俺のサイフと、お家の鍵と、愛しのスマホ
俺の手から離れてしまったスマホの中のゲームが心配すぎて、思わず地下牢から抜け出てしまったなう。
脱出とも脱獄とも言ったり言わなかったりなアレ。
本来なら然るべき法的措置でアレコレ手順があるんだろうけど、
「はよ詰め所に急がねば」
スマホの中のゲームアプリを触られてしまったらと思うと、気が気じゃなさすぎる。
焦る気持ちを抑えながら、牢屋に連行された道程を思い返し、俺のスマホを奪ったおっさんが入って行った隣の建物に足を向ける。
でも、その前に、
「取り敢えず、目立たないようにソレっぽくっと……」
地面に魔力を張り巡らせておく。
って言っても、地上みたいに一気に覆うようにして貼るのは無理。
天空都市の地面は、石畳で敷き詰められていて地上のアスファルトみたいじゃないから、そのまま魔力で敷き詰めると真っ黒になってしまって悪目立ちしまくりなうえに、怪しさ全開すぐる。
って事で、目に見える範囲で石と石の隙間の闇へと紛れ込ませる様にして魔力を貼る。
取り敢えず、詰め所の近辺に魔力を張り巡らせ終えたから、次は、
イメージは身体を覆う感じ。
インナーシャツとかレギンスなアレ。
薄く、固く、柔らかく、しなやかに。
魔力を身体に纏わせる。
これで一応、防御力は上がったかな?
いくら不老不死になったって言っても、不死の検証とか微塵もしてないし、ってか、実は不死じゃなかったら泣けるどころじゃぁない。
それに、殴られたり斬られたりしたら普通に痛い事間違いない。
って事で、今はアレコレ考える時間が惜しいから、少しでも俺の痛みを和らげる方法って事でコレ。
その内、時間をかけて、機能的でかっこいい防具とか作る事にしよう。
ってか、今気付いたたけど、イメージの具現化って言うか、魔力の扱いがスムーズになってる?
もう、パッと考えて、パッと出せすぎて、違和感なさすぎて逆にビックリ。
直近の事を色々考えて、玉藻にデスベロチューをされてからこうなった?っぽい。
この前の駅前の戦いでは、こうもスムーズじゃなかったのは確かだし。
スマホ奪還作戦の準備中に気づけた、俺のちょっとした異変。
思わず気づけた事に喜ぶ反面、気になりまくる事が脳内に浮上して、
もしかして……
バグって途中で止まっていた、PDFの先が読める様になってんじゃね……?
魔法が使える様になってんじゃね?
マジで今直ぐスマホに触りたい病が発生。
コレはアレだよ?
俺がスマホに依存しているって訳じゃないからね!
スマホの中に気になるものがあるから気になっているってだけだからね!
って事で、スマホ奪還に更に気合が入ったから、
「おじゃましま~っす」
ノックを省略して詰め所のドアを開ける。
「………………」
開けた瞬間の汗臭さよ……
どこぞの運動系の部室の様な、あの独特でムサい匂い。
剣道の小手とか、野球のグローブとか、柔道の帯とか、テニスのラケットのグリップ部分的なヤツが潜んでいるっぽい匂い。
戸口に居るだけで目がシパシパする……
これは、防犯用の罠なのか?
意表をつかれたトラップに、一瞬、大事なスマホの事が頭から抜けてしまった。
こんな匂いなぞに負けるな俺!
気合を入れ直すんだ!
自分への叱咤と共に、気合を入れる為に深く息を吸う。
「スゥ……──!?」
けど、
「──ブフゥッ!? ブフォっ──!? ゴホォッ──! ゴホッ──! ゴホッ──!」
匂いが集団結束して勢いよく鼻の奥のウィークポイントにクリティカルヒットしやがって、入っちゃイケない変な所に唾が入って、人生最大の呼吸困難が大発生。
モブお得意の、目立たずに息を潜めてこっそりスマホを取り返そう作戦だった筈なのに、悪辣な罠によって、数分も経たずに頓挫。
ってか、盛大に咽せて大音量で咳き込だりとかしちゃったら、
「あ……」「え……?」
そりゃぁ、誰かしらやって来ますわな。
「ソォイ!!」
って事で、急いでドームで覆って隔離おく。
ヤベェヤベェ!
見つかっちまった!
心臓バクバクで破裂しそう!
取り敢えず、めげずに奥に進む。
ってか、もう、面倒くさいからコソコソするのやめた。
って事で、堂々と部屋を物色。
それはもう、RPGゲームの勇者とか主人公と同じレベルの遠慮の無さで堂々と。
しかし俺のスマホは見当たらない。
「マジで……」
落胆する俺の視線の先にある、上に続く階段。
って事で、次行ってみよー。
自分家に居るかの様に階段を上がり、当たり前かの様に、2つある内の手前の扉をノックもせずに開ける。
「あ……」「は?」
「ソォイ!」
アブネェアブネェ!
モンスターハウスかよ此処わ!
またしても兵士?とエンカウントしたから、ドームで隔離。
からの〜。
物色!
「………………」
ってか、この部屋にも無い。
って事は奥の部屋か……
次第に焦りと不安が大きくなる。
感情を抑えきれず軽く泣きそう。
もう、次の部屋に人が居たら、脅してでもスマホの場所を聞き出す所存でございます。
って事で、漆黒の剣とハンドガンを発現。
脅すにしても、最初のインパクトは大事だろうから、
「ソォイ!」
カッコよく、どことなくソレっぽく、扉を適当に斬りまくる。
そして、丁度、卓に着いて、何かの料理を口に運ぼうとしていたヒゲのオッサンとバチクソ目が合った。
そのオッサンの手元には、中身が全部出された俺のサイフと、お家の鍵と、愛しのスマホ。
「ミツケタァアアア!」
愛しのスマホがやっと俺の視界に入った事で、思わず身体中から溢れた歓喜が口から言葉として出て来てしまう程。
喜ぶ俺とは裏腹に、オッサンの顔は恐怖のドン底。
物凄く笑顔な俺の顔と、俺が手にしている剣とハンドガンに、物凄い速さでトライアングルに視線を行き来させている。
色々と頭の中で、この状況やら対応やらをシュミレーションとか計算とかしているのだろうが、
「ソォイ!」
そうはさせん!
左手のハンドガンで、
ドヒュンッ ──!!
威嚇射撃。
目視不可な速さでオッサンの前を通り過ぎて行った銃弾。
そんでもって、その後から遅れてやって来たソニックブームの衝撃波。
「ふゴォぉぉぉぉおおおお!?」
「………………」
おかげで、オッサンが座っていた椅子と机と一緒に派手に吹き飛んで壁に叩きつけられるわ、窓ガラスが割れるわで、部屋の中が大惨事。
机の上にあった、俺の財布とかスマホも大惨事。
って事で、オッサンに投網を発現させて覆い被せ、散った俺の色々をチマチマ回収していく。
やっちまったぜコンチクショー!
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