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異世界転生

異世界転生してしまった、みたいだ。

内気な俺、上手くやれるかなぁ?

キーンコーンカーンコーン


 「さあ本日もやってまいりました! お昼の放送の時間です! 愛情たっぷり弁当、美味しく頂いていますかぁー!? さて! 今日はですね、今話題のあのアーティストの曲を流したいと思いまーす!」

 

「親からの、愛情たっぷり弁当……か……。」


 はぁ、とため息をつきながら、1人黙々と朝コンビニで買ってきた398円の焼肉弁当を睨みつける。


 自転車のカゴに入れていたからか、米の下には焼肉の汁が溜まっており、とても箸では掴みづらい。


 そんな俺と、俺のコンビニ弁当のことなど気にかけてくれる友達もおらず、今日も後ろから3番目1番窓側の席で黙々とぼっち飯を繰り広げている。

 

 「それでさぁー、あのドラマがー……」

 「ああ、それなー、」

 「やべっ、宿題やんの忘れてたー。」

 「次古文かよー、だりぃ。」


 教室のあちこちから名前もろくに知らないクラスメイトの声が、まるで当たり前な生活音のごとく耳を通り抜けていく。


 くだらねぇ……


 俺は再びコンビニ弁当に向き合って、うまく割れずにただの掴みにくい棒と化した割り箸を、力無く握った。


 毎日がつまらない……


 そう思いながら、ただひたすら味気ない米と肉を口に運ぶ。

 美味いとか、もっと食べたいとか、そんな感情はいつから枯渇してしまったのだろう。


 食事なんて、ただ空腹を満たすだけの動作にすぎず、俺が学校に来ても来なくても、飯を食おうがぶっ倒れようが、誰も気にも留めないだろう。


 俺なんて、どうせそんなもんだ……



 「じゃあ今日はここまでだ。帰って良いぞー。」

 

 「やっとおわったー!!」

 「今からカラオケ行く人ー?」

 「じゃあねー!!」


 担任の先生が発した一言が合図となり教室は動物園よりもうるさい動物園と化す。


 この空間が俺にとっては苦痛なものでしかない。


 一刻も早くココから抜け出したいと、猫背で俯きがちに教室を出た。


 「おぉ、(あずま)、手が空いてるならこのプリント職員室まで運んできてくれないか。どうも1人で持てる量じゃなくてな。」

 

 最悪だ。


 担任の高田先生に止められてしまった。

 誰か別の人にしてくれよ、と内心思いながらも


 「こんなヒョロガリでも持てる量なら。」

 

 と作り笑顔で、そう返した。


 だりぃ、と思いながらも荷物を運び終わり、帰宅しようと家に向かって歩いていく。


  「おい、そこのお前、ちょっとこっち来い。」


 なんだか怖そうな人達に声をかけられた。

 

 背格好から見るに、俺より2、3コ年上だろうか。


 「な、なんでしょうか。」

 「ちょっと今カネに困っててさぁ、すこーしだけ貸してくんねえかなぁって思って。」


 これは、お願いに聞こえる「恐喝」だ……


 「む、無理です。そんなに持ってませんし。」

 「あぁ? 無理だって? お前ケガしたくなかったら早くカネ置いてけよ!」


 胸ぐらを掴まれ壁に押しつけられる。

 

 怖い……いやだ……殴られたくない! 

 痛いのは嫌だ!

 またあの時みたいに……


 誰か助けてくれないか!と強く強く願う。

 だが、周りの人たちは見向きもせずに去ってゆく。


 《俺が助けてやるよ。》


 どこからか聞き馴染みのある声が聞こえ、次の瞬間、俺の意識はスッと遠ざかっていった。



 ***

 

 東龍雷あずまりゅうらいは幼い頃、母親から過度な虐待を受けていた。


 龍雷の父親は当時荒くれ者で、龍雷という息子ができた後も度々犯罪を犯していた。


 母親は、犯罪を重ねる父親を見限って離婚したのだか、収入を父親に頼り切っていた為生活が回らなくなり、精神が崩壊してしまった。

 そしてそのストレスや怒りの矛先を全て龍雷にぶつけた。


 育児などろくにせず、酒にギャンブル、家の中はいつもタバコの臭いが充満していて、壁はどこも黄ばんでいた。


 「ただいま」と言えば「なんで帰ってきたんだよ」と殴られ、機嫌が悪い時は「視界に入ってくんな」と押し入れに閉じ込められた。


 お袋の味など知らない。

 まともな食事というものを、家で食べた記憶など無い。


 龍雷はずっとそんな環境で育ってきた。


 何年も、何年も、何年も何年も我慢してきたが、それが自分にとっては当たり前の環境であり、どうこうなるものでもないと半ば諦めていた。


 だが、いつの間にかその苦しみから逃れるための自己防衛とでもいうのか、龍雷の中には《《もう1人》》の自分が存在していた。

 いわゆる二重人格というやつだろうか。


 母親はそんな龍雷を気味悪がって、祖父母の家にまだ幼い龍雷を置いたままどこかへ消えてしまった。


 龍雷は、感情が昂ったり恐怖を感じたりした時、もう一つの人格が表に出てきてしまうことを知っていたため、極力人と関わらないように生きてきた。


 龍雷はまだ知らない。


 もう一つの人格が……


 《《勇者の人格》》だということを。


 ***


 『おいおいお前らか俺を虐めたのは。』


 まさに今、俺の体はもう一つの人格に乗っ取られている!


 自分の意思では体が動かせない。


 まるでゲームの主人公を、三人称視点から操作しているような感覚だ。


 さっきまでへっぴり腰だったヒョロガリ陰キャが、いきなり声色を荒げて言い寄ってきていると驚いているであろうチンピラ達は困惑している。


 『くそっ、こっちじゃ魔力がないから世界の果てまで飛ばせないじゃねぇか。まぁ良いか。もう半端な事できない体にしてやるよ。』


 「お前、何言ってんだ?」

 「さっきまでと全然違う。」


 『ごちゃごちゃうるさいよ。』


 俺の体から銃弾のような拳が相手の顎まで一直線に伸びていく。

 そして、気づかないうちに残りの奴らも全員倒れ込んでいる。


 もう1人の俺怖すぎだろ!

 と内心思いながらもホッとした。


 俺が二重人格だと知っているのは母親と、じいちゃんとばぁちゃんだけだ。


 昔ばあちゃんが教えてくれた。

 もう一つの人格が表に出ている時は見た目や表情が変わり、もちろん性格も変わるらしい。

 いつもは前髪を目にかかるくらいまで下ろしているのだが、別人格になると自然と前髪は上がり口調が変わるらしい。声も。

 いつも不安そうな顔をしている俺の顔も自信に満ちた顔になるらしい。

 そして何より、勇者だとかモンスターだとかダンジョンだとか魔法だとかわけのわからないことばかり口にするらしい。

 そんな俺ともう1人の俺だが、コミュニケーションが取れない。

 さっきチンピラに絡まれた時のように声が聞こえることはたまにある。

 でもこちらから話しかけようとしても無理なのだ。

 

 いつの間にか体の主導権は俺にもどり、地面に落ちていた学校指定のカバンを拾って家へ帰ろうといつもの道を歩きだす。

 信号が点滅に変わり小走りで渡ろうとした、

 

 その時……


 キィィィィイイィィイィィ!!!!


 「えっ!?」


 とてつもない音がしたのでそちらを見ると、トラックが目の前にいた。

 

 ドッ!!!!


 激しい痛みが全身を走り抜け、それと同時に俺の意識は深く、深く、沈んでいった…………


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