とことん俺を馬鹿にしやがるなコイツ
「オゴぉ──」
気付いたら身体が動いていた。
普段、虚無を狩っている時に自分の身体をチカラで操っている弊害か、ソレとも──
「アンナに、何をした」
──チカラ云々の純粋な感情からの行動なのか知らんけど。
とにかく、目の前にいるコイツが気に入らなくて、思いっきり拳を振り抜いていた。
俺に思いっきり殴られて、顔が横を向いたオッサン。
そして、深く被っていた帽子が吹き飛び、
「耳……」
現れた長い耳に視線を奪われた。
「オマエ、エルフか……」
俺を見ながら、無表情で口から流れている血を拭うオッサン。
「正確には、“人だった”、 だ」
「………………」
意味が分からん。
そんな事よりも、コイツにアンナの事を吐かせるのが先だ。
「アンナをどうした?」
「あガァ──」
続けて殴る。
「言うまで止める気は一切ないから」
「グゥ──」
殴りながらもオッサンの足をダークマターで拘束して、逃げられない様にする。
「アンナに、何をした」
「がハ──」
「言う気がないなら、このまま死ね」
「ガァ── ハハハハハハ── ハハハハハハハハハハハハ──!!」
「笑うな。 アンナがどうなったか以外で声をあげるな」
「バハぁ── ハハハハハハ──」
「黙れ」
「グ── ハハハハハハ──」
ダメだコイツ、壊れてやがる。
「──空中都市など、消滅してしまえばよい! 人間など、滅びてしまえばよい!」
「………………」
いきなり笑い始めたかと思えば、これまた訳の分からない事を言い出した。
「貴様が、エルフと呼ぶ者達の真実を知れば、正常な思考ではいられなくなろうだろう!」
「黙れ」
「ゴハっ──」
「アンナをどうした?」
「グフゥ──」
「エルフの真実がどうとか、俺が知るか」
「ガ──」
「俺は、アンナの事を聞いている」
「ブハぁ──」
殴られすぎて口の中が切れまくっているのか、オッサンは殴られる度に血を吐き散らしている。
「我らに楯突いた貴様とガラクシャは、我らの苦しみを思い知るがよい! アバぁ──」
「そんなの知るか。 そもそも、エルフとは初めましてだっつうの」
「ガハァ── 貴様が潰した上層部は、我と同じ思想の同士。 貴様とガラクシャは、邪魔な、存在!」
「………………」
「我らエルフは、貴様ら人間による、非人道な実験によって作られた者達! 虚無に抗えぬ人間は滅び! エルフが世界に君臨するのだ!」
感情剥き出しで訳の分からない事を捲し立てているオッサン。
ってか、そんな事よりも、
「──!?」
オッサンの身体が、ボコボコと沸騰してるみたいに蠢き始めた。
「さぁ! 虚無との共存を果たした、我らの、真の姿を見るがよい!」
オッサンの身体の肉が盛り上がり、変質して変色し、
「コレは──!?」
姿が変わっていくオッサンを見た桜田が驚いて声を上げる。
「──虚無に取り込まれているでござる!!」
「え?」
人間っぽいエルフだったオッサンは、全身が黒一色に染まった、まるで、漫画とかアニメで見る様な悪魔みたいな姿になった。
ってか、以前、アンナをボコった人型の虚無に似まくっているけど、あれよりも、造形的に人間より。
「ブハ──! ブハハハハハハハ──!! 死ぬが良い! 人間種よ!」
「──!?」
そんで、ダークマターで拘束されている脚を、自ら脚を無理矢理持ち上げて千切り、チカラずくで抜け出したオッサン。
しかも、
「千切れた脚が再生してるでござるよ!?」
千切れた端から細胞が蠢いて、みるみる内に脚を再構築しやがった。
「貴様の嫁とガラクシャは、人間種共への見せしめの為に、虚無の侵食の餌食となるのだ!」
「クソヤローが! アンナは関係ないだろ!」
「貴様に絶望を与え、貴様を此処で屠り、人間種共に我らのチカラを見せつけるのだ!」
「巫山戯んな! 俺は全く関係ねぇだろうが!」
「虚無を取り込み糧とする我らエルフこそが、脆弱な人間種に代わって世界に君臨するのだ!」
「だから、俺を巻き込むなっ!!」
って事で、熱弁中悪いけど、足元から沢山のダークマターのトゲトゲを発現させて串刺しに。
「ハァっ──!! この姿となった我は、階位9ぞ!」
って思ってたんだけど、アホみたいな動きでトゲトゲを躱された。
「知るか」
けど、
「ぬぅ──!?」
瞬時にハンドガンを発現させて追撃。
狙ってたお腹は躱されたけど、掠った脇腹の肉は抉れた。
ってか、外れた弾丸が壁を破壊して外が見え、此処が何処なのかやっと分かった。
「セントラルかよ……」
縦に横にと伸びる独特な建造物が乱立し、見間違う事がない景色。
取り敢えず、気になっていた事が分かったから少しスッキリ。
って事で、後は──
「桜田。 俺はコイツを片付けるから、雫達を安全な場所に運んで」
「了でござっ!」
──目の前の邪魔を排除して、急いで地上に向かうのみ。
「たかだか人間風情が、我に勝てるとでも思ってるのか?」
「勝てる勝てないじゃなくて、俺は、俺の安寧を邪魔する奴を排除するだけだ」
「クハ──! 身の程知らずが!」
「俺は、俺に配慮しない奴には、俺も配慮しないから」
って言いながら、身体の周りに纏っているダークマターの濃度を濃くする。
虚空から滲み出る様にして濃くなったダークマターが集まり、形になり、姿を現す。
全身を覆う漆黒の姿になった俺。
コレは、この前アンナに教わった、神格者の基礎の基礎。
自身の理を纏って、己の身を守る術。
霧みたいに薄いダークマターを纏うより強固で、自分の理で自分自身を操って動かす俺にとっても好都合なヤツ。
勿論、
「ごガァ──!?」
身体能力は爆上がりで、
「さっさと終わらせる」
身体への負荷を気にしなくて済むから、操る時も一切のラグとか躊躇がなくなる。
「アンナが地上に居るって言うなら、オマエに聞かなくても探せるわ。 愛のチカラを舐めるなよ」
左手の口を開いてダークマターを追加で撒き散らし、右手の目をギョロギョロさせてイメージ通りに形成する。
そして出来たのが、俺の周りで滞空している、無数のナイフ。
現れた沢山のナイフが列を作って俺をグルリと円で囲んで、
ィィィィィィィ──
外に刃を向けながら物凄い速さで周りまくる。
「化け物が!!」
「ソレはオマエの見た目だろうが」
リアル化け物に化け物呼ばわりされるとか……
とことん俺を馬鹿にしやがるなコイツ。
ってか、俺の周りで回っているダークマターから目が離せなくなっているオッサン。
「………………」
ビックリするくらい隙だらけすぎたから、
「な──!?」
コッソリ発現させていた、
「──なんだコレは!!」
沢山の極細の糸鋸みたいなヤツで拘束完了。
ソレがオッサンの最後の言葉になって、チェックメイト。
バラバラになって、フッコフコの絨毯に散乱する、オッサンだったモノ。
派手なヤツで目を引いておけば、隠されたモノに意識がいかない作戦成功。
って事で、見知らぬオッサンの一人をダークマターのドームから顔だけ解放。
「──!?」
さぁ、色々と情報を吐いてもらおうかしら。
お読みいただきありがとうございます。
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