二章 十七歳、春 青空との出会い3
「うわーっ!!」
私は自室で一人悶えていた。
思い返したら、峯岸君にめちゃくちゃ甘えて迷惑をかけていたことに気が付いたのだ。
それだけではなくて、男の子の制服のそでをぎゅっと掴むなんて!……いくら心細かったとはいえ。
ベットでゴロゴロ転がっていたらはっと気が付いた。
「お礼、どうしよう」
顎に手を当ててうーん、と考え込んでも、同い年の男の子へのプレゼントなんて小学校低学年以来の私には、何も思い浮かばなかった。
「よし、こんな時こそスマホの出番!【男友達・お礼・プレゼント】っと」
スマホを取り出して、検索してみる。
ずらっと検索結果が出てきて、余計に悩むことになった。
「えーと、うーん……」
その日、私は夜遅くまでうなっていた。
「峯岸君、後でちょっと時間あるかな?」
「? 夏沢さん、急にどうしたの? 大丈夫だけど」
お昼休み、隣で机を並べてご飯を食べている峯岸君に、こそっと囁きかける。
それを見て、向かい合わせに机をくっつけている、楓子はわざとらしく口を手で覆い「きゃー!!」と叫んでにやにや笑った。その横の巽君が、茶化すように峯岸君の方を見て笑っている。この二人は、このクラスにきて仲良くなれた、数少ない友人達だった。
「おっ、ついに二人とも付き合うのかー、良かったな」
「ちょっと、そんなんじゃない!……てか、ついに、って何よ」
冗談だとはわかっているが、思わず前に身を乗り出した抗議した私を手で制して、峯岸君は巽君をちょいちょいと手招きした。
「稜人、ーーーーー」
「ーーおっ、おい!!いや、ちがっ、悪かったよ、ちょっと悪ふざけが過ぎた。夏沢さんもごめんな」
「別にいいけど……」
峯岸君に何かをささやかれた、巽君の顔色は、青から白そして赤へ面白いように変化した。
真っ赤な顔で即座に謝ってきた巽君を見て、私は思わず峯岸君を凝視してしまった。
一体、何を言ったんだ……。
楓子は目を白黒させて二人を見比べている。
じっと峯岸君を見つめると、彼はいつもの笑みより五割くらいあくどい顔でニヤリと笑って、人差し指を立てて唇に当てた。
「……ありがと」
何を言ったか知ったら藪蛇になりそうだ。
そもそも言う気にのなさそうな彼に対して、私は苦笑いをしながらもお礼を言った。
「ふふっ、どういたしまして」
にこり、といつもの笑みに戻って笑う彼に、私はそっと【怒らせたらいけない人】のタグを心の中でつけたのだった。
「それで、どうしたの?」
共通でとっている選択科目の授業の後、先に廊下を歩いていた私に追い付いてきた峯岸君は、首を傾げながら不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
「あーっと」
お昼休みのことがあって、今日はもうあきらめていたのだが、まさか彼から声をかけてくれるとは思わなかった。
楓子も巽君も違う授業を選択していない今が、プレゼントを渡すベストタイミングなことは間違えがない。ずっと持ち歩くわけにもいかないのだ。
「……、あの、こないだ……えっと、具合が悪かった時保健室に連れて行ってくれたでしょ?」
なんとなく気恥ずかしくて言葉に詰まりながら続ける。
「うん」
「だからさーー」
私は彼に近づき、制服のポケットにこそっとプレゼントの袋を滑り込ませた。
「?ナニコレ」
すぐに気が付いて取り出そうとする彼の手を上から押さえて阻止しつつ、あたりに視線を巡らせて人気がないことを確認して、耳元でそっと囁いた。
「ーーこないだはありがとう。これ、そのお礼。後で開けてね」
「へっ?」
きょとんとしている彼をおいて、私は前に向き直ると、足早にその場を離れた。
目をぱちくりさせて固まっていた彼が、後ろから追いかけてくる足音から逃げるように速足で次の教室へ急いだのだった。
なんとなく気まずくなって、放課後になるまで彼のことを避けていたのだが、帰りの下駄箱でばったりとあってしまった。
「あっ峯岸君……。また明日」
そう言って、そそくさ帰ろうとする私を見て彼はくすりと笑った。
「うん……、あ、ちょといい?」
彼は私にそっと近づき、仕返しのように耳元でささやいた。
「プレゼント、ありがとう。めっちゃ嬉しかった。また明日」
帰りの道は、なんとなく面映ゆくていつもより速足で帰宅したのだった。




