もう無理
見た事あるって思ったら、
「先ずはお前が死ね!! クソモヤシ!!」
「相変わらずの特級呪物具合でござるな!!」
「シスコンじゃないから!!」
どうやら本人達だったお。
って事で、俺は空中都市サイドから地上メンバーの横に移動。
でも──
「オマエら、老けてね?」
──何故か俺と同じ歳の雰囲気じゃぁない。
なんて言うか、大人?
老けてる?
「ったりめぇだボケっ!! オマエ、自分が何年失踪してたと思ってんだ!?」
「へ?」
ギャル要素が抜けた大人しめな茶髪ロング且つ、なんか、できるお姉さんみたいになっている雫。
「ホント、ソレでござるよ。 紅葉氏が急にいなくなってから、もう、10年経っているでござるよ……?」
「え”!? ま“──!?」
経年劣化でキモさに磨きがかかった、研究者みたいな風貌のアニ豚。
「やっと見つけたら、こんな所に居たとはね……」
「………………」
青っチロい草食系から、健康的に日焼けしたアスリートとみたいな顔と身体つきになってる、肉食系に様変わりしたイケメン。
ってか、10年──!?
ウソでしょ!?
なんで!?
「オマエら…… マジで言ってんの、ソレ……?」
「”マジ“ でござる」
そう言う大人なアニ豚は、何処からともなくドギツイピンクのワンドを発現させ、
「ってか、なんでオマエはあの時のままなんだよ!? 私に対する嫌味か!?」
完全にお姉さんな雫が手をワチャワチャさせて印を組み始め、
「紅葉、本当に不老不死になったんだね……」
アスリートっぽい見た目のイケメンが、右手で寝かせた拳を作って、左の掌と一緒に前に突き出す。
「イヤイヤイヤイヤ!? 俺が此処に来てから、まだ、1ヶ月くらいしか経ってないぞ!?」
空中都市側のメンツや対応もそうだけど、桜田達が言っている事にもマジで意味が分からない状況。
色々とお互いに齟齬があって、まるで、俺だけが、違う世界にいる様な感じなアレ。
「モヤシ。 取り敢えずその話しは後だ。 空中都市側のアイツらは、そう言う事で良いんだな?」
まぁ、どっちの問題が先かで言えば、目の前で敵意を露わにしているアイツらをどうにかする事が先だから、
「うん。 あんなヤツら、俺は一度も見た事も会った事も無い。 状況的に考えて、アレはダメなヤツ」
「分かった。 って事で、聞いたなオマエら! 自重しないで返り討ちにしろ!! ってか、自分の身は自分で守れよ!」
相変わらずの馬鹿丸出しな考えに、
「フハっ──! 相変わらず、ヒデー言い様だな!」
なんだか懐かしくなって、思わず笑ってしまう。
「この場の責任は、全部モヤシに丸投げするぞ! 能力、使用許可!」
印を組み終えた雫の両手の指先に、ドリルみたいに巻かれた紙が発現し、
「は!? 巫山戯んなオマ──!?」
「輝け月! 煌めけ星! 照らすは太陽! 望むはマジカル──!」
豚が変身呪文を唱え始め、
「首相達は僕の背後に!」
クリリンの右手から、畳みたいなサイズの光の壁が現れた。
それを見ていた前髪白髪のオッサンが、
「──かかれ」
全く感情が篭っていない声で合図を出したと同時に、
「葵ちゃん! 土ぃぃぃいいい!!」
「アースランス!!」
双方が激突した。
雫の左右の床から、襲いかかって来る兵士達に向かって、先端が尖ったデッカい岩が現れて、
「やっと来れたと思ったら、マジでクソみたいな歓迎しやがって!」
ソレを両手の指先で引っ掻きながら兵士達に突っ込む雫。
相変わらず戦闘狂な性格は変わってない雫。
ってか、動きに磨きがかかっていて、
「………………」
バトル漫画みたいなイカれた動きでもって、一人で大勢の兵士達を相手取っている。
「オイ…… アイツの動き、ヤバくなってね……?」
桜田に雫のヤバさ具合を確認してみたんだけど、
「いや…… オマエも、ヒデーな……」
さっきまでオッサンだった豚は、俺と同じ歳くらいの魔法少女だった。
「何がでござるか?」
「詐称とか詐欺どころの変化じゃ済まされんぞオマエ……」
「心配ないでござる。 コレが僕の本当の姿でござるから」
「社会的心配しかねぇんだけど?」
「魔法少女は不滅の存在でござる──!」
俺には微塵も理解できない病気じみた事を言いながら、
「──っよ!!」
「アバババババババババ──!!」
向かってきた兵士を、なんのエフェクトも無い、地味過ぎる電気ショックで仕留めた豚。
相変わらず、魔法少女の華やかさを強調しないガバガバロールすぎて、草も生えん。
豚に呆れながら、みんなの相変わらずな癖が強い個性を懐かしく思っていたら、
「オイ! クソモヤシぃぃぃ!! ボサっとしてないでオマエも手伝えぇぇぇえええ!!」
バーサーカーから指名が来た。
「うぇぇぇ…… マジで?」
「マジでじゃないでしょ紅葉!? なんでこんな状況でそんなにのんびりしてるのさ!」
雫だけじゃなく、戦えなさそうな3人のオッサンを護りながら、次々に向かって来る兵士にデカい光の壁でシールドバッシュしまくっているクリリンにも文句を言われた。
「だって〜──」
「だってじゃないでござるよ! こんな閉鎖空間だと、僕は全く輝けないでござるよ!」
