プロローグ
久しぶりに書ききった小説です。
つたないところもございますが、よろしくお願いいたします。
「あっ……」
かたん、と鳥籠の扉が落ちて閉じた。
どこに行ったの? 私の小鳥。せっかくお父さんに誕生日に買ってもらったのに。
ふらふらと彷徨うように、リビングの扉を開けた。
綺麗なレースがかけてある黒いピアノ、その上のピンクの絹のハンカチの上に冷たく横たわる小さな死の影があった。
「うそ!……なんで?」
呆然としながら、その死の冷たさにおびき寄せられるように、ハンカチごと小さな影を手に取る。
「冷たい」
すでに、その躯にはみじんもぬくもりは残ってはいなかった。
ガチャリ、とリビングの扉がまた開く。
明かりのついていない昼下がりのリビングは、どこか、あの金属でできた冷たい鳥籠に似ていた。
「あなたが悪いのよ」
カーテンの影と、そこから漏れ出る光でゆらゆら陰る室内で、母は淡々と告げた。
「鳥籠の外へ出ないよう、躾けておかないから」
振り向いて、彼女をじっと見つめる。
鳥を躾けるってどうやって? 閉じ込められたら出たいのは当たり前ではないの? 思考がぐるぐる回る。
「それ、一度籠の外へ逃げたのよ。そのまま窓の外へ飛び出していったわ。けれど、なんでか戻ってきたの。もっとも、部屋には入れずにどこかにぶつかって死んでしまったけれど」
温度のない声でそう告げられ、私の中でさらに思考が渦巻く。助けてあげなかったの? 窓は閉めていたはずなのに。本当にどこかにぶつかって死んだの?
黒い影になり果てたその躯は、不自然なほど冷たかった。
母は、ぞっとするような目つきで私をみやり、踵を返した。
「鳥籠の中で甘やかされていれば、その鳥も幸せだったでしょうに。お前も早く気が付きなさい」
ガタン、と音を立てて閉まったリビングの扉が、なぜか鳥籠の閉まる音に聞こえて、私はしばらくそこを動けなかった。
つつー、と頬を雫が伝って落ちて行って、命なき影へ降り注いだ。