タイトル未定2024/06/26 21:05
戦に終わりがなければ、血が流れることはない。
第60話 秋刻
「……本当にその心を持って、敵になるか。
今一度と寝返れば……塞ぐことできない、赤い血が常に漏れる傷で許してあげるよ。
あと身体を動かすアーティファクトである、糸走った脊髄を取るだけでね」
靡く空気に身をつだねながら、少女は小さな声で語った。
そのうちに秘められるは理解しつつも言葉には尽くし難いものだった、沢山のものが境なく入りみだっていた。
「いくぞ……!」
硬く結ばれた肉と骨が詰まった、白い腕とそれと一体になった白い手。
後者の白い手に握られている、白光りする儀仗を少女へと真っ直ぐ向ける。
少しとしか言えぬ硬くしか持っていなかった空気は、まるで水に姿を変えたかのように重く粘りを持った。
ただ直立し不動に立っているだけであるのに、膝をほとる弱さに甘んじて折るほどに体が重い。
視界は安定し前を向けられているのに、まるで黒煙でも舞っているように少し黒かった。
「さぁ来なさいや、君のその顔が……赤色に変わるところを、もう一度見てみたいからね」
少女の顔はずっと笑っていた。
静けさを繕い怒りに狂い、さすれも言路に一切の欠陥はなかった。
異常を正常であるかのように、この時までずっと魅せていた。
機械という人類の開発遺産のような、特色など凍ても煮ても現れぬ無機質さ。
「……お前。その顔、らしくないと頭で思っていないのか?」
しかし今度は違った、何もかもが違ったのだ。少女は底にある本心から笑っていた、目を歳を食った丸みある山脈のように曲げ、口を下弦の月のように角付けて笑っていた。
爆笑などという過激な笑いではなかった、人間が持ち合わせているであろう笑いだった。
数を記憶できないほど多くの人々の心を、我がうちに投射し笑いを呼び込んだ白塗り面の道化師ですらも、肩を捨て見つめるもの。
「わかってるじゃないか、そうだよ君がその言葉を言うのを────」
少女は論述を語る学者のように、悦浸った声で笑いながら、時の感覚が優先順位から外れる有頂天まで達した時。
猛吹雪よりも早く少女へと飛び込んだ。
虎視眈々と獲物の首筋を狙う、銀世界に包まれた森林に居る狼。
私の思考も攻撃も、筋繊維の力み具合も全てそれと同じだった。
白い儀仗は光の屈折よりも早く、その姿を入れ替えた。
金属のような毛穴が開くような音もならず、髪が揺られる衝撃波もない。
正真正銘に音も無く姿を変えたのだった。
「──」
呼吸一つも音鳴らさなかった。
どんな姿に身を変じたのかわからぬ状態で、少女に攻撃を入れる。
特に変哲もなく語ることもなく切れる。
双葉のように二つの線が囲いとなる、深い切り傷が体に刻まれる。
皮膚に隠された、血管の内を交通網の如く巡っていた血が噴き出、厚い噴煙のように空を泳いだ。
だが皮の内に螺旋のように組まれた、血よりも赤い肉までは切り裂くことはできなかった。
普通を営むならば肌が破れる傷というのは大傷に匹敵する、しかし殺し合いでは腐食に蝕まれた木よりも柔らかい肌を、両断に破れなければ軽傷と変わらない。
殺し合いは辺材である肉を破ってからこそ、持ってして言える普通の傷だ。
「やっ……!」
酸素が搾り尽くされた宙に留まりながら、もう一段と傷を刻んだ。
今と変わらぬ傷口に草枝の如く甘く揺れる、白い儀仗で切り裂く。
激しく血が飛び散る、風の流れも歪めるほど激しく、手面ほどの大きさの小動物に降りかかれば刀断できる。
そんな一斉に死が迫る中、少女はただ木のように立っていた。
またも奥まで損傷を伸ばした傷口に、一ミリもの狂いも無い斬撃が加えられれば、白雪のような骨粉を散らすだろう。
「ム。」
血の気ない言葉を放つ。
そして機械的に必要分の力を用い、己の筋繊維に負荷をかけ、二度次に斬撃を少女へと葬った。
約束毎を語るように、少女からは赤い血が漏れた。
追いつこうと走り込むように、赤濡れの肉が勢いよく飛び出した。
しかしながら少女はその痛みも分からなくなるほどに切断を積まれようとも、簡単な単語ひとつも吐く様子は見えなかった。
気性の変哲も見られず、まるで棒立ちの屍としか、規格を定めることはできなかった。
「どう…………だ!」
力んだ腕の痛みを感じながら、敵から十メートル弱を超える距離を取った。
若干の距離がありつつも深さまで開かれた傷口からは、鮮やかな色合いを持つ血が見る間でも規模を増していく。
「アー……痛々しいよぉ……キミの攻撃、荒いだけかと侮ってたら、やる時はやるじゃん。
“星の王”でも目指したら?」
少女が此処に来て初めて、薄い白膜が張り詰めた唇を開いた。
清澄なる美しさを口淵に溜め込みながらも、そこから錬成されるは蝋のように揺らめる瞳孔よりも黒い言葉だった。
「……お前の言葉は全て偽りだろう、侮っていることなどなかったのだろう?
