みつけてごらん
特養に勤めていると、利用者から思いがけない話を聞くことがある。
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その夜は静かだった。
しかし零時を回った頃、足音が近づいてきた。ショート利用のKさんだ。
雪の季節になると山村の高齢者が長期ショートを利用する。山奥までの送迎ができずデイ利用が困難になるからだ。
夜中に起きたことを詫びるKさんに、温かい飲み物をお出しする。
どうか構わずに、とKさんは言ったが、ココアを舐めているうちに、口がほぐれた。ショート開始から一週間目で、寂しかったのだろう。
「昼間のテレビでかくれんぼを見て」
Kさんは、昼のドラマのことを言った。
昔のことを思い出したの。Kさんは微笑んだ。
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Kさんは後妻さんだ。
前妻には浮気癖があった。
「生まれた子供が、浮気相手の子供で離縁された」
Kさんは言う。
姑さんも夫も優しかったが、奇妙なことがあった。嫁いだ日、Kさんはこう言われた。
「鬼を見ても、知らない顔をせよ」
まもなくKさんは、家の中で小さな影を見かけた。「見つけてごらん」と可愛い声も聞こえた。
「子供がかくれんぼしている」と言うKさんに、「しっ」と、姑さんは窘めた。
「知らん顔だ」
それからKさんは何度も小鬼の声や影を感じたが、無視をしていた。
ところがある日、便所の中に小さな姿が駆けこんでゆくのを見た。無視しなくてはと思うが、尿意が迫り、耐え切れずKさんは便所に入った。
そこには粗末な着物を纏った幼児が立っていた。
「見つかった」
と、子供は言い、ふっと姿を消した。Kさんは土間を見回したが、小鬼の姿はどこにも見当たらなかった。
その後、家の中から奇妙な気配が消えた。
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「それからすぐに、子供を生みました」
Kさんは言った。
Kさんには息子がいる。ショート開始時、「母がお世話になります」と職員あてにお菓子を持ってこられた。
「実は、便所で見た小鬼の顔と、息子はそっくりです」
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前妻は浮気相手との子を産んだらしいが、育たなかったそうだ。
あの小鬼は、死んだ子供の霊だったのだろうか。
Kさんの息子は間違いなく旦那さんとの子供であろう。その息子と小鬼の顔が似ているということは、前妻が産んだ子は、浮気相手の子ではなかったのかもしれない。
Kさんはそこで話を切り上げ、そろそろ休みますと言って部屋に戻った。
ホールは静かだった。雪のせいか、暖房の効きが悪かった。