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 「わ、ありがとう。ご飯奢ってもらったからここは出そうと思ったのに」

 「気にしないで。一緒に飲めるだけでこっちはお金を貰ってる気分だ」

 「ゼインはスマートな大人だね、憧れるなあ」

 「それではお手をどうぞ」


 スマートなエスコートをついでにゼインは祥雲の手をとり入口の小さな段差を跨いだ。


 「はは、ジェントルマンだ」

 

 祥雲は機嫌良く重ねた手をきゅっと握り大きく笑った。

 夜も深まりつつある時間、道が混むことはなく10分もせずゼインの住むアパートメントまでたどり着いた。

 ハドソン川に面したその建物はいかにも高級住宅区域といった風貌で、およそ30から40階建ての全面ガラス張りのビルが数棟立ち並んでいる。周囲は歩道が整備されていて、ベンチが置かれた遊歩道やちょっとした公園は草木が美しく飾られ、柔らかいオレンジ色でライトアップされている。ガラスで統一されたビル群は鏡のように反射し、川に映る青い都会の煌めきとオレンジ色が混ざり幻想的なオブジェクトのように思える。

 キャブから降り祥雲はゼインに手を引かれたままゆったりと遊歩道の後を続く。


 「すごい、本当に美術館みたいだ」

 「本当にとは?」

 「この前ノアやソフィアと話したときに聞いたんだ。ゼインの住んでるアパートメントはもはや美術館よって」

 「あの二人と話したのか…」

 「社内で会った人とは大体話しをするなあ。何かまずかった?」

 「…いや。彼とも彼女とも、もう何もないから安心してくれ」

 「ん、そう?」

 「ああ」


 ノアとソフィアはゼインには珍しい同僚の前恋人たちだ。顔がいいだけにゼインのことを知らない人物は会社の中で一人もいない。そのため色恋沙汰で面倒を起こしたくないと考えたゼインは、基本同僚と付き合うことをよしとしなかった。そんな基準の中でも珍しく彼のお眼鏡にかなったのがこの二人の人物だった。が、結局二人ともゼインと長くは続かず早々に別れてしまった。構われすぎる事を嫌うゼインと恋人には尽くすタイプの2人。友人関係の時に居心地が良かっただけに、ゼインとしては勿体なく感じた。それ以降やはりゼインは社内恋愛することなく、外で恋人を作っては別れを繰り返していた。


 広々としたロビーにはコンシェルジュが常駐しているが、夜の時間はバックヤードで控えている。必要な時に呼び出すと出てくるようだ。そのため人目につくことなく二人は手を繋いだままエレベータへと進むことができた。

 ゼインはエレベーターに入り目的階のボタンを押すと、繋いでいた祥雲の手を軽く自分の方へ引きそのまま肩へ腕を回した。

 身長差があるから祥雲の顔はちょうどゼインの肩口にあり、すっぽり片腕の中に収まってしまい、そのフィット感に思わずゼインは祥雲の耳元にキスをした。


 「ん、びっくりした。どうしたの?」

 「ショウが可愛くてつい。嫌だったか?」

 「ううん、大丈夫」

 「そう、良かった」


 本当に「びっくりした」だけの反応に、祥雲は恋愛ごとに鈍いのかもしれないと考えつつゼインはさらに体を寄せた。

 28階に到着しそのまま廊下を歩く。祥雲は相変わらず肩を抱かれされるがままに歩いている。


 「最上階に住んでるのかと思った」

 「この階が一番川の眺めが綺麗なんだ」

 「へー」


 静かに会話を続けながら角部屋のドアを開け中へ招き入れる。


 「どうぞ。靴は脱いでね」

 「うん、ありがとう」


 中に入ると部屋は白で統一されたラグジュアリーな空間が広がっていた。窓にはブラインドがあるが、人目が気になる場所ではないため全て開け放たれていて、目の前には視界を遮るものが無く、水に揺らめく夜景が美しく瞬いている。おしゃれな絵画が飾られた廊下を抜けるとリビングルームとキッチンがあり、アイランド型の作業台にはハイチェアが二脚、夜景の広がるリビングにはホワイトレザーのソファにローテーブル、画面の大きなTVが置かれている。祥雲はそのまま間接照明だけが点いた部屋のソファの方へと誘われジャケットをゼインに預けてゆったりと座った。


 「すごく良い眺めだね」

 「ああ。職場からは少し遠いかもしれないがこの景色に一目惚れしてな」

 「良い部屋を選んだね。それにしてもすごいコレクションだね。お店開けるんじゃない?」


 祥雲は顔をキッチンの方へ向けると、ずらりと並んだワインセラーに目をやる。

 最初は嗜む程度だったワインはいつの間にかゼインの趣味となっていた。祥雲が興味を持ってくれたのをいいことに、ゼインはグラスをいくつか取り出しとっておきのワインを開けた。


 「趣味でな。珍しいものも多いから試飲してみるといい」

 「やった。…こうやって見ると色も全然違うんだね」

 「乾杯しよう。こっちは軽いが芳醇な香りで舌触りも良い」

 「…ん。本当だ。初めてだこんなに濃いのに軽いの。美味しい」

 