本心では好きいいる暇もなく、得意な攻撃で指残らず粉砕しようと、その白い肌の内側で考えていたのだろう?」
口を閉ざし、曲がった目つきを伸ばしてくる。
口から心臓でも吐き出してしまいそうな恐怖の中で、旋律崩さずに少女にものを語った。
血に汚れた歯で舌を噛まずして、此処まで語れたのは逆に誇れるものだった。
「どうしてそれに気づくのか……図星をツボのようにつかれるとは……お前、私の体と心に何か監視カメラ的なものでも埋め込んでんの? そうやって、言葉で私を犯したいのかしらァ?
キッショ……」
憎みたりけりと言わんばかりに、相手の名や人格を侮蔑するような言葉を吐く。
その今にでも壊れそうな、青色が甲羅のように刻まれた唇で言われようとも、そういう性格が張っていると読み取れる。
青色は何もかもがもの寂しいと、言えてしまうのだから。
その唇から少し目を蹴落とすだけで見える、白い手には変わらずと刃が握られていた。
刀身が紫色に煌めき、半透明な白色の糸が包帯を模すように回り包み、絆創膏のように一部のみを隠していた。
傷口から滝よりも遅く滴る血液は、紫色の刀身に触れると共にその姿を散らした。
身尽きの経過などを示すことなく、最初から姿など無かったかのように。
「やっぱりお前は醜いお前は堕天使だよ。
見た目だけだ、単純に人間が色を釘付ける見た目だ。
嫉妬、色情やら……だから、お前は人間に対してだけ最強なんだよ。
だけど私はお前の本質を理解したよ。お前は今の私にとって、最強とまで言わしめる脅威ではないんだ、感情を蹴鞠のように弄ぶクソみたいな本質を理解した……からな」
手厳しいなどと言う飾りを付け纏うことなど出来ない、それを退けにする万年の亀の寿命も縮む氷河よりも冷たいセリフだった。
しかし私の目を細めたセリフよりも、少女の言葉の方が沈むように黒い。
空色は変わらず明るく顰めることはなかった。
一、二と時が流れていくごとに、灰色は分厚さを増しているような気がした。
このまま瘡蓋のように広がった雲が、地面に落ちてくるのではないかと思った。
空気は一段と湿りを強張らせ、衣に隠された皮膚が滲むように熱くなった。
行き当たりの拠り所を崩された、言葉尽くせぬ恐怖であった。
「……すげぇよ、お前」
雨雫のような一度も持たない声であったものの、私の耳に響いた声は一角の大理石よりも重かった。
身体が前のめりに傾倒しそうなほど、心身に深く迸る打撃を与えた。
「さぁって、私もそろそろ」
その言葉を感嘆したか頰に窮屈に生える、爪先よりも浅い毛が逆立った。
冷やされた情緒に血が上り、忘れたものが見越したように現れた。
只管に心に言葉無能な感覚が、心を潰さんとばかりに包んだ。
震える脚底を整え来るかも定かではない脅威に、対し重心という剣を構えた。
光の粗雑ない歩みよりも早く来ようとも、受け切り裂く太刀は研いでいる。
思案の裏より現れなければ、やうやうな傷が抉られることはない。
「そうか……そうだな。こっちが主役を担った一幕過ぎたなら、そっちは報復の一手を打たないと論理に顔立たないな」
血が波打つ、切羽詰まりの声を放った。
空気を揺らす声は浸透したような、畏れ積み積みの震えを感じた。
それは誰彼、人集の声ではなく真己の声だった。
