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アナザー・マジック・リベリオン  作者: 出雲・ツキ
一章:星の巫女
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第1話 崩壊の始まり

第一話・プロローグ


またあの夢。

最初は火災が起こっている建物の内部の場面、次はその建物の中で誰かが俺の手を引いてどこかに行く場面、そして最後には違う誰かの最後を看取る場面。

……横では、二番目の場面に出る誰かが泣いている。


"───それでも、これは間違いなく、自身に関わる問題であるのは、朦朧とする夢の中でも理解できた。"




───俺には守るべき人がいなかった。

いや、正確には守ろうとすればするほど、足がすくんで動けなかった。

大切な人が消えていく瞬間を目の当たりにすることに恐怖を抱いてしまう。


だから……誰かに従って生きる人生を歩もうとした。

それはガラス瓶のように、水を入れなければ意味がない、ただのガラクタのように……。



 だがある日の朝に俺の人生は簡単に思いもよらぬ方向に傾いていった、その原因はある一人の少女のせいだった。



開始。



俺の名前は神崎かんざき七星ななせ、実の親から名付けられた名前らしいけど、今現在その親はいない。

黒髪に黒目、少しだけ長い腕と脚……それだけしかない。

特筆すべき特技も個性も生まれてこの方、雀の涙ほども持っていないのだ。

はっきり言って、ただの凡人、このラベルが一番似合っている。


「つまらない」


ネガティブな言葉を口ずさむ。

朝から憂鬱な言葉を発する気力しかない。


俺以外に教室に何人かがいるが、誰とも個人的な会話をしたことは全くない。

そもそも話したことがあるかも、記憶の中には全くと言っていいほど無い、もしあったとしてもほとんどが壊れたビデオテープみたいに断片的なものだろう。


白いカーテンを貫通し、朝の教室を照らす白色の太陽光を見ながら、そのネガティブな事しか言わない口を開いた。


「暑いな、どこか涼しいところにでも移動しようか」


だが声はやはり小さく自身以外に聞こえる者は、全くいないと確信できた。

天井に頭を向け、思考に浸った……だが、何も考えることがないので完全に無意味な行為である。


すると、ほぼ思考停止を起こしている憂鬱な思いを引き起こす脳に、一つの考えがよぎった。


「確か今日風吹いてたよな、天気予報でも少し強い風が吹くって言ってたな」


するとその考えに返答するかのように、白色のカーテンがバサッと……大きな音を奏でた。

次第に風は強くなり、遂にはカーテン自体を数秒間、浮かせる程度には強烈になり果てた。

それぐらいの影響を与える程、大きくなるとクラス中にざわめきが発生した。


クラスの男子と女子が協力して、教室の端に張り巡らされている、150センチほどはある窓を閉め始める。


「そうだ廊下に出るか、多分窓ぐらいなら開けてもいいだろうし……」


だが俺はそんな教室の状態を無視して、椅子から立ち上がりほぼ全ての学校に共通している、小さな正方形状の小窓が取り付けられているスライドドアに向けて歩き始める。


何か言われるかと頭の隅で思っていた、当然何も言われることは全くなかった。

どうやらちょっとの願望も、神は全く叶えてくれないみたいだ。


「おお、本当に風が強いな……そりゃ、何人も動じるワケだ」


廊下へ出るとその風の強さに、少々口を開いてしまった。


廊下には複数人が集まって、楽しく会話をしている真っ最中だった、ざっと2 、3グループは話していたと思う。

もちろん俺はその集団に混ざることはできない。


そんな状況を横目に、風は全く中断することなく吹き続ける。

それほどの勢いがあるのならば、耳には風が起こす風圧(?)膜が張ったような感覚が広がっていた。


「やっぱり、廊下の窓から浴びる風は涼しいなぁ、これは涼しいというよりかどっちかというと寒いに近いかな?」


少しの愚痴をこぼしながら異常に強い風に当たる、風速はとてつもなく、Tシャツが破けるのではないかと……想像させるほどであった。


ほぼ無心で風に当たり続けると 、風に紛れながら小さな音が聞こえてきた 。