「………………」
いや、オマエは輝く以前の問題だから……
久しぶりに会ったって言うのに、グチグチと文句ばかり言われている事に萎えながら、
「こんな程度のヤツら──」
右手の人差し指をクイって持ち上げて、
「──マジで一瞬で済むじゃん?」
周りに散らしていたダークマターを操って集めて、
「はい、確保ー」
兵士達の手足を拘束する様な形で物質化させて、
「ふゴォぉぉぉ──!?」
「急に手足が重く──!?」
身体の自由を奪っていく。
ダークマターの重さに耐えきれずに、30人くらい居た兵士達が、次々とフロアに磔にされた。
「オマ……」
「この人数を一瞬で……」
「なんでござるか、ソレ……」
「ん? コレ? 空中都市には娯楽が無さすぎて暇だったから、色々と練習したの」
「いや、娯楽が云々じゃなくて、黒いモヤモヤが急に空間から滲み出て来たでござるよ……?」
俺の所業を見てドン引きしている魔法少女。
ってか、魔法少女だけじゃなく、この場に居る全員が動きを止めて俺を見ている。
「……ジロジロ見んなし」
ってか、アホみたいに隙だらけすぎたから、
「あ“──!?」
「オイ──!?」
「え─!?」
偽物臭いオッサン達をダークマターで閉じ込める。
しかし、
「流石は9本線。 こうも一瞬でこれだけの数を鎮めるとは」
前髪白髪のオッサンだけが、俺のダークマターから逃れていた。
捕まえたって思ってたんだけどな……
「あのガラクシャに気に入られていると言うのは、戯れや酔狂ではないと言う事か」
「おジジをアノ呼ばわりして呼び捨てとか、不敬罪だぞ?」
「私を罰せられる者がいたら、そうなるだろうな」
前髪白髪は、相変わらずな無表情で、俺を見下す様に見ながら棒立ち。
やる気がないとか、舐めてるとかじゃなくて、視線は向けているけど、俺を見てすらいない。
「オイ、モヤシ。 アイツは一体なんなんだ?」
俺が居る所まで下がって来た雫が、前髪白髪から一切視線外さずに俺に問いかける。
「知らん。 今日初めて会った」
「んなわきゃねぇだろ? アイツはオマエの事、知ってる感じじゃねぇか」
「まぁ、色々あって、俺は、知る人ぞ知る的な感じになったんだよ」
「モブ、卒業でござるか?」
「卒業した覚えも、するつもりもないし」
今は俺のモブ具合がどうのこうのは置いておいて、あのオッサンはなんかヤバい感じがする。
ってか、俺の不意打ちダークマターが躱されたのとか、マジで初めて。
最近狩った、階位5の虚無でさえ、俺の不意打ちダークマターは躱わせていなかったってのに。
「今更聞くけど、おジジ、何処?」
「地上だ」
「何処の?」
地上ってだけ言われても、空中都市に一体どんだけの地上があると思ってんだよ。
「聞いてどうする?」
「そっちこそ、ソレを聞いてどうする?」
どうせ言うわきゃねぇよな?
「アンナ、とか言ったか……?」
──!?
「オイ…… なんで今、その名前を此処で出した?」
一瞬で俺の感情が沸騰した。
「此処に来る前に少々な」
「少々ってどう言う事だ!」
ヤバい。
嫌な予感しか湧いてこねぇ。
秒もかからずに心臓の鼓動が速くなる。
ソレが自分でも分かってしまって、嫌な焦りを覚える。
「2本線にしては、大分粘っていたな」
「オマ──!?」
ダメだ。
完全にペースをずらされた。
分かっているけど、自分を抑えきれない。
「地上の事を我々がなんと呼んでいるか知っているな?」
「急に話が飛びすぎだろ! ってかアンナをどうした!」
「 ダンジョン。 地上と言うのは、虚無の出現によって様相を変える」
ヤバい。
もう無理。
「さっきから会話が成り立ってねぇんだよ!」
って事で、その辺に散っているダークマターを使って脚を潰しておく。
「──!?」
って思ってたけど、
「この様なもの、タネさえ分かれば容易に躱せる」
モヤモヤを固めて凝縮させて脚を潰す前に、バックステップで避けられた。
けど、
「じゃぁ、死んどけ」
前髪白髪の横から急に現れた雫が抜き手を放った。
「──!?」
しかし、
「奇襲で声を上げるとは、無能か?」
雫の右の抜き手をノールックで掴まえて止めた前髪白髪。
「レディに気安く触るな!」
右腕を掴まれた状態から続けて左手の抜きを首に向かって突き出すも、
「この程度か?」
首を横に傾けて躱されて、
「ぐぁっ──!?」
掴まれていた手首が潰された。
「木梨さんを離せ!」
半身になったクリリンが俺の背後から飛び出して、フェンシングみたいな感じで光の剣で突きを放つも、
「グゥ──!?」
雫を横から叩きつけられて、攻撃を潰されて、2人が半円卓を巻き込みながら派手に飛ばされる。
そして、
「虚無に侵食される前の、生きている地上の時間の流れは早い」
前髪白髪が初めて顔に表情をつけて、
「こうしている間に、貴様の嫁とガラクシャは、どれ程年老いているのであろうなぁ?」
俺に歪んだ笑顔を向けた。
「オマエ──!?」
お読みいただきありがとうございます。
モチベになりますので、★やブクマを頂けましたら幸いです。




