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魔法使いになろう!

「あぁぁぁぁ〜。  クッソ暇すぐるぅ〜〜」


大学4年の夏休み。


異常気象だかなんだか知らんけど、マジで外を出歩くのに気合いを入れなければいけない程の猛暑の中。


夏休みと言う、人を駄目にする快楽のせいで、卒業論文を書こうにも、頭と手が全く動かない。


テーマはもう既に決まっていて、目ぼしい資料も一通り読んでマーク済み。


構成順に合わせて資料も選んでいるから、途中で詰まると言う事もないだろうって思っている。


後はやる気さえあれば、一気に書こうと思えば書ける状態まで準備は出来ているんだけど、



「お?  新刊出てんじゃん!」



いかんせん“大学最後の夏休みくらい満喫したいよね”と言うなんちゃら効果のせいで、全く何もやる気が起こらん。


という訳で、俺はエアコンの効いた大学の図書館の中で、ダラダラとタブレットにダウンロードした漫画を読んでいる。


明らかに駄目人間の思考と行動。


しかし、思っていた以上に暇すぎて、漫画を読みながらも思わず小言が口から溢れ出る。


だったら卒業論文書けばいいじゃん、と自分にツッコむけど、それはソレ、これはコレで別モノとして考えるのを放棄。



知ってますよ。


ダメ人間と同じって事くらい分かってますとも。



徐に暇を潰す為に読んでいた漫画から目を離し、



「………………」



窓の外に写る雲一つない青空を見てふと考える。


そして、



「お〜い、桜田や〜い。  魔法って本当にあると思うか?」



向かいの席で必死こいて論文を書いている親友へと声をかける。



「紅葉氏。  唐突にナニ馬鹿な事を言い出してるでござるか。  2次元と3次元の区別がつかないとは、オタク失格でござるよ」


「いや……  漫画、アニメ、ラノベ、ゲームとか色々好きだけどさぁ。  オマエ程ガッチガチの行動派なオタクじゃねぇからな、俺は」


「紅葉氏。  オタクを馬鹿にする者はオタクに泣くでござるよ」


「その意味を教えてくれ」


「と言うか、紅葉氏、厨二拗らせすぎでござるよ」


「いや、“と言うか”じゃなくて、先ずは“オタクに泣く”の意味を教えろ」


「僕が言うのもなんでござるが、22歳にもなろう者が未だにサラッとそういう事を平然と言うと、マジでドン引きでござるよ」


「いや、俺は、何食わぬ顔で俺の質問を完全スルーして、勝手に会話を進め始めているオマエに逆にドン引きだわ」



そんな桜田は、論文をタイピングしている手を止め、マジでドン引いている顔で俺を見ている。



「おい、豚。  オマエ、この前までアニメの魔法少女のおもちゃの杖に鼻息荒くして遊んでたじゃねぇか?」


「………………」


「アレな。  俺も一緒に買いに行かされたあの時な」


「………………」


「デパートの女性店員さん、マジでドン引きしてたからな?  コレじゃない、アレじゃないとか変な蘊蓄とか御宅並べながらギャーギャー騒ぎやがって」


「………………」


「ぶっちゃけ、あの時は俺もドン引きしてたからな。  って言うか、この際ついでだから言うけど、オマエのござる口調にも引いてるからな」


「……っ──!?」



向かいに座る眼鏡の太っちょは、一瞬、苦虫を噛み潰した様な変な顔になったけど、



「………………」



何を思ったのか真顔で再度論文へと向き直った。



「え!?  無視ぃぃぃいっ!?  反論とか言い訳とかなんもねぇの!?」



俺の苦言の一切を無視した豚は、タイピングしている手を止めずに、



「僕は2次元より生み出された叡智の結晶、神より齎された至高の玩具を愛でているだけでござる。  素人が知識もイロハも知らないクセに、おいそれと神の領域に口出しするなでござる。  この愚民が」