その小さな音の正体は 、靴で地面を歩いているということに気付く 、そのとき俺はおかしなことに気づいたのである 。


なぜこんなにも耳と外界を隔てるのど強い風なのに 、この足音だけはその法則を無視して 、俺の耳にはっきり聞こえるのだと 。


「誰か来たのか?」


不思議な感覚に陥りながらも 、雀の涙ほどにまですり減らされた冷静さをほぼ全て消費して言葉を口に出した 。

その言葉を口にしている間も足音は近づいてきており 、とうとうほぼ真後ろまで足音が接近してきた 。

そして 、もうなくなる寸前の冷静さを使用して後ろへと振り向いた。


「あっ」


またもや口から言葉をこぼす 、それには相応の理由があった。

そこには一人の女子生徒が立っていた 、普通なら「なんだそういうことか」で片付けてしまいそうだが 、俺には軽い気持ちで片付けられない。


それには 、ある理由が関係していたのである 。

まあ 、まずその女子生徒について言わなければ意味がないな……。


その女子生徒の名前は有宮 カエデ、簡潔に説明すれば見た目は白髪 、そして一番特徴的なまるで血液と思わせるほど赤い目を有している人物である。


他には非常に高い知能と運動能力を持ちあわせている上に、美少女という欠点という欠点が見つからないスペックを持ち合わせている。


このような見た目をしているのならば 、冷静でられるはずもなく…… 。


「相変わらず可愛いなあ」


そう 、俺は完全に見惚れていたのである 。

周りの景色などまるで見えているはずもなく 、ただただ彼女に釘付けにされる現実が残るだけだった 。


小声で呟くと、彼女がこちらを数秒観察して 、急激に近づいてきた 。

急接近した瞬間 、彼女は口を開いた。


「あの、なにか用でも?」


耳に声が響く 、落ち着くような声 、もし疲れているときに聞けば一瞬で疲れがいえるのではないかと思わせる……説明が下手でこうでしか表現できない 。


全身に電気が走り、心臓がドクッとした、体全体から汗が噴き出た、俺は猛獣に睨まれた小動物のように体が硬直していた。


他人と一対一で話すのは実に数ヶ月ぶりだ 。


「い、いや、特に用は…無いです」


感覚が麻痺したかと思った 、今話してしていることが全て幻想なのではないか 。

今現在 、俺は夢を見ていてこれは全て俺の願望と欲望が作り出した夢なのではないか 。


脳内でこの二つだけが 、脳内を駆け巡った。


「そうですか、ではまた」


切り捨てるかのように俺から離れていく 、それは残酷に冷酷で。

だが、俺の一寸ばかりの願望がここで一つ 、大きな奇跡を起こしたのである 。


「放課後、廊下で待ってて」


彼女から廊下で待てと言われたのである 、彼女の声は確かに小さかったが 、俺の耳はその言葉を全く見過ごすはずがなかったのである 。


その言葉を聞いても 、俺の口からは全く声が出ない。

返答しようと彼女に向けて言葉を発そうとするも 、声という声が全く出てくれない 。


「あ、あの」


やっとの思いで声を出した。

だが俺の声に重なるかのように. 、もう一つの声が響いた 。


「カエデー!」


「ごめんね、じゃあ放課後で」


 本当に彼女が離れだした、そして声がした方向へ向かっていった。

どうやら 、彼女の向かった先にいたのは 、彼女の友人らしい 。


「遅いよカエデ、ほら行くよ」


すると 、彼女の友人らしき女子生徒は彼女の腕を引っ張って何処かへと行ってしまった 。

行くときに 、彼女はこちらを見て 、ウィンクをしてきた 。

それを見て 、俺は一瞬だけ悶絶しそうになった。


「なにがあるんだろう……」


 まさかの告白か……?いやそんなことはない絶対にない、彼女とは話しても用事がある時以外話したことがなかったからだ。


「わけわからないなあ、とりあえず教室もどるか」


 そして、また教室へと歩みだした 。


「みなさーん!席についてください!」


 異様に明るい教師の声が聞こえる、朝からあんな元気に腹から声を出せるなんて俺からは考えきれない。


「ではー、今日も一日頑張っていきましょー!!」


 どんだけテンションがバグってんだ、流石にうるさすぎないか?

