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クルーベル王国にやって来て1年が経過した。
お父様は文官時代に知り合った商人の店で会計係として働いている。
貴族時代もそれなりに優秀で真面目だったお父様はすぐに店での信頼を勝ち取っていった。
(だからこそあの婚約破棄騒動は本当に不幸だったのね……)
そう考えると運命というのは本当にわからない。
私はこの1年間は平民の学校に通っていた。
クルーベル王国では国民の教育は義務化しており平民も学校に通う事が出来る。
勿論、貴族学院とは違い主に平民として生きる為の教養を身につけている。
私にとってこの1年間は気づきの連続だった。
いかに自分が世間知らずの箱入り娘だったのか、という事を理解した。
なんせ今まで家事洗濯掃除も出来ない人間だった私だ。
それがいきなり平民として暮らしていけるか、と言うと凄く甘かった。
平民がどんな暮らしをしているのか、貴族と平民の違い、そして金銭感覚がおかしかった事に気づいたのだ。
貴族の常識は世間の非常識、それを身をもって経験したのは良い事だった。
「エマ、本当に良いのか?」
「はい、私も15歳になり大人の仲間入りです。これからは私の道を歩もうと思います」
「この1年間で逞しくなったなぁ……」
私はお父様と離れ一人暮らしをする事にした。
この決意はクルーベル王国に来てから暫くして決めた事だ。
きっかけは風の便りで聞いたお母様の再婚だ。
なんでも有力な貴族の後妻に収まったそうだ。
つまりはお母様を頼る事は出来ない、という事。
だったら自分の力で暮らして行くしかない、そう決意した。
「別に今生の別れではないんですから偶には様子を見に来ますよ。それにこの街を離れる訳ではありませんから」
「そうだな、エマにはエマの人生がある。好きな様に生きなさい。だが他人に迷惑をかけてはダメだぞ」
「勿論わかっています」
こうして私の一人暮らしは始まった。