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みつけてごらん

作者: 井川林檎

 特養に勤めていると、利用者から思いがけない話を聞くことがある。


**


 その夜は静かだった。

 しかし零時を回った頃、足音が近づいてきた。ショート利用のKさんだ。

 雪の季節になると山村の高齢者が長期ショートを利用する。山奥までの送迎ができずデイ利用が困難になるからだ。


 夜中に起きたことを詫びるKさんに、温かい飲み物をお出しする。

 どうか構わずに、とKさんは言ったが、ココアを舐めているうちに、口がほぐれた。ショート開始から一週間目で、寂しかったのだろう。

 「昼間のテレビでかくれんぼを見て」

 Kさんは、昼のドラマのことを言った。


 昔のことを思い出したの。Kさんは微笑んだ。


**


 Kさんは後妻さんだ。


 前妻には浮気癖があった。

 「生まれた子供が、浮気相手の子供で離縁された」

 Kさんは言う。

 

 姑さんも夫も優しかったが、奇妙なことがあった。嫁いだ日、Kさんはこう言われた。

 「鬼を見ても、知らない顔をせよ」

 

 まもなくKさんは、家の中で小さな影を見かけた。「見つけてごらん」と可愛い声も聞こえた。

 「子供がかくれんぼしている」と言うKさんに、「しっ」と、姑さんは窘めた。

 

 「知らん顔だ」


 それからKさんは何度も小鬼の声や影を感じたが、無視をしていた。

 ところがある日、便所の中に小さな姿が駆けこんでゆくのを見た。無視しなくてはと思うが、尿意が迫り、耐え切れずKさんは便所に入った。

 

 そこには粗末な着物を纏った幼児が立っていた。

 「見つかった」

 と、子供は言い、ふっと姿を消した。Kさんは土間を見回したが、小鬼の姿はどこにも見当たらなかった。


 その後、家の中から奇妙な気配が消えた。


**


 「それからすぐに、子供を生みました」

 Kさんは言った。

 

 Kさんには息子がいる。ショート開始時、「母がお世話になります」と職員あてにお菓子を持ってこられた。

 

 「実は、便所で見た小鬼の顔と、息子はそっくりです」


**


 前妻は浮気相手との子を産んだらしいが、育たなかったそうだ。

 あの小鬼は、死んだ子供の霊だったのだろうか。

 Kさんの息子は間違いなく旦那さんとの子供であろう。その息子と小鬼の顔が似ているということは、前妻が産んだ子は、浮気相手の子ではなかったのかもしれない。


 Kさんはそこで話を切り上げ、そろそろ休みますと言って部屋に戻った。

 ホールは静かだった。雪のせいか、暖房の効きが悪かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物悲しくて切ないお話ですね。 嫁いだKさんに「鬼を見ても、知らない顔をせよ」と釘を刺していた辺り、夫や姑は水子の霊の存在を認知していたのでしょうね。 もし夫と前妻の実子だったとしたら、実の…
[良い点] お久し振りです。 鬼の正体はもしかしたらと思いつつ、考えすぎかもと行きつ戻りつ。 夜は自然と物思います。
[一言] お久しぶりですm(_ _)m 誰かに言い残しておきたかったんでしょうね
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