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 廃ビルの出口についた。この廃ビルの区画から出て、人通りの多い場所までは、まだだいぶ距離がある。素早く周りを確認して、飛び出す。同時に、スマホが震える。走りながら、スマホを確認すると、メッセージが来ている。

「どうした?逃げるのか、腰抜け。」

 クソ野郎からのメッセージだ。やはり相手からは見えているらしい。好きなだけ言ってろ。逃げれば俺の勝ちだ。

「屋上にメインイベントを用意していたのに、台無しだろうがよ。」

 ざまあみろ。相手の思惑の裏をかいたという事実に、少し自尊心が回復する。

「まあ、白い動物は確認できた。俺の勝ちだな。」

 負け惜しみだ。もう区画の出口は目の前だ。一言メッセージを送って、勝利宣言をしてから逃げてやろう。

「師匠!」

 毛玉が声をあげる。

「おまえな…。」

 まだ留まろうなんていうつもりか?と続けようとしたところで、毛玉が俺に思いきり体当たりをかましてきた。俺は大きく吹き飛び、区画の出口から離れてしまう。

 何をする、と毛玉へ文句を言おうとした矢先、その真っ白な身体は宙を舞っていた。突然の事に理解が追いつかず、青空に浮かぶ雲と並んで、きれいだなと思った。そして、俺が先ほどまでいた場所には、ゴブリンの2倍はあろうかという緑の巨漢が、立っていた。その手には、毛玉の大きさを優に超える、巨大な棍棒を持っている。


 宙を舞った毛玉は、受け身を取ることなく、地面に激突した。口から少量の血を流し、白目をむきながらぴくぴくと痙攣している。緑の巨漢は、近くで呆然としている俺に目もくれず、倒れている毛玉に近づいていく。

 こいつは、ゴブリンウォリアーだ。たしか、レベルは5。毛玉だけじゃ逆立ちしても勝てない。

 倒れている毛玉へとどめをさそうと、巨漢は棍棒を振りあげる。防御も回避もできない、今の状態で殴られたら、毛玉は死…。俺はとっさにスマホを操作して、毛玉をスマホにしまった。手ごたえが無かった事を不思議に思ったのか、巨漢は何度も何度もその場にこん棒を振り下ろす。轟音が鳴り響き、そのたびに地面が揺れる。

 巨漢から距離をとろうとあとずさった俺の背後から、男の声が聞こえた。

「やめろ。もういい。」

 その指示で、巨漢は動きを止め、こちらを向く。俺に狙いを定めたのかと一瞬身構えたが、その視線は、俺ではなく俺の背後に向いている。視線の方向へ振り向くと、そこには金髪の男が俺を見下ろして立っていた。


 金髪の男は、しばらく黙って俺を見つめていた。警戒しているのか?だが、ニヤっと笑うと、ぐぅっと俺に顔を寄せて口を開く。

「よぉ~。顔を合わせるのは初めてだな。」

 勝ち誇ったように、にやにやと薄ら笑いを浮かべている。

「だ、だれだ…?おまえ…。」

 情けない声で、わかりきった質問をしてしまった。その言葉に男のニヤケ面は、ますます気味が悪くなる。

「オレだよぉ~、冷たいなぁ~。仲良くメッセージを交わした仲だろぉ?ん?」

 クソ野郎。金髪だが、美女でもないし、はにかみ屋さんでもない。

「目的は、なんなんだ…。」

「おいおい~。それもわかってるくせにぃ~。」

 そう言って、人差し指で俺の鼻をつんと押す。

 目的は、毛玉を確認する…こと?だったら毛玉をぶん殴らなくても…。そうだ、毛玉は!?

 ちらりとスマホを確認する。ホーム画面には、ぐったりとした毛玉が表示されている。呼吸はしているようなので、死んではいないようだ。安堵したのも束の間、クソ野郎に蹴り飛ばされ、地面に倒れこむ。スマホは遠くに飛んで行ってしまった。

「なにすんだ、このやろう!」

「人が話してる時にスマホをイジるのは、関心しないなぁ。」

 お友達との楽しいお食事中ならそうだろうが、あいにくこいつに配慮する気遣いは持ち合わせていない。

 落としたスマホをクソ野郎が拾おうとしているので、慌てて手を伸ばす。

「くそっ!返せ!」

 と、伸ばした左腕に、ゴブリンの棍棒が容赦なく振り下ろされた。空気を切り裂く音がし、目の前で小規模な爆発が起きたのかというような衝撃で、俺の視界は一瞬白くなる。

 次の瞬間、俺はあまりの痛みに思わず大声をあげる。最初は、腕を地面とこん棒に挟まれた痛み。次は、骨が砕け、内側から肉に刺さるような激しい痛み。痛みで反射的に左腕を引き抜こうとして、それが傷に伝わった時の痛み。あまりの痛みに吐き気と涙が止まらない。挟まれた腕から先が、しびれたように感覚がない。

「ほらほらぁ~。大人がそぉんな情けない声で鳴かないの。」

 持ち上げたこん棒の下には、悲惨な惨状が広がっている。これだけの事をしておいて、クソ野郎はニヤニヤ笑っている。

 自分の左腕を痛みに耐えて、なんとか胸へ手繰り寄せる。これ、治るのか?二度と動かせないんじゃないか?もしかして、切断する羽目になるんじゃないか?それに、指が動かない。なんで?さっきまで動いてたのに?骨という支えがなくなった腕は、ぶらりと力なく垂れて、位置が収まらない。動くたびに燃えるような激しい痛みが襲い、腕が無くなるかもしれない恐怖で、涙が止まらない。

「うぅ~…。てめぇー!なにしやがる!う、腕がこんなになっちまったじゃねえかぁ~!」

 泣きながら不服を訴える。涙で視界が歪み、顔はよく見えないがクソ野郎の声は上機嫌だ。

「いやぁ、痛めつけるつもりは無かったんだが、お前がちょぉっと生意気な態度だからよぉ~。」

 俺のスマホをいじりながら、近づいてくる。

「んん~?やっぱり、本人じゃあなきゃ、ダメか?」

 頭をポリポリとかきながら俺にスマホを差し出す。

「ほら、さっさとこの死にぞこない、出してくれや。」

 モミワーでぐったりしている毛玉が、目の前に迫る。こいつをまた出せだと?出せばどうなる?とどめをさすのか?

