地上人囚人ナンバー001
お空のお城の内側は、想像の斜め上を行くファンタジー具合だった。
昔のヨーロッパみたいな建物。
綺麗に区画整備された城下町。
夕方過ぎの茜色と群青色が混ざり合う空の下、家々の中に柔らかい明かりが灯されていて、現代の都会では見れない、幻想的で長閑な光景。
夕食前のラッシュなのか、石畳で舗装された道々に、沢山の人が溢れていて吃驚仰天。
ってか、壁の上から内側を見ていた気がついたんだけど、
「門なくね?」
いや、マジコレ。
こういう外壁には本来あるはずの、外側と内側を繋げる出入り口が一つもない。
まるで、閉鎖的空間?箱庭?な感じ。
ってか、え……?
もしかして閉じ込められてるの……?
この人たち……?
そんなイメージが湧いた瞬間、胸踊るファンタジーな場所が、胸クソな牢獄の様に思え始めた。
ってか、下に関心を向けまくっていたせいで、
「貴様!! 何者だ!!」
「あ……」
いつの間にか、コッテコテな西洋甲冑を着込んで槍を持った人たちに周りを囲まれちゃっていた。
リアル御用だ御用だをされてるなう。
取り敢えず、
「………………」
無手の両手をあげて敵意が無いことを示しながら、
「どうやら、うっかり、迷い込んでしまったようで……」
此処に居る理由を告げてみるけど、
「ウソを吐くな!! もしかして、外壁へと攻撃をしたのも貴様の仕業か!?」
なにやら身に覚えがない濡れ衣を着せられていて、マジ心外。
ってか、どゆこと?
出会い頭に身に覚えのない罪を付与されてしまってるとか、どんな理不尽なエンカウント?
俺は人生ハードモードを選択した覚えとか、全くねぇのでごぜぇますが?
こんなん、普通に道聞いただけでビンタされるのと一緒のレベルぞ?
「いや、攻撃とかしてないですけど……」
「隊長!! 外壁に攻撃されたと思わしき、複数の穴が穿たれております!!」
「………………」
いや、ソレ、俺が登ってきた跡……
って、え?
マジ?
「との事であるが! 丁度、貴様が居る場所は! 攻撃を受けた箇所の真上であるな!!」
「………………」
「それに、この高度は、どうやってもうっかり迷い込める様な環境ではない!!」
「………………」
「と言う事は! 貴様が攻撃しながら壁を上がってきたと! 貴様自信が明確に告げているのも同じである!!」
推理キレッキレかよこのおっさん……
ってか、こんなん、キレッキレな推理以前に、状況的に俺一択しかねぇだろ……
自己主張と承認欲求が強すぎまくるおっさん。
「よって! 貴様には! 大人しく詰所まで来てもらおうかっ!」
しかもこのおっさん、喋り方のクセが強いぃい!!
「えぇぇ……」
詰所ってアレだろ?
交番的なトコだろ?
「『えぇぇ……』ではない! この状況下で貴様に拒否権があると思うな!」
「マジかよ……」
拒否権無いんかよ……
何でこうなるし……
俺、普通の一般市民ぞ?
ってか、ぶっちゃけ、うっかり迷い込んだってのも、攻撃をしていないってのも、俺基準では全く嘘は言っていない。
ってかこのままだと、俺は不法侵入と器物破損の罪で、地上人囚人ナンバー001になってしまう。
せっかくのファンタージーが囚人スタートとか、どうやら俺は、リアル脱獄ゲームの世界に来てしまったらしい。
興味本位で来るんじゃなかったわ……
………………
…………
……
…
はい。
と、言う訳で。
僕は天空都市の牢屋へと投獄されてしまいました。
いやぁ、もう、異世界テンプレアルアルな、見事な石壁と鉄格子の牢獄ですよ。
お空に浮いている都市の筈なのに、めっちゃ深い地下牢なんですよコレが。
不思議ですねー。
恐ろしいですねー。
牢屋迄の道のりの風景とかが物珍しすぎて、軽く何処か観光気分だったけど、
「いや…… 流石にヤバいだろコレ……」
牢屋にブチ込まれて、右手に鎖を付けられて、鉄格子を施錠されて、ソレから今の状況を冷静に考えてみたところ、
「マジで囚人ナンバー001じゃねぇか!?」
少しって言うか、かなり泣きそうになった。
ノリとは言え、流石に不法侵入は不味かった。
コレが国なら、密入国と同じアレ。
多分、って言うか、絶対にまだまだ地上との外交的なヤツとかはないだろうから、地上の法は尽く機能しない筈。
何故か日本語が通じているって言う奇跡は横にそっと置いておいても、もしかすると、常識も共通認識も違ってるかもな、激ヤバ具合。
マジで考え無しで行動した結果、凄まじい自業自得な爆死っぷりすぎて、自分を自分で罵倒できるレベルで馬鹿すぎる。
しかも、ポケットに入っていた、スマホもマンションの鍵も財布も取り上げられていて、此処から逃げれたとしても、地上のお家に入れないし、金もないし、電話もかけられないと言う、地味に嫌な状況。
まぁ、最悪、桜田の家に泊まって、出世する気が微塵も無い出世払いで100万くらい借りてしまえば良いんだけど、
「頼むから、スマホは解除しないでくれ……」
スマホの中にある、家のゲームとクロスプレイができるアプリだけは、何卒ノータッチで宜しくお願い申し上げます。
もし、スマホのパスワードが解除されて、もし、ゲーム内の装備を捨てられたり、売られたり、溶かされたりとかされた日にゃぁ、俺はこの浮遊都市を絶対に壊滅させてやりますですよ。
最悪、スマホを壊しても怒らないであげるから、絶対にゲームアプリだけは起動させるんじゃぁないぞ!
アプリの起動イコール、この浮遊都市壊滅のトリガーだと心得よ!
マジでゲームアプリが心配で心配で落ち着けない。
「無理。 待てない」
って事で、左手の口から剣を発現させて、
「ソォイ!」
スマホと俺の理性を引き離している分厚い鎖を断ち切ってやる。
分厚くて厳つい鎖が豆腐レベルの手応えしかなくて草。
俺の心の安寧に、ストレスと言うスパイスを追加してくれたクソな鉄格子も、
「こうすりゃ使い物にならないだろ?」
俺がいた部屋だけでなく、全ての部屋のものを一本残らず根こそぎ切り落としてやった。
うん!
イベント前のブースみたいにスッキリしてて、なかなか気持ちが良い見た目になったな!
ってか、鉄格子を根こそぎ切り落としてやった理由が、閉じ込められていたのが俺だけだったのに少しムカついたからと言う事は、此処だけのナイショのオハナシで。
次に牢獄の扉も綺麗に切り離して壁に立てかけ、階段を上がった所の扉も綺麗に切り離して壁に立てかけ、見張りの人をドームで覆って外界から隔離してあげて、
「ふぅ〜──」
ものの小一時間足らずで地下牢から脱獄してやった。
「── シャバの空気が美味いぜ」
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