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二章 十七歳、春  青空との出会い6

 部屋で勉強をしていると、母が外出先から帰ってきた音がした。

 そのまま足音荒く階段を上ってくる音がして、私はため息をついた。

「綾香!!あなた今日塾に行かなかったの?塾から電話がかかってきたわよ。一体、どこで何してたの!?」

 甲高い怒鳴り声が頭に響いてくらくらする。私が「何も……」と答えると、母はますますヒートアップした。

「まあっ、さぼったのね?誰のお金で塾に行けていると思っているの!塾に通わせているのはあなたの将来の為を思ってのことなのよ。わからないの?」

「……お母さんは、理由も聞かないんだね……」

「なにか言った?聞こえないわよ!!」

「はぁー。何でもないよ。……勝手に休んだことは悪いと思ってるけど、塾に行くためのお金を稼いでいるのはお父さんでしょ。……それに私行きたいって言ったことないし、お母さんにいろいろ言われる筋合いはないと思う」

 その言葉を聞いた母は、唇をわなわなと振るわせて目を吊り上げた。

 

 バシッ!!

 

 頬に鈍い衝撃が走る。

 それが、母に頬を張られたためだと気が付くまでしばらくかかった。

「あやか……綾香、あんた、ねえ!!」

 荒い呼吸で肩で息をしながら顔を真っ赤にして怒っている母を見ていたら、私の感情は逆に冷めていった。

 孤独感と虚しさが襲ってきて、哀しくなった。一人になりたかった。

「私たちが、私がいないと生きてゆけないくせに口答えするんじゃないわ!!」

「………………」

「綾香、あなた聞いてるの!?」

 私はこれ以上聞いていられなくて、無言で母の肩をトンっと押した。

「ちょ、ちょと、何するの?やめなさい!!」

わめく母を無視してそのまま腕に力を込めて部屋の外に押し出していく。母が部屋から出た瞬間素早くドアを閉めて部屋に鍵をかけた。

「綾香!ここを開けなさい、まだ話の途中よ!あやか!!」

  外から聞こえてくる耳障りな雑音を無視して、両耳にヘッドホンをつけてロック系の曲をMAXの音量でかける。

 普段は曲調が激しすぎて、耳が痛い気がするのであまり聞かないタイプの曲だったが、今はその激しさが心のもやもやも、雑音もかき消してくれるようで心地よかった。

 私はそのまま、頭が真っ白になるまでベットに横になりながら両手てヘッドホンを抑えて、爆音の世界に没頭した。


 次の日の朝。

渋々リビングに降りていくと、いつものように母がキッチンに向かっていた。

 本当はスルーしたかったが、朝食を食べないと食べないでまたもめそうなのでおとなしく食卓に座り朝食をとる。この食卓でとる食事は、相変わらず砂の感触がしていた。

 出かけ際に、ずっと無言でこちらを振り向きもしない母がポツリと言った。

「叩いたのは、悪かったと思っているわ」

「……いってきます」

 どう返したらいいのか、母とどう接したらいいのかわからない。

 ガチャンと、私の後ろで玄関の扉が音を立てて閉まった。


 今思えば、この時が最後の分岐点だったのかもしれない。

 私がもっと大人であれば、振り向いて、ちゃんと話をして、笑顔を返して母を、母の気持ちを受け止めていれば未来は変わったかもしれない。だけども、その時の私はどうしようもなく子供だった。

 

 母を受け止めることの出来るはずのない、子供だったのだ。

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