 その後授業が終わり、昼休みになった。


「ねえ、君」


 いつものように廊下を出て 、うたた寝に浸っていると自身の横から声が聞こえた 。

そしてまた 、不思議なことにその声はうたた寝して 、ほとんど周りの音が聞こえないのにはっきりと聞こえたのである 。


「え、カエデさん?」


「あの、朝のことだけどC棟に来てくれない?」


 C棟って人があまりいないとこじゃないか?なんでそんなとこで 。

そして 、ますますその予感は不思議と恐怖で塗り固められた道へと進んでいくのであった 。



それから 、数時間が経って学校が終わり 、放課後になった 。


「そろそろかな?」


 朝に約束していた場所についた、そこは普段誰も使わないような場所であった 。

C棟 、誰も使わないのに 、無駄に綺麗にしているのである 。


もちろんこの場所を掃除する人など全くいない 、なのに無駄に綺麗にしている 、学校でも不思議な場所と噂が絶えない……そんあ場所で女の子と待ち合わせしているのである 。


「とりあえず、壁に寄りかかるかあ」


 壁に寄りかかり夕日をバックに手にしていたスマホでSNSを確認する 、当然ニュースが流れてくるが……俺には 、全く理解できないものだったのですぐに閉じた。


「まだかなあ?ちょっと 、トイレに行こうかな」


 トイレに行きたくなったので、すぐそこにあったトイレに向かおうとしたその時だった。


「ごめんね、待たせて」


また耳に響く声が聞こえた 、暖かくこの上ない優しい声が 。


「あ、いや大丈夫ですよ」


 また朝の時のように 、ビクビクと震えながら喉から声を無理やり出した 。

緊張して咳き込みそうにみそうになるが 、無理矢理抑えた 。


「ねえ、私が何しに来たかわかる?」


彼女から質問が飛んできた 。

もちろん 、全く予想していないことが起きたので 、返答するのに非常に困った 。

とりあえず脳内の候補欄に出てきた 、文字をとりあえず彼女に発してみた 。


「えっと、行事の話とか?」


 すると 、彼女は鋭い目つきでこちらの顔を睨んでくる 。

その目を見て 、俺はまた硬直そうになるが 、その恐怖に冷静さを使用して耐えた 。


「じゃあ、相談とか?」


 彼女が先ほどよりも睨み、そして頬をすこしプクッと膨らませる。

目からは少量の涙を流しており 、一歩でもミスをすれば号泣しそうなほど 。

俺は泣かしてしまったことを想定して 、歯をカチカチと鳴らした。


 一か八か言ってみるか?


「まさか、告白ですか」


 その瞬間に彼女の顔が喜びに満ちた、その顔はいつもの彼女からは想像できないほど. 。


「ありがとう七星クン、そうだよ私は入学してから今日までずっと気になってたんだ」


 彼女が俺に対して 、持っていた想いを 、短い文章で語った。


「君ってさ、もう両親いないんでしょ」


「え、なんで知ってるの?」


 友達とかならばわかる話を、なんで他人が知っているんだ?

不思議と恐怖が 、その場の空気を完全に支配した 。


「それはぁ……まあいろいろね?」


 予想だけど彼女は俺が思っているより身分が高いらしい、多分富裕層などに近い身分だのだろうか?

それとも市役所などの関係者か……そんな考察をしていると彼女が話しかけて来る。


「あ、あの、私の告白受け取ってくれる?」


「もちろんだよ、俺も大好きだから」


 彼女は言葉を言った後に顔が赤くなっていた、少し嬉しそうになっていたとも思う。


「七星クン……大好き」


 その時に大好きと言いながら抱きついてきた。

体を一瞬ぐらつかせる 、後方に倒れそうになるが 、後ろの壁が俺を受け止めてくれたのである 。


「え、あちょ」


 こんな体験は初めてだ、同じ年齢かつ学校でも他校でも話題になる美少女に抱きつかれている。


 俺はその時は夢を見ているんじゃないかと思っていた。


「ねえお願いがあるんだけど……」


「なに?言ってみな」


 俺は彼女の言葉を快く承諾した。


「私のものになってくれる?」


 え?私のものになれだと?

いやいや 、どういうことだこれ……よく理解できないんだけど ?


