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逃がし屋  作者: エマ
3/12

3歩目



「えっ、ほんとにやるんですか『人刈』さん!!? 」


「うん、はやくして 」


 嫌がるリゲルを捕まえ、戦車を無理やり操縦させている中、さっきもぎ取った装甲を四枚重ね、主砲に括り付ける。


「いや無茶ですって!! 主砲の衝撃で飛ぶとか無理でしょ!!? 」


「『逃がし屋』はミサイルの衝撃で飛んでたから私も行ける……たぶん 」


「いや戦車の射程って3キロ程度ですよ!? ここからじゃ防衛ラインまで届きませんって!! 」


「それは有効射程距離の話。飛ばすのは砲弾じゃなくて人だし、たぶん行ける 」


「着地は!? 」


「刀の逆噴射と義手でなんとかする。たぶん大丈夫 」


「さっきから多分ばっかですねぇ!! 」


 うるさいリゲルを無視して主砲の先端に乗る。

 するとガコンと戦車は動きはじめた。


「お願いですから、私を味方殺しにさせないでくださいよ!!? 」


「そう言うのいいから、はやくやって 」


「ほんとあなたは言い始めたら聞きませんね!! じゃあもう発射します!!! 3……2……1……発射(ファイア)!!!! 」


 頭が砕けたかと思うほどの爆音。

 ふと気がつくと、空を飛んでいた。


(…………あっ、気絶してた )


 空を飛ぶのは気持ちいいものだと思ってたけど、普通に目が乾いて気持ち悪い。

 あと髪も乱れるし、口開けたら凄いことになるし、想像よりくつろげない。


(あれが防衛ライン? )


 下を見れば、もう人と兵器の群れを見つけた。

 その兵器たちは黒い煙をあげ、怪我人らしきものも少しだけ見える。

 ほんとうに防衛ラインは突破されてるようだ。


(なら時間と距離的に……あれかな? )


義欠の体(フォルセダー)の接続を確認、起動します 』


 機刀を握りこみ、空飛ぶ装甲から飛び降りる。

 足がバタバタと揺れる中、刀の斬撃を空へ飛ばし、勢いを緩和する。

 さらに体を回転させて刀を地面に突き刺し、その上に乗って無理やり勢いを殺す。


「……意外に簡単だね 」


 あれだけの衝撃で壊れない義手と刀。

 そのおかげで、無傷で巨大な崖下に着地できた。


「ねぇ、出てこないなら崖ごと刻むよ? 」


 機刀を崖に向けてそう訪ねてみる。

 すると崖の壁が剥がれ落ち、その小さな洞窟から赤足の男が出てきた。


「おやおや〜? なんでここに居るって分かったんです? 」


「資料で『逃がし屋』は人を殺さないってあった。その方が仲間の治療に時間をさけるから。だからそう遠くじゃなく、人員を割けない場所を探しただけ 」


「いやいや、普通は遠くに逃げるでしょ 」


「そっちが背負ってるのはなんの訓練も受けてない一般人、逃がし屋はメンタルケアもするらしいから、激戦のあとは近場で休憩させると思った。そして基地で盗まれたものの中に、岩山用の迷彩テントがある。それで確定 」


「……じゃあなぜここが? 崖は広いじゃないですか 」


「勘 」


「…………はぁぁぁぁ、理責めより勘でゴリ押される方がめんどいんっすよぉぉぉ 」


 逃がし屋は……ロキは心底嫌そうにため息を吐いた。

 けれど急に気持ち悪い笑みを浮かべると、おちゃらけたような雰囲気を(かも)しだした。


「で? 殺さないんです? 」


「……聞きたいことがあるの。なんで命懸けで救った上官を全員殺したの? 」


「……アイツらが死ぬべきだと思ったからですよ 」


「死ぬべき? 」


 突拍子もなく出てきた言葉。

 それに首を傾げると、ロキは空を見上げ、物悲しそうな目をした。


「例えばあなた、人を草刈りのように殺すから『人刈』というコードネームが着きましたよね? 」


「……だから? 」


「もし仮に、命懸けで守った仲間が間違いで、今まで殺してきた人たちが正しかったら……どう思います? 」


 その言葉を聞いた瞬間、ぶわっと視界が開けたような感覚が広がった。


 考えなかった。

 考えたくもなかった言葉。

 それが頭にはびこり、胸にズキリとした痛みが走る。


「なーんてね。若いですね〜、こんな嘘っぱちな話に動揺するなんて 」

 

「……はっ? 」


「単純に気に入らないから殺しただけですよ〜 」


 さっきまでの感情が裏返っていく。

 動揺は怒りに、同情は殺意に。


「気に入らないから? ……ただそれだけの理由で、辺境でも虐殺を起こしたの? 」


「えぇ、そうですけど? 」


 ブチリと、頭の中で何かがちぎれた。

 すぐさま突っ込むが、奴はニタリと歯を見せて笑った。


「逃げる判断を常に持て。そうラクから教わりませんでした? 」


 ロキは左腕を引くと、ピンッと何かが外れる音がした。

 瞬間、崖上から爆音がひびき、瓦礫が空から降ってくる。


(爆弾!? )


