくらいの、実に可愛らしい音をたてて、人前で、大音量で野外ミュージックフェスをしている雫の腹。
それはもう、
「見るな!! 聞くんじゃねぇ!! 殺すぞ!!」
耳まで顔を真赤にさせて、恥ずかしさのあまりに、腹を隠す様にその場で膝を抱えてしゃがみこんでしまうくらいに。
「ないな」
「ないでござるな」
「ないね」
俺達は、鬼の雫にあるまじき、ウブな少女みたいな乙女チックな挙動を初めて見て、全否定しまくった。
ホント、マジでないわー。
「マジで微塵もギャップ萌えもこないし、寧ろ、音が可愛すぎて逆に腹立ってきたわ」
「黙れモヤシ!! 殺すぞ!!」
「………………」
最早、恥ずかしすぎるからなのか、語彙力が低下しまくって、黙れと殺すぞってしか言わなくなった。
ホント、口が悪くてクソムカつくBOT。
って事で、恥ずか死んでいる雫の腕も回復したから、
「そんじゃ、行くぞおまえら? ってか、俺はもう行くからな?」
今度こそ、アンナ探しの旅に出る。
いつものっポいゲートを潜って、いざ、懐かしの地上世界へレッツゴー!!
………………
…………
……
…
はい。
帰って参りました、我が懐かしの故郷。
でも、
「おぅふ……」
ゲートの先は仰々しい感じになっていて、ゴツい銃を持った自衛隊みたいな人達が守っていた。
「ナニコノ厳戒態勢? もしかして、俺絡み?」
色々とやってしまってるって自覚がないわけじゃないから、マジで色々思わされる光景。
「でござるな。 紅葉氏を捕まえるためでござる」
「え?」
恐れ慄き、肯定した豚を見る。
「ハハハ── 違うよ。 一般人が勝手にゲートに入らない様にしてるだけだよ」
「え?」
クリリンの説明を聞いて、ムカつく顔でニヤケているクソ豚を睨む。
この豚!?
絶対に早々にひどい目にあわせてやる!!
覚えてろよ!!
俺が心の中でピッグをポークに変えるためのアイディアを考えていると、
「んじゃ、さっさと行くとこ行くぞ」
空腹を訴える様にお腹を擦りながら歩き始めた雫。
そんな我が物顔で歩いていく雫に、
「え?」
ビシって敬礼しまくる自衛隊の方々。
どうやらマジで、あのバカが権力を持ってしまったらしい。
この世はもう、世紀末だ。
ゲートがある部屋から出ると、何処かの野営基地的な風景が飛び込んできた。
そして近くにいた、偉そうな見た目の、明らかに雫より歳上な人に向かって、
「オイ。 私達が入ってから、どれくらいの月日が経った?」
雫が偉そうに質問した。
「ㇵっ!! 25日程です!!」
「ほう。 そんなに経ったか……」
さも当然かの様な偉そうな受け答えで、なんか無性にムカつく。
「って事は、僕達が空中都市に居たのは大体5時間くらいでござるから、向こうの1時間で、地上では5日程…… って事でござるな……」
そして、話を聞いていた、見た目学者っぽいキモ豚が、感慨深く眉をひそめた。
ってか、俺って、リアル浦島じゃん……
ずっと前に雫のジジイから聞いた、都市伝説浦島太郎が、ガチな感じで草。
時差が凄まじすぎて、時間の概念がぶっ飛びそうだ。
「葵ちゃん。 この事も報告対象で」
「了でござ!」
何気ないこの雫と桜田のやり取りで、2人の上下関係が垣間見え、
マジで世紀末な世界になってるわ……
帰って来た地上に不安しかない。
………………
…………
……
…
雫達が、近くのテントの中で何やら報告して、やっと街中を歩けたなう。
しかし、俺が空中都市に居た1ヶ月近くの間で、ここ、地上では、
「なんじゃ、こりゃ……」
10年の月日が流れていて、
「マジ……?」
まさに浦島太郎状態。
ソレをまざまざと思わせられたのが、
「コスプレ? マジ? え? 近くでイベントでもある感じ?」
戦闘アニメや漫画の、防具コスプレみたいな格好をした人達を、結構頻繁に道で見かける。
頻繁に見かけすぎて、イベントがある訳じゃないって事を悟った俺。
もしかして!?
コレが10年後のファッションの最先端なのか!?
奇抜かつ蛮族的な、俺には全く理解できないオシャレに戦慄。
完全に現役厨二病が蔓延る世界。
「な、なぁ…… あのファッション、流行ってんのか? さっきから見てたら、コスプレイベントがある訳でもなさそうなんだけど?」
かなり気になったから、勇気を出して桜田に聞いてみる。
なんか、ジェネレーションギャップに俺の感性と理解が追いつかない、まさしくおじいちゃんな気分。
「あー。 アレでござるか?」
俺の視線の先に居る、様々な防具を着ている格好の人達を見て、
「アレは、シーカー達でござるよ」
「は?」
全く理解できない言葉が返ってきた。
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