俺は全く理解できずこの感情を直接 、言葉にしたものを彼女に放ったのである 。


「どういうこと?」


「だから、私だけのものになってもらえない?」


 身長が低いので顔を見上げてくる 、正直理性が無くなりそうだった。

理性を無理やり維持して 、彼女の言葉に答えを返した 。


「いやあ、流石に無理かなぁ…」


理性が本能に勝った瞬間だと思った。

すると彼女は抱きつくのをやめて、3メートルくらいの間隔をとる。


 そして口を開ける 、その声は今までの彼女からは 、全く想定できなほど恐怖を纏った声であった 。


「手荒な真似だけど、こうするしかないか」


 彼女はそういうと、指をパチっと鳴らす。


「え」


その瞬間に体に重みがかかる、背中に何かがのしかかってきたかのような感覚に一瞬なった 。


だが 、それはこの後起こることの前触れに過ぎなかった 。


「痛ッ!」


体にかかる重さが強くなった 、同時に俺の体全体を地面へと叩きつける 。


重さはますます増大していき 、背骨が折れるほどの強さまで増大した 。

それだけの重さがかかると 、その痛みも今まで経験したことのないような痛みへとその身を転じた 。

呼吸すら苦痛になるほどの痛みが襲う 、発狂しそうになる程の痛み 。


「カ、エデ、さ、」


四肢が張り裂けそうな痛みにもがき苦しみながら、彼女の名を口にする。


「空気に刺激を与えて、重量を多くするように促したんだけど、七星クン死んじゃうかな?」


 普通のことだと言っているような、目で見つめてくる。

彼女の目には光がなかった 、ただ呆然とこちらを見つめてきていることは理解できる 。


「とりあえず 、死んでもらったら困るから解除」


彼女が指をパチンッと鳴らした 、鳴らした瞬間は全く変化などはなかった 。

 すると数秒間の時を経ると 、痛みが一気に和らいだ、まるで先程のことがなかったかのように。


「あっ…」


 痛みが抑まってすぐなので、若干腰に痛みが残留している 。


「で?どうするの?」


 そんなこと気にする必要はないという顔で見てくる。

そして俺ははぁはぁと乱れた息を整えながら立ち上がる。


 冷静さを取り戻してから、口を開く。


「なんで、カエデさんのものにならないといけないんですか?」


 彼女は先ほどの殺意を消し、俺に理由を語る。


「一言でいえば君の母親に研究された、実験体だからかな」


 母親?実験体?わけの分からないことを言われ脳の処理が追いつかず混乱する。

そもそも……"母親と過ごした記憶が抜け落ちている"。

そう……なんだろうな、文字が羅列している白紙の中に、数十文字分の空白スペースがあるみたいな。

異質すぎて、俺には説明のしようがない。


「私はね、異界魔術アナザー・マジックっていう、すごく特異な魔術を埋め込む実験に参加させられた…いわば被験者ってやつかな」


 彼女は俗世では使わない単語を、日常的に使っているようにすらすらと話す。


「その、異界魔術っていうのはどういうものなの?」


 質問をする、カエデは少しの間を開けて口を開く。


「分かりやすく言うなら、この世界の法則が通じないモノかな」


言っている意味は理解できない、実際なんだ?


この世界の法則が通じないなんて、それは最早人類には計り知れない力を持っているんじゃないのか?


 ……それより先に重要なことがあった、なぜカエデが俺を自分のものにしたがるのかそれを聞いてからにするとしよう。


「じゃあなんで俺を自分のものにしたいんだ」


 理由を聞き、再度聞き直す。


「君があの事件の唯一の生き残りだからかな、とはいっても私が君のことが好きなのもあるけどね♪」


 カエデは少し頬を赤らめて笑顔になる。


 この時のことを正直に言えば、さっきの殺意を出した時とデレた時の変わり様が凄すぎる。


「事件の生き残り?」


 彼女の好意はよく伝わったが、事件というワードが聞こえたので質問してみる。


「あーちょっとねえ君がショックを受ける可能性もあるから、話しにくいんだよね」


 少し苦笑いをするこの顔もかなり可愛い、正直言ってカエデの頬を触りたい。


 あと俺はロリコンではない。


「ショックを受けるほどの話なのか?その事件は」


 気を取り直して言おう、まずショックを受けるということは俺の人生に非常に関わっているということだと思う。


「七星クンが自己責任でというなら、聞かせてやってもいいよ」


 さっきまで苦笑いだった表情は神妙な顔になる、俺が朝まで見ていた表情と同じだった。


「事件の当日、私はいつものように実験に参加させられていた何も変哲もない殺風景で無機質な壁と天井、そして私は毎日飽きるほど繰り返した魔術の行使を研究者たちの指令を聞きながら何百回も繰り返していた、何をしているのか全くわからない私を研究者たちは宝石を見るような輝かしい目で見ていた」