「じゃあ失礼しますね〜 」


「っ!! 待て!!! 」


 洞窟の奥へ逃げるロキ。

 それを追おうと踏み込むと、ロキは振り返り、瓦礫を蹴り飛ばしてきた。

 

「ふっ!! 」


 左腕でそれを殴り壊すが、割れた岩の裏から人の気配がした。

 とっさに振り向き、飛んでくる義足の蹴りを刀で受け止める。


「……逃げるんじゃなかったの? 」


「気が変わりましてね〜、あなたはここで無力化します 」


「私も気が変わった、お前はここで殺す 」


 腕力でロキを吹き飛ばし、降りそそぐ瓦礫を躱す。

 すると瓦礫の影から何かが放り投げられた。


(っ……手榴弾!? )


 爆発する前に斬撃でそれを斬る。

 だがその一瞬で、赤い義足が横腹をえぐった。


「っ゛!! 」


 怯んだ一瞬の隙に、辺りには黒いワイヤーが張り巡らされる。


『モード変更 【乱雨】 』


 柄のボタンで切り替え、不規則な斬撃を前にとばす。

 それはワイヤーや瓦礫をすべて切り落としたが、ロキはそれをすらも当たり前のように躱し、左腕で糸を引いた。


「ボンッ 」


「っ!? 」


 突如として落ちた瓦礫が爆発し、その破片がこちらに飛んでくる。


(瓦礫に隠れた隙に……爆弾を!! )


「っ゛う!!! 」


 両腕で体を守った隙に、さらなる蹴りが腹に入った。

 さっきと同じ、左の脇腹に。


「しぶと〜!! 普通なら内蔵逝かれてるんですけどねぇ!!! 」


「ゲホッ、鍛えてるからね 」


 互いに距離を取って睨み合う。

 この射程なら私が有利なはずなのに、状況は圧倒的にロキの方が有利。


(あの足がここまで厄介だとはね…… )


 足がはやい。

 そう聞いてイメージしたのは、弾丸を躱せたり逃亡しやすいだけかと思っていた。


 けれど一瞬でも隙ができれば一撃を叩き込んでくるし、その隙にさらなるトラップを仕掛けてくる。

 一対一だからいいものの、大軍だったら何が起こったか分からずに殺されている。


「で、勝てる見込みはありますか? ないなら自殺することをオススメしますよ〜 」


「……正直舐めてた、それは謝る 」


『リミッター解除を確認、98秒後にオーバーヒートします 』


 義手のサポート音声が流れると、青い光がヒビのように走り、腕周りに陽炎がゆれ始めた。


「だからお前は……全力で殺す 」


 義手のリミッターを外せば一週間はろくに動かなくなる。

 その間は前線には出れないけど、コイツを殺すにはこのくらいが丁度いい。

 

「……ズルいですねぇ、自分だけ全力を出すなんて 」


 無音だけがひびく静かで緊迫した空気。

 ただその中で、ロキは引きつった笑みを浮かべた。


「という訳で、逃げます!!! 」


 そして森の中へと走り去っていった。

 だが


(機刀戦術……人凪!! )


「ちょ!? 」


 横への一閃。

 それによって生まれた斬撃は、森を根こそぎ切り倒した。


「あぶね〜なっ!!? 」


 刀の推進力でかがみ込むロキへと接近する。

 振り下ろしの一撃は横に飛んで躱され、その手からは無数の手榴弾がばら撒かれる。


(月輪 )


 リミッターを外した義手を加速させ、細かな斬撃で爆発前にすべての手榴弾を壊す。


「っ!? 」


 飛んでいった斬撃はすべて曲がり、ロキの背をおそう。

 その攻撃さえも紙一重で躱されるが、その動きは読みやすい。


(月喰(つきぐい)!! )


「うおっ!!? 」


 刀の推進力に、全身の力を乗せた一撃。

 それをロキは左足で受けたが、その機械の足はピシリと悲鳴をあげた。


 ボールのように吹き飛ぶロキ。

 その体をさらに追いかけるが、その左手からはキラキラと光る細かいものが撒かれた。


(なにアレ……づ!!? )


 それが左目に入った瞬間、足が止まるほどの激痛がはしる。

 咄嗟に目を閉じて後ろに引くが、死角となった左側から何かが踏み込む音がした。


(……来た )


 戦って分かったことがある。

 ロキは私の隙を突くようにしか攻撃してこない。

 腕力じゃ絶対に勝てないから。

 けれど逆をいえば……隙ができた時には、接近してくるということ。


『モード変更 【星風(リュース)】 』


「べっ!? 」


 接近のタイミングに合わせて刀を加速させると、その刃はロキの左腕を肩から切り落とした。


 体の一部分がないから、私たちは常人よりはやく失血死する。

 後は時間を稼ぐだけで


「このまま行けば勝てる……とでも思ってますか? 」


「っ!? 」


 ロキはニタリと笑うと、左肩を大きく引いた。

 すると宙を舞う左腕が爆発し、その骨片が体に突き刺さった。


(腕の中に……手榴弾を!? )