と、吐き捨てやがった。



「こんの──!?  アニ豚ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



クソ暑くて暇な上に、アニ豚の吐き捨てた言葉にイラッときたから、



「ちょっ!?  紅葉氏!?」



向かいに座るアニ豚からPCを奪い取って、



「こんなモノ、こうしてくれるわぁぁぁぁぁあああ!!」


「ヤメっ!!  なんて事するでござるかぁぁぁぁぁぁあああ!!」



デリートキーを深く長押しし続けてやった。



「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!  僕の汗と涙の結晶がぁぁぁぁぁあああ!!」



桜田は怒り狂った必死な形相で俺から自分のPCを奪い返し、慌てる様に画面を確認。



「はうあぁぁぁぁぁぁ──  タイトルまで戻っているでござる……」


「ざまぁ。  オマエが買った杖のアニメの主人公と同じ様に、オマエの論文も死に戻りやがれ!」


「紅葉氏、最悪でござるよ……  極悪すぎるでござるよ……」



そして、力無くorzでフロアに項垂れる豚。



はん!  


豚は4足歩行がお似合いだぜ!!



「馬鹿め!  このままセーブせずに1度アプリを落とせば、最後にセーブした箇所から始められるだろうが!」



心優しい俺が親友の豚へと救いの手を差し伸べてやる。



だが、



「うぅ──  書くのにノってたからだいぶ前にセーブしたのが最後でござるよ……  ほぼ、昨日と同じ所まで戻ったでござるよ……」


「そうか……  ちゃんと死に戻れて良かったな……」


「最悪すぎるでござる……  紅葉氏を誘った僕が馬鹿だったでござる……  紅葉氏は今すぐ死ねばいいでござる……  死体はゴブリンに犯されてしまえばよいでござる……」



桜田は、肩を落として俺を寄せ付けない雰囲気を放ちながら、俺の向かいの席から隣の離れたテーブルへと移動した。


酷く落ち込む桜田を見る事ができて、今の俺はとても満足。



けど、暇な事は相変わらず。  


って事で、さっき読んでいた漫画の続きを読む。



魔法って本当に使えるのか?



読んでいる漫画の影響か、“暇すぎる” + “やる事が無さすぎ” て、思考が如何せんアッチの方向に走ってしまう。


だが、思い立ったが吉日。


って事でササッとタブレットで読んでいた漫画を閉じ、机の上で上半身をダラダラゴロゴロさせながらそれらしい電子書籍を読み漁る為に、手当たり次第それっポイ動画やサイトをザッピング。



暇、ここに極まり!