 淡々と語るその日あった出来事を、一文一句言葉で表して聞かせてくる。


「でもその時は来てしまった実験施設に張り巡らされたセキュリティシステムが警報を発したんだ、その実験施設は部外者以外は入れないようなほぼ完全なる閉鎖空間だったから、研究者たちはただの機械の誤作動と考えた、そんなことよりもという感情をあらわにしながら研究者たちは私の実験を続けた、だけどその後に研究棟が爆発した理由は魔力制御が出来ずに暴走してしまったらしい」


 話を聞いていく内にこの世界の真実に辿り着きそうな予感がしてきた。実験施設は鳥かごのような場所だった、ということ。


そしてカエデは…推測だが、かなり非道な実験に付き合わされていたと。


「その実験施設に、俺の出生とかに関わっていたものがあるのか」


「もちろんあるよ?だってその実験施設に君もいたからね、とはいっても君が実験に直接関わったことはないよ」


 ちょっと待て今聞き捨てならない事を聞いたぞ、俺もその実験施設にいたということか?


「ちょっと待ってなんで、俺が実験施設にいたって知ってるの?」 


 だってカエデは、ほぼ毎日同じ部屋に拘束されていたと仮定したら俺に会う機会なんてないと思っているのだが。


「知っている理由?」


 カエデは少し笑みを浮かべると、すぐに口を開き理由を語ってくれた。


「それは君の両親に合ったことがあるからだよ」


 俺の両親に会ったことがあるだって?


 じゃあ何故覚えていないのだろうか?


 普通なら覚えていてもいいはずなのにな 。


「まあ、七星クンもう遅いだろうし…学校でようか」


 すっかり忘れていた。とりあえずスマホを確認する、そして画面上に映し出されたのは16:47という数字だった。


「ああー…確かに遅いから出ようか」


 その瞬間カエデが手を繋いできた、心臓の心拍が急激に上がった。


「ねえもう私たち恋人関係だし一緒に帰ろ」


 脳が今の状況を己の処理能力の限界まで利用して処理している。


「え、あ、ちょっと」


 焦って手を離してしまう。


「え?」


 カエデは疑問を浮かべた顔になる。


「いやまだそんな関係は、まだ早いと思う…」


 だがカエデは怒りを覚えることはなく、また不敵な笑みを浮かべる。


「そんなこといいから、一緒に帰ろ!」


 そして俺の手を強く握り、無理やり手を引っ張る。

その力の強さに俺は耐えることができずに 、一瞬だけ動じてしまった 。


「力強ッ!」


 思わず口に出してしまう、いやだって本当に力強いんだから。


「こう見えて私力強いんだよ」


 体の大きさに合わないくらいの力を平然と出しているので、異常だとこの時点で察した。


「はあ、はあ、はあ」


 その後彼女の足の速さが速すぎたため、絶賛体力の限界を迎えたのでした。


「大丈夫?」


 ははは、当人から話しかけられる神崎でしたとさ…


「いや大丈夫…少し休憩したら」


 とはいっても隠しきれていないのが現実である。


「じゃあこうしようか」


 すると唐突に俺に対して、お姫様抱っこをしだしたのだ。


「これならすぐに帰れるよね」


 そして走り出す。軽く自動車と同じと思わせるような速度で走る。


「えええええ!?」


 規格外の速度を見てしまった俺は、何回も半分意識が遠のきそうになった。


「大丈夫、落ちたりしないから。最悪でも七星クンが死ぬことはないよ……あと、これからよろしくね!君は私の█だから」


 涼しい顔でいう彼女を見ながら、俺の意識は完全に暗闇に落ちた。

そして 、彼女が何かを呟いているのが 、意識を失う直前に見えた気がする 。

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