あ、コレが……
魔法陣に手を当てて魔力を発現させた。
瞬間──
「──!?」
──普通だったら単に、魔力が身体から出て、倦怠感しか感じないけど、
「──ウぇっ!?」
何かが抜け出ていくような倦怠感と同時に、逆に手から何かが身体に侵入してきたみたいな、結構、気持ち悪い感覚が。
しかも、
「んが──!?」
頭の中に何かがヌルって滑りこんできた様な、モヤモヤっとした違和感。
ソレは、以前にはなかったのに、まるで以前からあったかの様なちょっとした存在感を放っている。
例えるなら、行きつけのコンビニの、毎日のように見ていた筈の陳列棚に、気づけばいつのまにかあった新商品、みたいな感じ。
当に、
『アレ? こんなのあったっけ?』
的なアレ。
そして、ソレを意識したと同時に、
「あ、コレが……」
何故か瞬時に分かってしまった、ソレの使い方と概要。
まるで、産まれた時から呼吸の仕方を知っているのと似た様な感覚だったり、ソレを改めて思い出したから、使い方が分かっちゃってしまっているって感覚にも近い。
なんていうか、自転車に初めて乗った時のアレな感じ。
って事で、乗せていた紙から手を離すと、
「まっさらやん……」
不思議な事に、魔法陣だけが綺麗さっぱり消えていた。
頭上の大きなモニターにも、魔法陣が消えた紙が映っていて、
『『『………………』』』
会場中が静まりかえっている。
近くで俺の一連の行動と、魔法陣が消えた紙を見ていたデュクシーさんは、
「はははは……」
色々な感情がゴチャ混ぜでマシマシになった顔をしながら、笑いとも、興奮気味な過度な呼吸とも取れるよな声を漏らした。
そんなデュクシーさんが漏らした小さな声が、静か過ぎる会場で、何故か大きく聞こえていて、
「………………」
そして、
誰もが無意識に一拍置いた次の瞬間──
オォ……──
オオオオォォォォォォォォォオオオオ──!!
──割れんばかりの大歓声が会場中を蹂躙した。
マジで大歓声がうるさすぎる。
って事で、取り敢えず、俺は耳に人差し指を突っ込みながら、
「やべぇ…… な…… アレ……」
デュクシーさんと一緒に、上下に跳ねてはしゃいでいるバニーコスさんの胸元に釘付けになったから、しっかりと網膜と脳髄と記憶に焼き付けておく。
どうか、ポロリがありますように……
………………
…………
……
…
大歓声が落ち着き、
「では! 結果をお願いします!!」
デュクシーさんが、俺の手元のモニターと、頭上の大きいディスプレイに辞典みたいな本の写真を映した。
コレは、俺にその本の表紙に書いてある文字を読んでみろって事なんだろう。
多分。
って事で、本の表紙を読んでみる。
「これは…… ん? 『炎神への』…… 『歩み』? は? なんじゃそりゃ?」
『『『………………』』』
ってか、オイ。
「なんでいきなり静かになったし……」
俺が本の表紙を読んだらオモクソ静かになったってどう言う事!?
「コレ、ホントに合ってますか? ちゃんと魔法って働いてるんですか?」
「………………」
ってか、デュクシーさん?
放心したみたいな顔で、視線だけ動かして俺を見るのはヤメてもらえませんか?
モノすっごく怖いんですけど?
「も、モミジ、さん……? ソレ、超古代文字で書かれていていまして…… 普通は読めないんですよ……?」
「は? いや、合っているかは知らないですけど、俺にはそう読めちゃってますけど? ってか、普通は読めないってどう言う事?」
いやマジ、どう言う事?
普通に読めるもの寄越せよ!?
「えーっとですね…… 段々と、難易度を落としていって、と言いますか…… あぁ、やっぱりコレは、普通は誰も読めないよねー。 アハハハハ── と言う、ちょっとした笑いで場を和ませようと思っていたんですけど…… ハイ……」
「え?」
斜め上すぎる事態になって、クッソキョドってるデュクシーさんと、なぜかデュクシーさんのキョドりが伝染って、この場の変な空気にキョドり始めた、モブな俺。
そんでもってそんな中、貴賓席にいる、棺桶に片足どころか顎くらいまで入っていそうな、ヨボヨボで弱々しいおジジさんが、
「合っておる、ぞ……」
嗄れた小さい声でポツリと呟いた。
「「え……?」」
俺とデュクシーさんの変な声が大きく聞こえるくらい、会場がさらに静まり返る中、
「──!?」
ヨボヨボのおジジさんはプルプル震えてる手で、俺にサムズアップ。
そんな状態を無言で皆んなに見られているもんだから、マジで変な汗が出てまくり。
「………………」
そんな居た堪れない空気の中、
「どうぞ♡」
「──!?」
空気を読まないバニーさんが次なるブツをカートに乗せて持ってきた。
ちょっ──!?
この空気読んでよ!?
そんなカートの上には、見るからにヤバそうな、黄ばみまくって端がボロボロになって擦り切れている、古すぎて、紙なのか皮なのか、元がなんだったのかすら分からないヤツ。
そして案の定、コレも頭上のディスプレイに映し出されていて、
「ちょっ──!? コレって──!?」
コレを見たデュクシーさんが、物凄く慌てふためく。
そして、
「お主がソレが扱えるかどうか、ワシは見てみたくてのぉ」
ヨボヨボのおジジさんが、またしてもサムズアップ。
そしておジジさんの周りにいる偉そうな人達がクッソざわつく。
「ソレは、今まで誰も扱えなんだ。 今では、国宝だの、特級だのと言われて、唯々、朽ち果てるのを待つばかり。 であれば、こうして、4本線の神格者であり、魔力を持つお主が試してみるのも一興であろう?」
「ガラクシャ様!! アレは易々と表に出してはならぬものですぞ!!」
「そうです!! いくら、ガラクシャ様がこの地の最高責任者とは言え、何処の誰とも知れぬ者などに、アレを見せ、終いには試させるなど!!」
「まぁ、良いではないか。 では聞くが、お主達には、アレに、なんの魔法が記されておるのか分かるのか?」
「…………いえ」
「分かりかねます……」
え?
「アレは未だに誰にも読めなんだ。 お主達も、ワシも、誰も彼も、今日までずっと、アレは読めぬままで、誰1人として扱えなかった」
「………………」
ヨボヨボのおジジさんは何かを期待している顔をしているけど、反論した方のおジジさん達は、何故かめっちゃ俺の事を睨みまくっている。
おジジさん達に、誰も扱えないとか読めないとか言われているソレ。
でも、何故か俺にはコレがメッチャ読めまくっていて、
「あの〜…… コレを、俺に使ってみろ、って事ですかね?」
「うむ。 お主であれば、何かが起こるかも知れぬのぉ」
コレを俺が使う事に、物凄く躊躇ってしまうし、
「………………」
物凄く嫌な予感しかしない。
何故なら、ソレには、
【魔法使いになろう! コレで今日から君も魔法使いの仲間入り!】
って書いているから。
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