純白煌めきの儀仗を、骨軋むほどにまでの力で握る。
形は元と同じく直線上に長く、先はただ心無く尖っているだけ。
同じく少女は紫色に輝く剣を握り、今にでもそれで切り付けるのかと思わせる。
脳内に上見えずな思考を充満させると、一段と心が締め付けられた。
負け先も勝ち先も見えない状況に立たされていると自覚し、旋風のような戰慄が浮き出る背筋を降った。
「その目にとらえられない動きは、天から手向けられた身に合わないのにね……。
でも私の足には、指先も追いつけないけどね!」
少女の声が黒穴続く耳元で響いた。
「ッ」
歯で苦味ある唾液で包まれた、淡々な赤が滲む舌を噛んだ。
舌に身を付けた覚えある鉄の味が沁みた途端、それを狼煙として化かす。
簡素な変形機造を持つ杖を振り仕切り、少女へと大きな傷を刻む。
どんな形を身に纏うか分からない。
それでも目の前の少女に手折りを与える程度には、最も適した形に転じることは明らか。
「く……った!」
視界には、少女に紡ぐものは映らない。
しかし代変わると言わぬばかりに肩に掛けては、上手く口打ちできない重い感覚が貫くように沁みた。
それを尋問官が問うたとすれば。
「私の体を、細工無く純粋に切ったんだね。
純金の功労賞を奉って挙げるくらいには、凄いよ君」
少女の声がまたも耳元で響いた。
恐怖や憤りは粒たりとも感じなかった、ただ純粋な祝意だけを感じた。
心身足り得てやっとのこと実感できる、視界眩む福を見せ〆る言葉を。
その場から風をも切り裂く速度で離れた。
暗い死を感じた、ただ最奥の見えない冷たさを感じた。
逃げたかった死の要因となる少女から、ただ離れることを高望みに離れた。
「来るな、来るな、来るなァ!」
死んでも守るという望みとは裏に、ただ己が殺されることに恐怖を感じた。
少女が放つとする死は、私が杖先から蜜のように流す死よりも、圧倒的に惨たらしいものだった。
生と死は所詮として紙一重、生という表に永く浸るが故、裏の死に浸ることを恐怖と感じた。
「そんな嫌かい? 死んでも守ると風に載せて語りつつ、いざいざと目前に死を立ち釣れば恐怖に陥るか……」
追い討ちをかけるような、切先を全くも隠さぬ言葉を放つ。
ただ爆裂のような苛烈さに任せた単純な暴言ではなく、急須を着実に一点を切り裂く蛇蝎の御芸だった。
対等に立ち入る瞬間は、涙ぐましいほどの一方攻めを受ける私を睨まない。
視界に映る現状、身に突けられる感触を盛り続けるままでは、決して少女と同じ位階に立てない、同じ形を築する攻撃力を得ることはできない。
「……あっ」
黒色の少女が空間に並べる言葉は、全て私の芯核を貫いていた。
「その言葉は偽りなのかい? それとも、全くの黒ずみは無くれども、抱く恐怖がそれを優越している。
そしてその恐怖の魂は自身でも掴めない、そういうことであろう?」
言葉はひたすらに私を見えない何かに追い詰め、抵抗の余地間という救い手を伸ばすことはない。
果てのない逃走に身を動じ、ただ逃げ続けるしかなかった。
目の前に現るは、ただ可憐に空間を征く華であった。
指先で触れられずとも自らが自律して人を襲い、人の神経を破壊する猛禽類のような毒を撒き散らす。
「詰める詰めるヨォ、甘く泣いてく? 叫び喚いて泣いてく?
