14 あなたのような穀潰しのむっつりスケベの引きこもりオタクのにわか作家のクソガキが、外務省エリートやイージス艦やパトリオットミサイルよりも役に立つなんて、認めたくないのよ
さて諸君らはこういう経験をしたことがあるだろうか。
たとえば陳腐なSFテレビアニメにありがちな、何の変哲もない主人公の少年が、ある日突然屈強な男に両隣を固められ、自衛隊の輸送ヘリに乗せられる、といった巻き込まれシチュエーションを。
そしてヘリポートで待つ、およそまともには見えない赤色のスーツに身を包んだナイスバディの美女が、ローターの風圧に髪を乱されながら屹立していて、サングラスを外しながら「国重君、よくきてくれたわね」などと歩み寄ってくる、戸惑いの嬉し恥ずかしシチュエーションを。
そして美女に誘われ、会議室のような広大な部屋に入ると、コの字型に机がずら有りと並べられており、そこには十数名のスーツを着た中高年男女と、濃紺の制服を着た自衛隊員が部屋の両脇に居座っている、戸惑いと緊張のシチュエーションを。
その中心を割った正面、入口に立つ俺の位置から最も遠い、上座。窓を背にしたこの集まりの責任者とおぼしき男が、両手指を組み合わせた状態で机に肘をついている、どっかで見たことあるようなないような、既視感バリバリのシチュエーションを。
逆光に縁取られてその顔ははっきりとは見えない。だが眼光だけは爛々としており、俺のことを見据えてこう言う。
「よくぞ来てくれた。当局としては大変不本意ながら、君の手を借りるしかなくなった。国重君……」
その男を正面に、両脇に居並ぶ幹部らしき老年の男達は低く唸ったり、咳払いをしたり、あきらかに俺の事を訝しんでいる。
事実は小説より奇なり、などとよく言ったものだが、小説を事実化しようとしているのは作家だ。そして読者は事実がフィクションのようにならないかと望む。作家と読者の思いはこの奇妙なクロスオーヴァーの狭間でせめぎ合っている。
ところがだ、今の俺のように、現実がここまで破綻していると、もはや世界が我が手で書き換えられるのではないかと、そういった特殊な能力を与えられたのではないかと、元々世界はそういった理で動いていたのではないかと、そうも錯覚したくなるのである。
なに? お前は一体何の話をしているのか?
そう諸君らが私を訝り、頭をひねりたくなるのも判る。
もしかして先週一話録画し忘れ逃ちゃった、なんてドキドキしながら今、エアチェックを確認しているんじゃないだろうか。
だが、そんなことはないから安心して欲しい。
今俺が居るのは内閣総理大臣官邸、国家特別安全対策本部である。
先ほどエラそうに、窓を背に俺に語りかけてきていたのが、薄野首相その人である。
そして俺をここに誘った赤色スーツの美女こそ、ミス・吉原・テリアス・美奈子女史である。
数年前から頻繁に隣国のミサイルが我が国のEEZ内に不発着弾しているのは、割と日常の風景だった。
当初、というか一発目はさすがに本土に届く勢いの弾道ミサイルを開発したという衝撃が、政府はもとより自衛隊やアメリカ合衆国、無論国民もその脅威に戦慄した。
だが、こうも節操なく何発も飛ばされると、さすがに練習でもしてるのか、本気で狙っても当たらないだけなのか、いや、もしかしてミサイルの残骸で日本海を埋めて、地続きにでもしようという作戦なのか、などと揶揄したくなるもので、やがて国民はそれらへの感心を失うようになり、大したニュースにもならなくなった。
だから、最近はよく飛んでくるな、というくらいの印象しかなかった。
政府筋も何らかの威嚇、要求の下敷きくらいに考えていた。だが一向にその要求は為されない。
業を煮やした政府筋のシンクタンクが、あらゆる手段を駆使して分析した結果、ミサイルが飛ばされるようになった時期や、テロの頻発化などとと、ファンタジー法が施行された時期が一致するのだという。
それだけなら何かの偶然だと一蹴されただろう、だがその後に続く追加法の施行の度に国内外で暴力事件や、テロが苛烈さをましているという分析結果まで出ると、さすがに相関性を疑わざるをえない。
事件発生と規制の厳しさが比例しているのだ。まるで俺達の憤りが怒りとなって、まさにこの国を攻撃しているのだと、そう錯覚もしたくなる。
こんなデータが世の中に流れれば、さすがに作家連中も立ち上がるだろう。理屈はどうあれ、状況証拠的にそれらの危機が自分たちにとって不合理なものに端を発していると知れば、抗議の声は正当性を孕む。下手をすればクーデターだって起きかねない。
だから対策チームはずっと秘密裏に、水面下で動いてきていた――んだそうだ。
しかし、別にミサイル迎撃用の潜水艦を日本海に配置した訳ではない、ことは確かだ。
なぜなら、
「――君の手を借りるより他ないと結論したのだよ、国重君……いや、処女貫徹先生!」
そう、のたまった。そうきたか、と。
薄野首相は立ち上がり、その鋭い眼光で俺を見据え、頭を下げた。両脇の閣僚も立ち上がって、戸惑いつつ一斉に俺に頭を下げた。
つーか、やっぱり全く話が見えないんですけど。
なので、まず手近にいる、ミス吉原に状況説明を乞うのがスジというものだろう。
「あの、俺は一体ナニに巻き込まれようとしているんすか? ラノベをゲリラ投稿した廉で証人喚問とか?」一応場が場だけに、小声で問うてみる。
「君が必要とされているのよ」女史もまた小声で応える。
「でも、大変不本意ながら、とか言ってたよな。めちゃめちゃ失礼な感じするんですけど」
「あなたのような穀潰しのむっつりスケベの引きこもりオタクのにわか作家のクソガキが、外務省エリートやイージス艦やパトリオットミサイルよりも役に立つなんて、認めたくないのよ。おまけに彼らが擁してきた、ここぞの政略兵器をダメにしちゃったんだから」
さらっと、ひどいことを言われるのは、あのネカフェでの一件を根に持っているからだろうか。しかし“せいりゃく兵器”とはなんのことだ。
そこへ静かな足取りで俺に歩み寄ってくる細身の人物。こちらもたびたびテレビで観たことがある人だ。
「官房長官の金津園です」握手を求められた。「まずは突然のことで驚いていると思いますが、今は国家存亡の危機とも言える事態で、事情を説明している猶予がなく、致し方なくあのような強引な手段であなたにお越しいただいたのです」
ま、そんなわけで、少し話を戻そう。




