プロローグ
ザー。ザザー。
砂嵐。ノイズ。ノイズ。
記憶にかかった乱雑な靄が晴れ、そこには巨大な邪竜が佇んでいる。
僕は確かに覚えている。僕がまだ、『俺』だった頃の物語を。伝説の剣士の、目を見張る活躍の数々を。
竜は黒々とした鱗を陽光にきらめかせ、尾で辺りを打ち払う。
遅い遅すぎる。俺は纏った金属鎧の重量をものともせず、大きく跳躍。そのまま両手で剣を振り下ろすと、肉と骨を裂く確かな感触があり、ついで鮮やかなピンク色の断面を晒した尾の断片が、回転して宙に舞った。
竜の苦悶の咆哮が響く。身も凍るようなおぞましいそれも、俺にとっては突撃の合図にしか聞こえない。
竜が鋼をも溶かす火球を吐く。と、青白いオーラが焔を包み込み、あっという間に雲散霧消させた。
「アーサー、今よ!」
仲間の僧侶の声が聞こえた。俺は答える代わりに竜の胴体を踏み台がわりにして再度上方に跳び上がり、一瞬の間にその首を一刀両断した。
ザー。ザザー。
砂嵐。ノイズ。ノイズ。
記憶の靄は晴れない。そこには女神が佇んでいる。眩い後光が、その美しい顔を影にしていた。
「永い間、お疲れ様でした。あなたはあらゆる魔を打ち倒し、世界に平和をもたらしました。あなたには一万スキルポイントが与えられます。好きなことにお使いなさい。生まれ変わったあなたは、きっとあらゆる幸福を手に入れるでしょう」
そうだ。これは死後の記憶だ。
魔物との戦いを終え、天寿を全うした、死後の記憶。
俺は、決めていた。
「前世の記憶、ですか? よろしいですが、それには九千五百ポイントものスキルポイントが必要なのですよ。せいぜいあと一つしか高レベルのスキルは選べなくなってしまいます。本当に構わないのですか?」
あぁ、構わないさ。
そして俺が選ぶもう一つのスキル。
それは、魔物がいない今、人間を殺そうとする者たちに立ち向かう、あの……
砂嵐。
ノイズ。ノイズ。