それと…………もぉォ!」
今まで以上に笑っていた。
繕った美麗さも我が物とせず、邪念を裂いて笑っていた。
笑いの球根は狂気ではない、ただ純粋な少女が喰い合わせるべき無邪気からだ。
「やぁっ…………!!」
しかしその恐怖に深く紛れながらも、積み残らぬ精振り絞り抵抗した。
白く爛々と角膜を照らす白い儀仗をふりしきり、少女の身へとその啄み得意な鋒を突き刺した。
少女からは血が溢れることはなく、その魂の一撃を悠々と躱した。
体に一瞬よりも短い硬直が、イナヅマのように口語ることできない速度で迸った。
一秒の合間にまた一丸と、新たな形を持つ攻撃を仕掛けることは出来る。
「遅い遅い。それで一立の敵に成れると思ったら、間違いもいいところだよ!」
無駄な思考が、少女の攻撃により砕き崩される。
攻撃は余り痛くはなかった、それに代わるかと言うのか、体に重厚が縛り付けられた。
回復機構が活性し開いた傷に修復を差した。
傷口から我れ先にと漏れていたシロザを凌ぐ赤さを持った血が、元に体を立たせていた血管へと返った。
今の瞬く間に在った傷は、私に己が遺骸を残すことなく消えた。
残るは体全体に張り巡らされた肌と、同じ形態と同じ色があった。
「こっちも……お前に、やってやらなきゃならないんだよ!」
後の先を見えずな反旗を志した。
儀仗の性能に攻撃力を強請らず、感情に手の寿が枯れるほどの力を注がず、己の目で少女の全身を捉え水滴を堕とすように攻撃を与えた。
「つ……なかなか、やるじゃん! でもその調子が、これから維持できるかなぁあ!」
「来るならこっちも……その気に優しく応えてやるよ!」
案の定、繰り出した攻撃は実を成し、少女の皮膚を削り裂いた。
今までとは類いを同じくすることはできない、大量の血液が吹き出した。
しかし少女の足はそれをも捨て退き、此方の方へと攻撃を仕掛ける。
紫色が網膜が焦げるほどにまで光を発し、振り翳した途端には、空間に濃霧のように紫の光が跡を残し漂った。
少女が放った斬撃は無慈悲に、足を止めることなく私の身を裂いた。
激しく血が漏れ出し、回復機構ですら封じられないのではないかという、冷たい一筋の悪寒が身を貫いた。
先ほどと同じ舞を繰り返すように、体の動きが縄付けされたように止まる。
恐怖が目覚ましいほどに甦り、鎮座するように支配した。
「止まんなよ、止まんなヨォ! 瞬きする間に、死んじまうゾぉーー!」
次に幕を敷いたのは、相対する少女の方だった。
一方的を体裁で示すように風に囚われぬほど速く、何もない空間からまるで刃が振り切られているようであった。
五色混同する、感情に沸きった赤い血は全く出ない。
それは私の身体から血という存在が欠けた訳ではない、少女の速すぎる速度に血が連れて行かれている。
言葉にすれば意味を理解するのに困難が身を大成させる、しかし事実として立つ樹をも切り裂く速度はそれを普通のモノであると呈していた。
「お前の思うようにモノを進ませる訳ないだろ、こっちの一撃もくらえぇ!」
白に遍倒した儀仗を空にかざす。
目で捉えることはできないものの、変形機構が手を提して刃先が変わる。
どの武具の型を抱いているか分からない杖を、少女の体へと叩き落とす。
攻撃という前座が過ぎた途端、少女の肌は病的な白色から、熱に妬まれたように赤色に染まった。
薄皮の目頭を立たせながら見つめれば、こちらの肌身が染み染みと疼く。
「それだけじゃぁ、それだけだと……何もなら無いって!」
募らぬ無痛を他所目に、少女は天上を見詰める刃を振るう。
体に備えられた硬直が脈打つ。
そのゼロに等しい合間に足を踏み入れ、回避の札を五体に貼り座した。
「こんな事で……死ぬわけ、ない!」
喉に息を詰まり苦激に悶えながら、少女が握る刀身から放たれる斬撃を避ける。
余波を纏った小さな風が無毛の頬を薙ぎ、返どころの無い恐怖を促す。
「逃さない」
右手に柄を託した刀身を下ろし、鋒は何もない灰色の地面に顔を落とした。
それに向いた意識を叩きのめすように、視界の端……もはや、死角同然である位置に何かを捉えた。
それは紫の妖しい光をこの上ないまでに、異様に明るく示していた。
円に意識を集中させていた視野を、殊を身に冠る紫に向ける。
「コレに当たったら、全身が灰になっちゃうんじゃないかな? それか、臓物やら肉を八方に飛ばしながら死ぬんじゃないかなぁ!」
少女の肉肉しさを感じさせない左手の指先からは、紫色の丸く淵取られた球状の物体が見えた。
それは間違いなく、少女が飽きたらしくなるまで乱射していた、紫を着飾りそめた光球だった。
「……な」
未だ体は上空を滑空し、ただ重力という法則に従い落ちるまで。
あの攻撃を避ける得ることができる算段を、一切も編むことができなかった。