 「これが好きならこれを」とゼインは祥雲のペースを見ながら一口づつ進めてやる。

 飲み進めている間も腕を回し柔らかい黒髪を撫でていたゼインだが、チェイサーを口にして眠そうな様子を見て祥雲にシャワーを浴びるか問う。

 安心して眠る祥雲を眺めるのもいいが、起きている元気があるのならもう少し、ゼインに向ける笑顔を愛でていたかった。


 「家主より先には入れないよ。ゼインの後に入る」

 「わかった。TV好きに見ていてくれ。サブスクリプションも入っているから映画も豊富だ」

 「ありがとう」


 立ち上がりそっと祥雲の頭を撫でたゼインの後ろ姿をボーと眺めてから、祥雲は水を飲みながら映画を漁った。

 

 そう長くない時間が経ちバスローブ姿のゼインが帰ってきた。ダークグレーのバスローブから覗く白い肌は薄くピンクに染まり、クセのある赤毛からは水滴がポタポタと流れてきている。ゼインはそれを首にかけていた真っ白なバスタオルでガシガシと乱雑に拭いながら祥雲に近づいた。

 

 「何見てたんだ」


 祥雲の頭にリップ音をさせ軽くキスをしてから問うと、「気になってたミステリー映画」と画面から目を逸らさずに答えた。

 

 「バスルームにタオルとバスローブは置いてあるから、入っておいで」


 ゼインが優しく頭を撫でるのをそのままに、今度はその男の瞳をじっと逸らさず見つめる祥雲。

 

 「ショウ?」

 「うん、シャワーいってくるね」


 祥雲は酔った様子は無く、軽い足取りでバスルームへと向かった。

 ーーーさっきのは何だったんだろうか。

 祥雲はどこか掴みどころがないような、目を話せばすぐにどこかへ飛んでいってしまいそうな人物に感じる。

 

 シャワーが流れる音を聞きながらゼインはワイングラスを片付け、しばらく使っていなかったサービスルームを少し窓を開けて換気をした。キッチンに戻りロックグラスに氷を落とし、ウェイスキーを片手に今度は自分のベッドルームへ移動した。

 ベッドヘッドへ体を預けウェイスキー片手に本を読み耽っているとぱたぱたとスリッパを引っ掛けながら歩く足音が近づいてきた。気づけば随分時間が経っていたようだ。


 「シャワーありがとう」

 

 開けたままにしていたベッドルームの扉から覗くようにこちらを見つめてきたのは、シャワーオイルのいい香りに包まれ、濡れた髪がさらにその顔を幼く見せた青年だった。無垢な表情が余計に色香を際立たせているのか、ゼインにはたまらない光景だった。


 「ああ。サービスルームは玄関のすぐ横にあるドアの先だ。換気をしているから寒かったらヒーターをつけてくれ」


 部屋まできちんと案内するべきだったが、ゼインにはそんな余裕はなかった。今ここで祥雲に近づいてしまえば確実に理性が保てなくなる。そう判断した男はベッドから体を動かすこと無く、みょうに早口で祥雲に説明した。


 「うん」


 何に対しての返事だったのか、祥雲はそのままゼインの寝室に足を踏み入れた。


 「ショウ?どうした、何か足りないものがあったか?」

 「ううん」


 焦るゼインをよそに、言葉少なに返事を返す祥雲。その足は迷うことなくゼインの元へと向かっている。1歩、1歩、ゆっくりとまるで男を煽るように近づいていく。

 ついにベッドサイドまで来た祥雲は立ち止まり、バスローブの腰紐を緩め、肩からするりとそれを脱いだ。


 「っショウ…」


 祥雲は下着も何も身につけてはいなかった。

 肌けた青年の体は年相応に引き締まっていて、ベッドルームの小さな間接照明が照らす肌はよく手入れされている陶器のように艶やかで手を伸ばさずにはいられない魅力だった。

 祥雲はサイドテーブルにおかれたウィスキーのグラスを手に取りそっと自分の口に含む。そのまま片膝をついてベッドに乗り上げ、ゼインの口に流し込んだ。


「ゼインは、こういう気があると思ってたんだけど」


 ウィスキーの香りが鼻に広がるより前に限界まで煽られた男はついに理性を焼き始め、勢いのまま祥雲をベッドに押し倒した。


 「ああ、クソ、かわいいな...ショウ......」

 「ぅんっ、ん」


 ゼインは決して祥雲を傷つけないように、激しい口付けとは裏腹にゆっくり丁寧に愛撫し始めた。

 耳に裏をなぞり、首筋、胸、腰をゆっくりと撫でまわし、そのまま後ろの蕾へと手を当てがう。


 「ぁっ...」

 

 期待からか祥雲は後ろをひくりと動かし、腰を捩った。そのままゼインは指をそっと中へ押し込むと、驚くほど滑らかに入っていった。


 「ショウ、もしかして解してきたのか」

 「ん?うん...ぁ」


 ゼインは己の理性を保つことなどこれっぽっちも頭になく、すでに焼き切れた思考でひたすらに祥雲を責め立てた。

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