五章 十八歳、冬 籠が開く、その時に1
冬休みに入った。
私は家に軟禁されていた。
出入りは母に管理され、勝手に外出しようものなら家から一晩締め出され寒さに震えることとなった。
感情が死んでしまったかのように、何を聞いても何ともおもわない。
模試で母の希望以上の点が取れないときは抓られたり、頬を張られたりしたが、それらも今の私にはどうでもよいことだった。
痛みを感じないのだ。
それどころが、常に現実が遠い世界のようの感じられて、毎日夢の中を生きているような感覚で過ごしていた。
当然、勉強内容も夢を見ているようなものなので入っては来なかったが、些細なことだった。
気が付いたら一日が過ぎていることも多々あり、時間の感覚がおかしくなっていた。
頭の片隅で、家で以来学校に行けておらず、楓子や峯岸君や巽君に会えていないことが気になっていたが、考えるとどこかがどくどくとなりだすので、すぐに忘れることにしていた。
その日も、塾に行って帰宅途中だった。
指定された時間までに帰らないと締め出されるか、抓られたりするか、罵られるので、それが面倒なので私は速足でかえっていた。
「夏沢さん!!」
後ろから懐かしく感じる声がした。ここで聞くはずのない声だった。
「夏沢さん、待って!!」
幻聴だと思っていたそれは現実だった。後ろから掴まれた手に感じる温かさがそれを証明していた。
「……」
「夏沢さん、しばらく学校に来てないから、どうしたのかなって……この痣、どうしたの?」
峯岸君は目ざとく抓られて青くなった痣を見つけてしまった。掴まれた際に袖が捲れたのが原因だ。
「ーーごめん、離して。急いで帰らないといけないの」
「……ごめん、夏沢さん」
そう言った峯岸君は、私を強引に引っ張っていった。以前もそうしたように。
私は今度もなぜか体に力が入らずにつれていかれてしまった。
「夏沢さん、ごめん、楓子とかに頼んで、何があったか大体は調べた」
峯岸君は、昔私を連れてきた神社の空き地に今回も連れてくると、ベンチに座らせて、真横に座りそう告げた。
そんなに大きくもない町だ。人伝いに調べることは可能だろう。
「そっか。なら余計に離して。私を連れてると、誘拐っていわれるよ」
「構わないよ。それに、俺そういわれない方法知ってるしね」
さらりと答える彼の方を見やる。少し怒ったように眉をひそめた彼は近距離で私を見つめてくる。
「……どうして私に構おうとするのかな?こんな面倒ごとの塊みたいな人間ほっといてくれないかな」
「無理かな」
にこっと言われて絶句する。
「だって、夏沢さん、昔の俺に似てるから、助けるって決めてんだ。勝手だろ?」
そういう彼に私は毒気を抜かれた。同時に貼っていた意地も剥がれ落ちていく。
「あれ?うそ、あれ?」
彼はほんとに困った人だ。私に痛みも悲しみも思い出させてしまう。
「……夏沢さん、泣いたほうがいいんだよ。悲しんだほうがいいんだよ。そうしないと、どこまでも自分をごまかせてしまうから。そうして時間が沢山経ったあと後悔するんだ。人によってはもう取り返しのつかないほど時間がたってしまう人もいる」
静かにそういう彼の言葉は説得力があった。
私はこみあげてくる感情がいよいよ抑えれなくなっていった。
「なによ!!結局、峯岸君だって私の事助けられないでしょ!だって私たちはまだ学生で、お金もない子供なんだから!!」
八つ当たりとわかって彼に当たり散らす。
彼は困ったように私の頭をそっと撫でた。
「いざとなったら俺のとこにおいで。俺はバイトで稼いだお金もそこそこあるし、十八だから法律的には成人してるしね」
「なんで、そんなこと言うの?頼りたくなちゃうじゃん」
「……頼ってよ、俺にもなんで夏沢さんにこんな事言うのかわからないんだ。ただ、俺と似ててほっとけないのか、同情なのか、……それとも、好きなのか」
「へっ?」
涙が引っ込んだ。似てるってどういうことだ?それより好き?好きって?LIKEの、いやLOVE?
混乱している私を見て、彼は噴出した。
「なんで夏沢さんの方が、混乱してんの?告白しての俺だよ?」
「へっ?だって、きらきら男子が私に告白とか、考えてないし……」
「なんだそれ、なに夏沢さん俺の顔、好きなの?」
あざとく首を傾げる彼を見て、急に冷静になった。
「調子に乗るな!! ……好みではある」
「なんだ、それ。とりあえず、冷静になったみたいだから、告白の返事はまた今度でいいよ。で、夏沢さん、俺に助けられる気はある?」
「後でって……、最悪助けてくれたら嬉しい。だけど、一度私もお母さんと話してみる。ここで峯岸君に全部任せちゃったら後悔しそうなんだ」
「……そういうとこに惹かれたのかな?」
「ん?何か言った?」
「いいや、何でもない。わかった。家の玄関の外で待ってるから、頑張っておいで」
なんだか今日は急展開だ。だけど、後から思い返してみても、ここでうごけなかったらもう、あのままだっただろうから、勢いで動いてよかったのだと思う。
峯岸君は、家までの帰り道ずっと手をつないでくれた。
私は少し恥ずかしかったけど、それよりも心強かったので、振りほどかなかった。