こちらが攻撃を仕掛けるという構想はあるものの、御仁はその程度の”僅かな“瞬間ならば、こちらの四肢を八ツ本に分解することだってできる。
「死んで詫びろよ、後悔に身体を犯されて嘆けよ……私を裏切ったことをぉ!」
少女の叫び声はもはや叫声とは名ばかりの、断末魔であった。
辺り一面の空気が脈打つかのように流れを変え、形を肉付けせずの鉛の枷が身体を支配するように動きが鈍くなった。
其の指先に開かれた紫の光は、喜びに応えるかのように光量を増した。
加速度的に増す光量は、一つの惑星に劣らずの規模だった。
「こっちも精々、できるところまで……やってやるよ!」
虚勢を身震いする声に介して唱えた。
少女は叫びにならない声を聞いた途端、鬱屈一端も感じさせない笑顔を浮かばせた。
それが過ぎるや否や、紫の光球は軌跡を見せぬ道を描き飛来した。
「つ……っ!」
攻撃が直撃し回答を引き出すように、痛みにもならない熱さが身に響いた。
血が渇くという感覚が肉より神経に涙なく貫き、腹を直角九〇度まで仰け反らせるほどだった。
驚嘆を囁くもののそれで仕留められるほど、私の身体もヤワではない。
今の攻撃は身体を致命傷にまで追い詰めた、変えようのない事実ではある。
致命傷の先はただの死、全てが無意味を意味する死。
しかし自動回復機構はまだ呼吸を減らすことなく、活き活きと来るべきその時をいつかと待ち続けている。
原則的に自動回復機構が生きている間、所持者が死ぬことはない。
つまり目の前の少女はあの一撃では、私の視界を逆さまにできない。
私を青冷たい血が巡る、死に追い詰めることができない。
「なら結構、こいつを最後の最後まで……良いように、奴隷のように使い潰してやる」
言葉を薄笑い浮かべながら語った。
儀仗は少女の剣のように、私の言葉に返答を見せることはなかった。
鼾を上げることなど断然なく、ただ口を黙み自らは只の武器であると語っているように見えた。
万象を溶かすツボカズラですら溶かし得ない、厚着な思考を巡らせた。
少女の感情が張り詰めた空気に惑わされぬよう、身の内に形を作る全てを整えた。
呼吸・力み・情緒・心拍、人を人たらしめる四つ巴の器官に癒しを与えた。
虫食い痕もない茶色の棒切れのような、目立つ飾りもない足に、全く人たらしくない力を込める。
筋肉とそれに纏い付く血管が同じくして膨張し、些細と下せるほど小さな痛みが依り憑いた。
「足はいらん、この際一度きり持てばいい。
手も足と同じでいい……」
傷に荒んだ銅鑼のように大きな叫音は響かせない、しかし放った小さな声は最後の戦を想起させるものだった。
厚辛い音は響かせず、勢いよく地面より数十上を保ちながら飛び出した。
少女は狂った笑い顔を崩すことはなく、ただ作り盛った風に駆られる此方の顔を見つめていた。
無敵に笑っている顔が近くに見える。
それを砕いてやろうと言わんばかりに、寒暖持たずの儀仗を強く握る。
儀仗は金属同士を削り合う音を響かせながら、変形機構の可動を喫する。
「そう来るか……なら牙を反り合うこっちは、人海戦術で押し潰そうかね」
過ぎ去るように小声が、耳元で囁きを転がした。
少女の後方には紫色の光球が、視界いっぱいに展開される。
目に入れると肝が冷えるような思いに狩られるが、それを抱く稚微の情緒は遠い昔に捨て去ったような気がする。
今の私ではその程度の攻撃など、神経と骨を噛み合う脊髄も震わせることはできない。
「死ね、老害が」
怨嗟をこれ尽きるというほどまで、詰め込んだセリフを冷たい唾液と共にこぼした。
その途端、紫色の丸ばった矛は鋭角もないツノを宿敵に向けた。
睨むだけでは行動に関門を設けず、瞬時のためらいもなく飛翔した。
一矢、二矢、三矢。
全ては弾道の行く道を崩すことはなく、ただ突っ込んでくるのみ。
当然ながらそれを撃ち迎うこともできない、これをこの世から消し去るには、自らが受け止める以外ない。
なんとも気管が震える喉で、語るには重すぎる理不尽だ。
「遅い、遅い。それじゃ、皮の赤い小鳥を撃ち落とすこともできないぞ」
紫の柄の無い丸槍よりも早く、少女の身体へと接近する。
「死ね、誰にも助けられることなく永遠にな」
剣を差し込むことのできない距離を、少女と保つ。
もはや口内にある舌を延ばせさえすれば、少女のどこかに触れられる距離だ。
しかしワタシが少女に突きつけるのは、大血を孕む舌ではなく、形状を原型を留めぬまでに変えうった杖。
そして、考える間も無く……少女の腹を切りつけた。
「次」
吐息のように短い言葉を放つと同刻に、四肢の一つをつなぐ右肩に刃を挿した。
第60話 終
はいどうも、出雲・ツキです。
今回の話はどうだったでしょうか?
私の稚拙な文章を、最後まで読破してくださりありがとうございます。
では、次回でお会いしましょう!!




