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おいしい短編集

棒アイス

作者: シリウス

人間の全ての行為はコミュニケーションと捉えられるのではないか。一般的にコミュニケーションが意味する他人との対話だけでなく、他の人や物体と関わりながら生きることで私たちは常にコミュニケーションを行っている。

その中で「食べる」という行為、欲望は私達の根幹となるもので、それ故に一番素直なコミュニケーションではないかと思う。

嫌いなものでも苦手なものでも、もちろん好きなものでも、一度口に入れ、咀嚼し、飲み込んでしまえば、身体の中で綺麗に消化され、血肉となる。いわば、これは私達と自然、ないしは外界をつなぐ最後の架け橋なのではないか。

素直だから美しい、そう思うのです。

初夏になったばかりなのにもう灼けるように暑い。地球温暖化の影響なのか、湿度も高くて熱が体にこびりついて取れない。おかげで1週間に数回、帰りに公園のベンチでアイスを食べる習慣がついてしまった。お金がないので、もっぱら安い棒アイスである。青く着色されたソーダ味が喉を過ぎて一瞬だけ暑さが和らぐ。それでも暑い。そのせいで棒アイスは今にも崩れそうになって、透明な糸が手首まで伸びる。食べ終わるまでに半乾きになってしまった砂糖の川は指に絡みつき薄い膜を張る。それに邪魔をされた指はぎこちなく宙に浮いている。

少しだけ不自由な手は、まるでうっすらと罪悪感と後悔の積もった私の心のようだ。


自分が少し周りとずれていることは薄々分かっていた。

心の奥まで、宇宙の果てまで感覚を研ぎ澄ましているのは私だけのようで、居場所がなくてどうしようもなく立ち尽くした。

考えて考えて自分の中に取り込む、そんな心の中の宝箱はみんなあると思ってた私も未熟なのだろう。それとも全員ただ曝け出さないのだろうか?それなら尚更滑稽だ。繋がりというものがマスカレードのような一夜の戯れと快楽のためでしかなくなるのだから。


誤魔化し誤魔化し3年が過ぎた。今ではもう身体と心と精神までもがちぐはぐで矛盾を抱え込むようになってしまった。こんな腐敗してしまっている自分を慕う人々を見ると嫌気が差す。いや、もはやもう諦めたあとの暗い優越感しか残らない。


新しい緑と土の匂いを乗せた風が私を通り抜けた。

腐敗していた私から何かが変わった。それはなんとも不思議な気分で、自由と孤独のつながりを初めて実感した。ずっとあると思っていた事実が露のように蒸発して、消えてしまう。その一種の喪失感を味わいながらも、私はひたすらに進んだ。そして今、一人、夕立を抱えた入道雲と青い空を眺めている。


手に残る淡く甘い思い出ををぺろっと舐めとる。夏の生ぬるい風が、私の輪郭に溶けていく。

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