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三章 十七歳、夏  雷鳴の夜1

  七月も半ばに差し掛かり、ゆだるような熱気と休みに向けての生徒の期待が学校中を熱くしている中、私は今年の夏の夏期講習のことを考えて憂鬱になっていた。

 今年の夏の夏期講習は去年通っていた塾のそれとは違い、短期の短期の講座ではなく、夏休み中みっちりの長期コースなので休み中はほぼ勉強三昧なのだ。

 これならば、楓子たちがいる分、学校に通っているほうがまだましだった。

「はぁーーっ」

「どうしたの?盛大にため息なんてついて」

 ポリポリと横でポッキーを食べていた峯岸君が私に、はいっと一本手渡してくる。

「ありがと。……ねえ、なんか最近、みんなして私を餌付けしようとしてない?」

 峯岸君、楓子、巽君をそれぞれ見やる。なぜか視線をそらされた。

「そりゃ、前あんなことがあったからね」

 どこ吹く風とばかりにいう峯岸君の言葉に、うっと詰まった。

「うっ、……まあ、心配かけたのは悪かったと思ってるよ。だけど、このままだと太りそうなんだけど……」

 自分のお腹を見る。……最近少しぷにっとしてきた気がする。

「大丈夫!夏沢さんは太ったとしてもかわいいから」

 お前はドラマに出てくる外国人か!!と突っ込みたくなるようなセリフを言う峯岸君と頷く楓子をジトっと見やった。巽君は相変わらず視線を合わせない。

「そこは太らないよ、とか太ってないよ、じゃないの?二人とも、実は少し太ったと思ってるでしょ?」

 わざとらしく口をとがらせる楓子と、ごめんごめん太ってないよ。と軽く返す峯岸君を睨んだあと、全員で噴出した。

 最近ではこんな風にすごすのが楽しくなってきていた。最初は居心地が悪かった峯岸君の、その傍にいるのが当たり前になってきているのも認めたくないが事実だった。

「で?本当どうしたの?表情が暗いよ」

 ひとしきり笑った後、彼は真顔に戻って問いかけてきた。

「ん、別に大したことじゃないよ。ただ、塾の夏期講習で夏休みがつぶれそうなのが憂鬱なだけ」

「えっ?夏沢さん成績良かったよね。模試の結果も。それなのに、そんなに勉強するの?医学部ねらいとか?」

「だったらいいんだけどね。親の方針だよ」

「……そっか。お疲れ様。ーーじゃあ、夏沢さん自身は高校卒業したらどうしたいの?」

何気なく聞かれたその言葉は、私の胸にグサッと刺さった。

 ーー私は、何がしたいんだろう?ーー

 ここ数年、言われるがままに勉強していたが、何になりたいとか考えたことはなかった。先輩や同学年の他の人たちが将来の方向性を決めていくのをどこか別の世界のことのように聞いていた。

 ……どうせ、自分の思うようにはできないんだしね。

「そういう、峯岸君はどうするつもりなの?」

「俺?俺は卒業したら就職するつもり」

「えっ?進学コースに変更したのに?」

「うん。就職しながら通信の大学に行くつもり」

「峯岸君、別に成績悪くないよね。このコースにいるくらいだし」

「ん?別によくも悪くもないと思うよ。だけど、今俺、祖父母に育ててもらっててさ、十八になったら自立したいなと思ってるんだ。祖父母は普通の大学行けっていうんだけど。このコースにいるのは祖父母の希望かな」

「そっか……なんかごめっ」

「あやまるなよ。俺にとっては普通のことだし」

「……うん、わかった」

 胸を張って自分の将来を語る彼は、強くて眩しくて、やはり少し妬ましかった。きらきらと祖父母について語るところも今の自分とは正反対に思えて、泣きたくなったのだった。

 

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