人生死んだも同じである
「まぁ、立ち話もあれだから座れ」
10人くらいが座れそうな会議テーブル。
おジジに促されて、適当に椅子に座る。
俺はおジジの真横に座った。
「フハっ── モミジよ。 これじゃ話し辛いから対面に座ってくれ」
「そうか?」
おジジが笑いながらそう言うから、対面に移動して座り直す。
俺としてはどうせ話を聞くだけだから何処に座っても同じなんだけど?
「ジダからオマエを呼んだ理由は聞いたか?」
「聞いたよ。 ってか、タカマガハラに地上から使者が来るってマジ?」
「あぁ。 2日後の朝にな」
「ってか、タカマガハラの地上に行けるゲートって無かったよね?」
そうなんです。
アンナも元気になったから、一回、地上に帰ろうって思ったけど、なんと、地上に行く為のゲートが無かった。
って事で、空中都市に来た時と同じ様に壁を超えて地上に行こうって思ったんだけど、
『無理だから!? ボクはモミジと違って次元の壁は越えられないから!!』
って全力で拒否された。
ってか俺的には、そんな次元の壁とか越えた覚えも触れた記憶も皆無。
普通にビュンってやってビュンって登って来た記憶しかない。
「うむ。 ごく最近発生した」
「発生した?」
ナニソレ?
雰囲気的にゲートが突然生えて出て来たみたいに聞こえるんだけど?
「左様。 地上へのゲートは、空中都市の技術を持ってしても繋げる事はできん」
「なんで?」
「空中都市と地上は、存在する次元が違うのだよ」
「………………」
はい出ました。
またしても次元がなんたらかんたら。
「空中都市同士も、存在しておる次元がそれぞれ違うのだが、固定されておらぬ次元、所謂、次元の狭間にある為、今ある場所の座標さえ分かればゲートを繋げられる」
「全く意味が分からん」
「例えるなら、この階層には、ワシらがおるこの部屋の隣にも部屋があり、そのまた隣にも部屋がある。 階層が同じであれば、部屋と部屋に穴を開けて、部屋伝いに繋がれる様になる。 だが、地上に行く為には、一階層下へ降りなければならない。 だが、ワシ達の階層には、下に降りる階段がないから行けないのだ」
「え? 階段が無かったら、窓から降りれば良いんじゃないの?」
「クハハハハ── お主の言う事も分かるが、それができれば苦労しておらんわ。 だが、空中都市にも1つだけ、下に降りる階段はある。 それは、空中都市が次元の狭間に飛ぶ前の世界のものであり、他の世界のものではない」
マジでおジジの話の意味が分からん。
「じゃぁ、なんで今は沢山の空中都市に、其々が地上に行けるゲートがあるんだよ? 生えてきたのか?」
おジジが意味深気に口角を吊り上げた。
本人はニヒルなつもりだろうが、いかんせん、見た目がシワッシワで枯れているから、何処ぞの名高い妖怪にしか見えなくて草。
「そう。 地上へのゲートは生え出て来る」
「マジ? 言葉のまんま、マジで生えてくんの?」
「あぁ。 言葉のまま、生え出てくる」
「いや、無理くね?」
さっきのおジジの説明通りだと、地上が次元の狭間にある空中都市に侵食して来たって事だよな?
「地上世界が虚無に侵食され始めた場合、次元が繋がるのだ」
「は?」
今、なんつった?
「モミジがいた世界が虚無の侵食を受け、次元に触手を伸ばし始めたのだよ。 それ故に、同じ次元の縦軸上にあったタカマガハラと繋がってしまった」
「ってか、え? 俺の世界って、虚無の侵食を受けてるの?」
「うむ。 今はまだ初期段階ではあるが、早急に対策をしなければ、メガラニカの地上の様に、文明や人はおろか、あの世界自体が枯れてしまうだろう」
「マジ──」
どうせ、上の世界と下の世界の交流を深める為の親善大使的な調停とかなにかって思っていたけど、
「──かよ……」
おジジの話は、俺が思っていた以上にヤバかった。
この話がマジって事は、おジジの真剣な顔を見てなんとなく分かる。
ってか、こんな複雑な話をバカで何も知らない俺にしている時点で、俺を騙してどうのこうのってのは考えられない。
俺を手懐けるのであれば、逆に地上を人質に取った方が効率が良い。
「ワシ達、空中都市は、虚無の侵食を受けて突如として生えて来た地上の事を、【ダンジョン】と呼称しておる」
「 ダン…… ジョン……」
「空中都市は、 滅びゆく地上、ダンジョンから文明と技術を保護、保管、継承する事を使命としており、此度発生したダンジョンの勝手を知るモミジに、色々と動いて欲しいのだ」
「ちょっと待って……」
今、滅びゆくって言ったよな?
「地上と繋がった理由は分かったけど、おジジ、今、滅びゆくって言ったよね?」
「うむ……」
「虚無に侵食された世界は、俺が見て来た他の地上と同じ様に滅びてしまうの?」
「うむ…… いくら魔法やスキルを使え、いくら神格者がいたとしても、虚無の侵略には抗えぬ。 虚無に抗うと言う事は、世界を自由にできる神を相手にしているも同義」
「……だから、ハコがいるのか……」
世界を滅ぼす神と戦うには、世界を作った神でなければ抗えないと……
「ハコ?」
「おジジ、ハコの使いって聞いた事ない?」
「長い間生きておるが、聞いた事がないのぉ」
「俺が9本線になるきっかけだった、おジジから貰ったボロい紙切れ、アレは何処で手に入れたん?」
「アレの出所は、古すぎて記録がない。 気付いたら此処にあった、と記憶しておる」
「そう、なんだ……」
空中都市はハコの使いを知らない?
いや、アレがあったって事は、昔はいたかもしれない。
もしくは、ハコは地上にしか現れない。
空中都市はあくまでも次元から切り離された都市であって、世界じゃないから、空中都市にハコが現れる事はないんだろう、多分。
って言うか、地上の文明が滅びたら、俺の好きなサブカルが消滅する。
ゲームもアニメも漫画もプラモもラノベも……
全部潰えてしまう。
そんなのはマジで嫌だから、
「おジジ。 俺、何すれば良い? 虚無をぶっ倒して、侵食を止めれば良いのか?」
自分の今後の生活の為の、地上をなんとかしなくては。
このまま娯楽もサブカルもない不老不死とか、そんなのは、人生死んだも同じである。
「うむ。 先ずは、2日後の会議にワシと一緒に参加して、地上の状況を聞いてくれ。 基本、ワシ達空中都市は、これまで通り、滅びゆく地上から文明や技術を収集する事を先決とするが、それ以外はモミジに一任しても良いとすら考えておる」
「へ? 俺に一任? なんでそうなるし!?
無茶言うなよ!? 俺なんてモブぞ!? 普通の大学生ぞ!?」
なんか急にクッソ重い感じになってきてんぞコレ!?
俺に一任とか、俺的には、サブカルの収集と保存と継続しか興味ないんですけど!?
「フワっハハハハハハハ── 何処の誰が何を言おうと、拙い見た目で判断しようが、9本線の神格者、それがモミジよ。 所詮、オマエには誰も抗えぬよ」
完全に俗物思考しかない俺を見て、楽しそうに豪快に笑うおジジ。
「そんな事言われても、俺には無理ぞ……」
なんか、凄い事に巻き込まれてしまってね、俺……?
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