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東龍の花嫁  作者: 朝生紬
四章 見果てぬ空へ
74/114

「本当にもう大丈夫なのですか?」

「もー平気よ、ちょっと一食抜いただけでそんな大袈裟な……」

「姫様がご飯を抜くということが既に天変地異なんですよ、こっちは!」

「わたしだって食欲がない日くらい……ありますし……」

 そう言いつつも、記憶にある限り自分の意思で食事を抜いた覚えがない。基本的に食べることが大好きなので、鈴は婆さまと大喧嘩をして家を飛び出した時も結局夕餉までには帰宅してしまったくらいだ。幼かったとは言え、もうちょっと頑張って欲しかったものだと幼い頃の自分の食い意地に呆れかえる。


 朝食の後、今後の方針を話し合う為に、鈴達の部屋の卓には縁寿と松葉、露草が顔を突き合わせていた。風早は戸の前で見張りをしている。

 結局昨日聞いた話を総合して、海真教と白浬教は何らかの関係があるというのを前提に、鈴達は調査を進めることになった。

「白浬教はこの二年くらいで一国と十二国の国境付近から広がった宗教らしいが、最近では国都近くまで範囲を広げているらしい」

 十二国の地図を広げて茅羽夜が言う。淋代はやや縦長の瑠璃領のちょうど真ん中より南寄りにあり、一国へ行くにも十一国へ行くにも利便がいい場所にあった。先日鈴達が尋ねた陸の住む里は、この淋代から東側に行ったところにある蒜山ひるぜんと言う山の麓にある里だ。

 茅羽夜はその蒜山からもう少し東にある集落を指す。

「聞くところこの里はどうも、少し前に白浬教の教えを受けて、里の大半が信者らしい。何でも恩恵を受けていた泉が日照りで枯れて、困り果てていた所を導師に救って頂いたのだとか」

「詳しいわね」

「和水という信者の娘に聞いた」

 高梁が言っていた、膳司の女中の名前だったか。もう話してきたのか。せっかくだから鈴も話を聞いてみたかったのだが、あちらも仕事があるのだし、同じことを何度も聞かれるのは面倒だろう。

「なら、次はこの里に視察ということでいいかしら」

「ああ、俺はまた役場の方に出向かないといけないから、付き添ってやれなくて悪いんだが……」 

「それは全然構わないわよ。露草も兄さんも一緒だし」

 ね、と笑いかけると松葉と露草も頷いてくれる。今回、小鞠は屋敷の手伝いがあるので留守番ということになっていた。

 茅羽夜はいかにも心配だという顔で鈴を見る。しかし彼は高梁と一緒に役場で支援の要請や来年の取り決めなど、紙作業が山積みなのだ。

 鈴では確かに頼りないだろうが、茅羽夜も最低限見てきて欲しいことは露草に伝えているし、護衛には松葉もいる。宝生もまあ、いざという時身分証明には役立つので頭数に入れておこう。

「じゃあ、さっそく行ってくるわね」

「ああ、気をつけて」

 しっかりと朝ご飯を食べて、外套を着込み、鈴は雪燈に乗る。今日向かう里はそこまで雪深い所にあるわけでもないので、松葉も露草も、ついでに宝生も馬だ。

 地図を懐にしまって、さあ出発と思った時、がやがやと向こうの方が騒がしいことに気がついた。ふとそちらへ目を向けると、小さな影が転がるように人集りから飛び出してきた。

「あー!やっと見つけたッ!」

「陸?」

 小柄な影は昨日出会った少年、陸だった。昨日よりも厚着で、手袋と襟巻きをぐるぐるに巻いた陸は鈴を見つけるなり、雪燈の足元まで駆け寄って来た。鈴は鞍から降りて、陸の前に立つ。

「どうしたの?まさか里からひとりで来たの?」

「子供扱いすんなよ、いつも炭売りにくるから慣れてるし!」

 いや子供じゃないの、と言ったらさすがに怒られそうだと思ったので黙っておいた。しかし今日は籠も持っていないし、別に炭を売りに来たわけではないらしい。

「あんたら、あいつらのこと調べてるんだろ。だったら、俺も連れてって」

「ダメに決まってるでしょ。遊びじゃないのよ」

「そんなこと、わかってるよ。どうせ今日は須河すごうの方へ行くんだろ」

「な……」

 須河は蒜山のもっと東にある里だ。鈴達がまさに向かおうとしていた場所である。

 どうしてわかったの、と思ったのが伝わったのか、陸は得意げに鼻を鳴らす。

「あの後調べたんだ。このあたりで一番近い、例の宗教の信者の情報がある里があそこだったからさ」

「へ、へえ……」

 さすが田舎の情報網。下手に大きな京都よりもこういった狭い地域の方が噂は速い。狭い集落ではどこどこの誰がどこの村の娘を娶っただとか、子供が生まれただとか、そういった話はあっという間に広まる。鈴の輿入れも、一日で近隣の里に知れ渡ったくらいだ。

