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逃がし屋  作者: エマ
7/12

5.5歩



(あやっべそろそろ死ぬ )


 左目の義眼。

 そこから伸びるなにかの管が、ゴリゴリと頭骨を削りはじめた。


『いま忠誠を誓いなおすのなら命は保証しよう。さきも言ったが、貴様が死ぬのはどんな兵器を失うよりも損害だ 』


 義眼から聞こえる男の声に、もう一度だけ中指を立て。


「ハッ……ごめんだね 」


『ならば死ぬがいい 』


「それも……どうかな? 」


『なに? 』


「隊長!!! 」


 雨の向こうから、誰かが駆け込んできた。

 それは左腕だけに赤い義手をつけた……『人刈』だった。


「よぉ、やっぱ生きてたか 」


「舌噛まないでくださいよ!! 」


 伸ばされた左腕。

 それは左目をえぐり、そのまま義眼を引っ張りだした。


「っううう!!! ……ナイスだ『人刈』、助かったぜ 」


『貴様死んだはずでは!? 生体反応は消えていた!!! 』


「あぁあれですか、『逃がし屋』が細工してくれてたんですよ。心臓横の発信機にカバーを撃ち込んで、鼓動音を聞こえなくするって感じで 」


「あっははは!! さすが俺の親友だな、抜け目ねぇ 」


 服の布切れで左目をおさえ、落ちているアイツのナイフをつかむ。

 瞬間、体の中からなにかの起動音がした。


『いい気になるなよ? 体内の爆弾を強制起動させ」


「ふっ!! 」


 すぐさまナイフを突き刺し、腹に埋め込まれた爆弾の配線を切る。


「いっっっっで!! ……あぁわりぃ、配線切ったからそれは無理だな 」


『…………っううう!!!! 貴様らは必ず殺す!!! 裏切りは許さんぞ!!! 手始めにあのガキを」


「あぁ、それも無理だな。なぁ人刈……いや『まゆ』、俺の武器拾ってきてくれねぇか? 」


「来る途中に見つけたので、拾っておきました。でもこれでなにを……まさか!! 」


「あぁ、部下を助けてもらった礼だ 」


 まゆから手渡された剣をライフルに切り変え、銃身を空へ向ける。


『なにを』


「狙撃場所はだいたい太陽を背にできる場所だ。そしてあの地形じゃ待ち伏せできないから、家中からの狙撃はない。だから西倉庫の屋上……ってのがマニュアルの考えだな 」


『リミッター解除を確認、8秒後にオーバーヒートします 』


「まぁ敵国の少女を暗殺するんだ、コソコソする必要はねぇ。だったらもっと単純な場所……街でいちばん高い時計塔だな 」


 ライフルを放ち、目を閉じる。


 弾はあがり……あがり……雲を突きぬけ……落下をはじめる。

 そのまま落ちて……落ちて……街中にはいり、時計塔の屋上を………………


「命中。これで暗殺は無理だな 」


『そんな子供だましが通用するとでも!? 義眼がない貴様など、ただのスナイパーどうぜ…………おい、なぜ生体反応が消えている? ……おい!!! なにがあった!! 報告しろ!!!! 』


「まぁお前の敗因は、武器に自爆装置を付けなかったことだな。まぁ人の変わりはいても、この武器の変わりはねぇから当然か 」


『きさ』


「まゆ、もう壊していいぞ 」


「はい 」


 まゆの左腕が義眼を握りつぶす。

 するとあのウザイ声は聞こえなくなった。


「…………はぁぁぁ、一件落着だな〜 」


「大丈夫ですか隊長? 」


「あいつから足を折られたけど死にはしねぇ、大丈夫だ 」


 瓦礫の枕にゆっくりと体を預けると、まゆが左目にガーゼを当ててくれた。


「隊長……どうして『逃がし屋』は私を殺さず、なんなら守ってくれたんですかね? 」


「理由なんてねぇよ。アイツは救えるものは片っ端から救う、ただの善人だからな……だから救えなかったのは自分の責任だって、なんでも背負っちまう 」


「だからあの時…… 」


「まぁあいつは大丈夫だろうな 」


 なんとなくだがそう思う。

 もう、あいつが死ぬことは無いだろう。


「……ん? 」


 雨の中から大量の足音がした。

 瞬間、三つの人影がビルに入ってきた。


「「「隊長!!! 」」」


「ん、お前ら 」


 それは、カイリとルイス……そしてリゲルだった。

 それに驚く間もなく、まゆはカイリの顔面を鷲掴みにした。


「いでででで!!!! 」


「無茶させるなって言ったよね? なんでここに隊長がいるの? 」


「いやしょうがねぇじゃん!! 止めようとしたけどボロ負けしたんだよ!!!! 」


「あぁうん……あれは止められねぇわ。すまん 」


「隊長〜〜!!! めちゃくちゃ心配したっすよほんと!!! 」


「なぁリゲル〜、足折れてんだ。あんま触られると痛い 」


「あっ、すみません!!! 」


 いつものような空気が心地いい。

 そんな事を思ってると、さらに人影が入ってきた。

 それは……見覚えのある、隊員たちだった。


「お前らまで……前線は? 」


「放棄してきました!! 戦争より! 隊長の命の方が大事なので!!!! ……皆おなじ思いです 」


 ただの短い言葉だった。

 それなのに……残った右目からはじわじわと涙が滲んできた。


「あーほんと……俺はいい部下たちを持ったな 」


 右目をおさえ、まゆに寄りかかりながら立ち上がる。


「お前ら……これは勘だが、もうすぐ戦争は終わる。だからこれが最後の命令になる 」


「「「「………… 」」」」


「無事に家へ帰れ、そして今までの遅れを取り戻すように……自分の居場所を見つけろ。お前らの隊長になれて、俺は幸せだったぜ 」


「「「「「了解!!!!! 」」」」」


 最後の命令を終え、ただ目を閉じる。


(ロキ……お前も自分の居場所を見つけろ。無責任だけど……やっぱお前には生きてて欲しいわ )


 遠い場所にいる親友へ、声をかける。

 返事はないが……なぜだか大丈夫な気がした。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] うそでしょ!!全員生きてるんですけど!!めちゃくちゃ裏切られた!!(タダの早とちり ……みんないきててよかったです!!ありがとうございます!!
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