「いや〜、動かなくなった物は使い捨てるに限りますねぇ 」


 腕を犠牲に作りだした確実な隙。

 即座に次の一撃を警戒する……が、ロキは尻もちをついたまま動かない。


「っ!? っ!!?! 」


 ロキはニタリと笑う。

 するとこちらに人差し指を伸ばした。


「若いですね〜、焦りすぎ 」


 瞬間、その指先が爆ぜ、空を斬る弾丸が右腕の義手を砕いた。


(指を改造して!? というかただの弾丸がなんで!? )


 困惑の最中、昨日ロキから盗まれたものを思い出した。


(まさかこれ……隊長のライフル弾!!? )


「これで自分の勝」


 義手とともに、あの刀すらも地面に落ちた。

 それでも前に踏み込み、残る左腕でロキの顔面を殴りつける。


「っぶ…… 」


(このまま殴り殺)


義欠の体(フォルセダー)の接続を確認、起動します 』


 もう一撃を打ち込もうとした瞬間、足元から刀のサポート音声が聞こえた。

 そこには私の刀と……それをつかむ、赤い義足があった。


「しまっ」


 気がついた時には一瞬遅く、足で振られた刀は義手の接続部位を絶った。


「ダメじゃないですか〜、強い武器を敵が使えるようにしてちゃあ 」


「ッグ!!!! 」


 鈍い一撃がみぞおちに入り、濃ゆい胃酸が喉奥からこみ上げる。


 両腕の義手が壊れた。

 刀は奪われた。

 もう戦えない。

 それでもロキを睨みつける。


「……最初から、これが狙い? 」


「えぇ。こっちは足を壊すわけにはいきませんし、無力化するならこれが一番です 」


「っ……なんでお前は人を殺す!!! それだけの強さが!! 頭脳があれば!! 多くの味方を助けられるだろう!!! 」


 我慢できない怒りをぶちまける。

 するとどうしてか、ロキは悲しそうに自分の足を撫でた。


「……はぁ。人を助けても戦争は終わりませんよ? 」


「……? 」


「自分もですね……誰かを救いたかった、助けたかった。だからあなたと同じように、自らの足を切り落とした。でもですねぇ、何人救ったところで平和になりませんよ。だって救えた人より死ぬ人数の方が多いんですもん 」


「だから大虐殺を起こすのか!? そんなのふざげ」


 顔を蹴りあげられた。

 濃ゆい鉄の味が口にあふれ、頭がグラグラと揺れている。


 倒れて動けない中、ロキから馬乗りにされ、左胸に銃口を突きつけられた。

 瞬間、死の冷たさが胸の奥に突き刺さった。


(……隊長、約束を守れなくてすみません )


 そんな小さな後悔は、発砲音にかき消された。



ーーーーー



「あの! 大丈夫ですか!!? 」


「えぇ! ぜんぜん大丈夫ですよ!! そちらは大丈夫ですか、リューべ? 」


 森の中から帰ってきたロキ。

 それに慌てて駆け寄ると、ロキの左腕と右の人差し指がないことに気がついた。


「腕が……指も!! 」


「お気になさらず〜! ラクからの一撃でろくに動きませんでしたから!! いや〜むしろ腕一本、指一本で『人刈』を無力化できたのはラッキーですよ 」


 ケラケラと笑うロキは一歩こちらに近づいてきた。

 それに肩が震え、一歩後ろに下がってしまう。


「……どうかしましたか? ボロボロで傷だらけは生理的に無理とかです? 」


「いえ……その……私って耳がいいんです 」


「……? 」


「だからその……聞こえてしまって……辺境での虐殺ってなんですか? 」


 そう聞いているのに、ロキはずっと笑っている。

 

「辺境ってたくさんあるじゃないですか〜。そんなに気にしなくていいですよぉ 」


「そうなんですけど……あの…… 」


 生暖かい風に背を舐められるような、鼓膜に心臓が貼りつくような、そんな嫌な予感。

 それがずっと続いている。


「…………こんなこと、言いたくないですけど。私の故郷は滅びたんですか? それで、えっと……あの村の人たちは死ん」


「あの村の連中、全員自分が殺しましたよ 」


 その言葉とともにハッと顔をあげる。

 するといつものような、ロキのケラケラとした笑みが見えた。


 


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― 新着の感想 ―
[一言] 主砲の衝撃で飛ぶとかこういうの本当好き 何もかもガバガバなのがとても良い お互い良い感じのキャラでさてどう物語が転がっていくか…
[良い点] いくら助けても戦争は終わらない。ほんとそうですね。
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