って言うか、技術が発展しているお陰で、電子書籍は日本語以外も翻訳機能が勝手に翻訳してくれて、母国語で楽に読みまくれるって素敵だよね。



そんで、色々と魔法やソレっぽいモノについてザッピングしていると、



『40歳までドーテー(処女)でいれば魔法が使えるようになる』とか、


そんなんでなれれば、世界は魔法使いだらけだっつうのwwww



『モノ文明から離れて大自然と調和すればなれる』とか、


文明機器にどっぷり浸かっている俺に無茶言うなよwwww



『前頭葉をうまい具合にチョチョイのチョイっと弄ればなれる』とか、


死ねってかwwww



『100年以上生きた野生動物の生き血を飲めばなれる』とか、


誰が野生動物の歳をカウントしてんだよwwww



『悪魔と契約すればなれる』とか、


一番無理な方法じゃねぇかwwww



そんな数多のおもしろ情報の渦の中、魔導書なるモノ(本当かどうか怪しいが)を取り扱っているサイトを見つけた。




── 魔法使いになろう! ──




「ヒッデぇ〜サイトのタイトルだなオイ……」




あまりにも酷すぎて、逆に見てみたくなるって言う反心理的作用にまんまとやられてしまったチョロい俺。


サイト内は、某有名な書籍取り扱いサイトっぽくて、そこには5つの電子書籍化された魔導書なるモノがあった。




【必見! 魔力マスター 完全版!】


【変身! マジカル 魔法少女!】


【心技体! 魔法剣士 虎の巻!】


【育め! Love 聖職者の極み!】


【ニンニン! 魔法で忍者になるってばよ!】




「………………」



ハッキリ言ってクソみたいなタイトルばかりだ。



育めLoveってなんだよ……



色々と意味が分からなさすぎるが、中でも忍者のヤツは特にクソすぎる。



魔法なのか忍術なのか、一体どっちだよ。



全ての書籍の表紙は、如何にもソレっポいクネったミミズみたいな全く読めない記号っぽい文字で書かれているけど、自動翻訳によって下の方にサブタイトルみたいに日本語に変換された安っぽい文字が出ている。



「本当にこんなミミズみたいな文字にこんな事書いてあんのかよ……」



怪しく思いながらもなんとなくURLをブクマして、先ずは試しにと言う事で、【必見! 魔力マスター 完全版!】なる、如何にも初心者向けっぽそうな書籍をタップ。


金払えってなったら先に進まなければ良いや、と思いながら軽い気持ちでタップしたんだけど、



「ヤバっ──!?」



タップした瞬間に高速でダウンロードが始まりやがった!?



変なもんダウンロードしてマルウェアとか入ったらマジで最悪っつうの!?



と言う考えが頭を過ぎる間にも、瞬時にダウンロードが完了してしまい、しかも、何故か全てのタイトルが一気にグレーアウトし、



「は?」



そんでもってサイトの画面が全く反応しなくなりやがった。



「やっちまったかなコレ……」



取り敢えず、このままダウンロードしたファイルを開かずにポイする為に、一度メインスクリーンへと戻って、ダウンロードフォルダへと移動する。


ダウンロードフォルダ内には如何にも魔導書的な怪しすぎるアイコンのPDFがあって、押し込みタップ、ア~ンド、ドロップ!で速攻ゴミ箱へと移す事にしたが、



「勝手に開きやがった……」



PDFを軽く指で触れた瞬間に開きやがった。


怒りでこのままタブレットを投げ捨てそうになったけど、ゆっくりと深呼吸をして、荒れる感情を抑えて気持ちを一旦クールダウン。



Be Cool だ俺……


落ち着くんだ俺……



「すぅ〜──  はぁ〜──  すぅ〜──  はぁ〜──」



いかんいかん。  


一回落ち着けぇ俺。  


これが書きかけの論文が入っているPCじゃなくて良かったじゃぁないか。



と、自分に言い聞かせ、取り敢えず最悪すぎる事態になっていない事に自分を納得させる。



開いてしまったものはしょうがない。  


どうせ何かが起きるにしても、こうなってしまったら中身がどんなものか確かめてみようじゃぁあないか。



って事でタブレットへと再度視線を向けると、如何にも魔導書っぽい表装が画面一杯に写っていて、中央には全く読めない記号の様なミミズ文字、その下には【必見! 魔力マスター 完全版!】なるアホみたいな安っぽい日本語訳が書かれている。


出だしから読む気が失せる程の痛すぎる題名。



溜息を吐きながらも下から上へとスワイプするが──



「オイ………」



──無反応。





「………………」



一度落ち着いたがまたちょっとキレそうになった。



よし。


今夜からカルシウムを多く摂る様にするか。



って事で、カルシウムから連想された牛乳とコーンフレークの事を頭に思い浮かべながら、気を取り直して今度は右から左へスワイプ。



「……こっちかよ」



今度はちゃんと反応して、如何にも本が捲れる様なエフェクトを伴いながら次のページへと画面が移る。


移ったページには何故か日本語だけが書かれていて、しかも目次もなくいきなり本文が始まった。





── レッスン1 ──

体内の魔力を感じてみよう!


お読みいただきありがとうございます。


モチベになりますので、評価とかブクマお願いいたします。

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