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「あ、ゼインおはよう。今日も男前だね」
カメラ機器を抱えてエレベータに乗り込んできた祥雲は、相変わらず人好きのする眩しい笑顔でゼインに話しかけた。
「っおはよう、ショウ」
男前だなんて、人生で最も言われ慣れた言葉であり最早ゼインにとって口説き文句にすらならない単語であったのだが、突然祥雲にそんなことを言われ困惑と嬉しさとで反応するのが遅れてしまった。
「もしかして嫌だった?ゼインの同期の皆さんがそう挨拶するのが日課だって聞いたんだけど…不快にさせたらごめん」
「いや、そんなことはない。嬉しいよ。ショウはいつも元気が絶えなくてこっちまで元気になる」
「はは、どうも。そうだ、今夜空いてる?ずっと行けてなかったディナーに行かない?」
「もちろんだ。嬉しいなショウから誘ってくれるなんて。店はこっちで選んでもいいか?」
「ドレスコードがないところならどこでも」
「了解した。今日は何時に終わるんだ?」
「もうモデルお二人の撮影は終わったからね。あとは設備とかそういった簡単な撮影だけだから午前中には終わる予定。午後は編集部で作業するから僕がこっちまで戻ってくるよ」
「ああ、もうショウと仕事を共有できる時間がないから退屈だ。そう言うことなら定時ぴったりにビルの下にいられるよう仕事を片付けておこう」
「じゃあまたね」
「楽しみにしてる」
颯爽とエレベーターを降りていく祥雲の姿を目に焼き付けながら、閉まったドアの先を見つめ続ける。側から見ればゼインのその顔はキラキラと輝いて先を見据える頼もしい表情に思えるが、実際のところ「男前」のあたりから困惑状態が続いていた。
ーーー俺は相手にされないほど好みの男じゃなかったはずだ。それに今までの挨拶の中で一度も、
「男前だなんて…」
今日は朝から晩まで良いことづくしで仕事が捗りそうだ。そんなことを思いながらスマートフォンを取り出し行きつけのレストランを予約した。