「い、いやだ…!出せば殺すつもりだろ!」

 はぁ~と大きな溜息をつき、俺の右腕をグイっとひっぱる。支えのなくなった左腕が、だらりと地面に落ち、激痛が走る。

「まぁ、そうだけど。早くしろや。」

 右手の指を無理やり開かれ、俺の指で「出す」操作しようとしている。

「や、やめ…ろ!」

 痛みで全力が出ないとはいえ、クソ野郎の力は簡単に抗えない腕力だ。

「ううぅ、いいのか!俺たちをやれば、待機してるレジェンドキャラが襲ってくるぞ!」

 とっさにハッタリをぶちかます。だが、一瞬動きが止まるが、すぐにまたニヤケ面に戻る。

「いいねぇ~。ゾクゾクしちゃうよ。でも、他がいないことは、既にわかってるからさ。」

「いいや、わかっていないはずだ!お前は…。」

 直接見たわけじゃないだろう。そんなハッタリをかまして時間を稼ごうとするが、

「うるせぇ。」

 左腕を蹴られ、悶絶する。小突くような軽い蹴りだったが、それだけで目の前がチカチカして、息が止まりそうになった。

 結局、力で無理やりねじ伏せられ、毛玉はスマホから出てきてしまった。起き上がる気配はない。

「よし、ぶっ殺せ。」

 その合図に、ゴブリンウォリアーは待ってましたと言わんばかりに、毛玉へ思い切り棍棒を振り下ろす。

「毛玉!おい!ピコリン!!起きろ!ピコリン!」

 激しい衝撃に、土煙が巻きあがる。

「うわああぁ!」

 あいつは死んだらどうなるんだ?消えるのか?いや、ゴブリンの事を考えると、死体が少しだけ残って、その後に消える。つまり、俺は毛玉の死体を見なきゃいけないのか?嫌だ、嫌だ…。

「なんでこんな…。なんでだよ!」

「悪役はよぉ~、ダラダラ喋って、機を逃したりするだろ?オレはそういうのノーセンキューだからさぁ。」

 ゴブリンは毛玉の状態を確認することなく、俺の元に向かってくる。

「まぁ、オレは悪役じゃあないけどなぁ。」

 ゴブリンが棍棒を振り上げる。あれを俺に振り下ろす気か?そんな事したら、死んじゃうぞ?正気か?俺が、死ぬ…。嘘だろ。

「ううぅ…!」

 目をつぶって棍棒から目を離す。一瞬で死ぬのか?それとも、しばらく苦しむのか?インターネットで見た、グロい死体の画像が一瞬でいくつも頭に浮かび上がる。あんな風になるのか?今から…。

 ドンッと耳元で大きな爆発音がした。ああ、殴られたんだ。頭の上がめちゃくちゃ熱い。だが、痛みはない。なんだかまぶしい。つうか、本当に熱い。

「あぁっつ!!」

 クソ野郎も熱いらしい。わかる、かなり熱いよな。髪の毛焦げるぞこれ。いや、なんでだ?俺が殴られたから熱いんじゃないのか?恐る恐る上を向くと、ゴブリンの上半身が激しく燃え盛っている。

 ゴブリンは棍棒を振り上げた恰好のまま、ゆっくりと後ろに倒れ、しばらくして消えた。

 何が起こったのかわからない俺たちは、しばらく消えたゴブリンの場所をぼーっと見つめていた。その空白の時間に、クソ野郎の持つ俺の携帯を取り上げた者がいた。

「は…はぁあ!?」

 俺も驚いたが、一番驚いたのはクソ野郎だろう。先ほどまで瀕死だった毛玉が、俺の前に立っている。

「師匠!こっちです!」

「え?え?え?お前なんで?」

「いいから!早く!!」

「いや、俺は腕がな…。」

「ああもう!わかりました!」

 毛玉は俺の襟首を咥えて走り出す。毛玉が生きていた事はよかったが、引きずられて尻も背中も腕もめちゃくちゃ痛い。区画の出口へ引きずられている途中、2人の人影とすれ違う。1人はスーツの男性。1人は、痴女のような恰好をした女性。こちらを振り向かないが、後ろ姿だけでわかる。ルナだ。

「え?え?おいあれ、ルナだよな!?え!?ルナじゃん!」

「師匠!舌噛みますよ!」

 モゴモゴと俺を咥えながら毛玉が注意してくる。あの炎はルナの魔法だったのか?すごい威力だ。レベル5とはいえ、ゴブリンウォリアーを一撃で倒すなんて。

 区画の出口には、立派な黒塗りの車が停まっている。車の前には、短髪で気の強そうな女性が立っている。

「来たか!よし、乗ってくれ!」

「はい!」

 毛玉がいい返事をして、俺ごと車の中につっこむ。腕がドアの壁にぶつかって、痛みに悶える。

 車はすぐに走り出し、俺たちはどこかへ連れていかれる。

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