「あの里には炭売りに行くから地理もわかるし、案内だって出来るし!なあ、頼むよ。俺、由宇にどうしても会いたいんだ……」

 頼まれると弱い鈴はうっと後ずさる。しかしまだ十二やそこらの無関係な民を巻き込むのはどう考えても良くない。何かあった時に責任が取れない。

「言っとくけど、俺、ここで断られても勝手に付いてくから」

「それは最早脅迫じゃない⁉︎」

「そうだよ」

「力一杯言うことじゃないでしょ!」

 最近の子供って皆こうなのだろうか。生意気そうな目はさあどうする?と言わんばかりに輝いている。わざわざ淋代までやって来るくらいだ。断っても本当に、後を追いかけてくるだろう。付いてくる道中で雪崩に遭ったり、素行の宜しくない人間に拐かされてもいけない。

 それくらいなら、手元で見張っておいた方が楽なのではないだろうか。

「……仕方ないなあ、でもこの近隣だけだよ」

「やったあ!」

「妃殿下!一般の、それも子供を連れて行くなど正気ですか!」

 宝生の言葉に、鈴は息を吐く。

「仕方ないでしょ。それに近隣の地理に明るいのは確かに助かるし、この子がいたら住民とも円滑に話せそうだし」

「案内なら私が」

「あなた、昨日すぐにどっか消えたじゃない」

「……ッ!」

 陸と話している間、松葉に周囲を探ってもらっていたが宝生の姿はすぐ側になかった。彼の役目は里の住民と鈴達が円滑に話を進められるように間を取り持つことも含まれている。昨日は立派な職務怠慢と言えよう。

 歯軋りして鈴を睨む宝生から視線を逸らして、陸に向き合った。

「でも危険なことは絶対にしないこと。この近隣の里へ行く時だけ同行を許すこと。そして、きちんとご両親の許可を取ることが条件よ。いい?」

「わかった。父さんたちには、今日もちゃんと言って出てる」

「そう。ならいいわ。案内、お願いね」

「任せといてよ」

「なら今すぐに出発するけど陸は誰かと一緒に乗って貰わないとね。どうする?わたしと乗る?」

 両手を広げて誘ってみるが、陸は嫌な顔を隠しもせずに首を振った。そして馬上の松葉と、やりとりに飽きたのか半分寝ている露草を見比べて、即座に松葉の方へ歩いて行った。

「お?俺をご指名?」

「うん、松葉さんなら安心そう」

「ひどいわ。わたし、傷付きました!」

「だって鈴と一緒に乗ったら何されるかわかんねーもん」

「しかも松兄さんはさん付けなのにわたしは呼び捨てときた!わたしの方がずっとお姉さんなのに」

「じゃあ、鈴おねーさん?」

 松葉の前に乗った陸がふっと小馬鹿にしたように笑う。しょうがねえから呼んでやるよ、という心の声が聞こえて来そうな顔だ。

 後でまた擽ってやると心に決め、鈴達はようやく、淋代を発ったのだった。

 

 須河は蒜山の里と何か大きく違うかと聞かれれば、そんなことは一切ない。

 毎日里の者たちは畑を耕して種を撒き、家畜の世話をして一日を過ごす。そんなどこにでもある里だ。

 けれどひとつ違いを挙げるとしたら、軒下に幾つも玻璃の球体が下げられていることだろう。

 海の底を連想させる青く丸みを帯びたそれは組まれた縄で軒下にぶら下げられており、中には枝のようなものや貝殻などが入れられている。露草に訊ねると、あれは珊瑚の死骸だろうと返ってきた。

「珊瑚って、あの海にあるっていう?」

「そう、それです。海辺に行くと結構流れついてますよ。珊瑚は温かい海で育つから、この辺の海には生息していないでしょうが」

「絵巻だけは見たことがあるわ。へえ……」

 山育ちの鈴は、海というものをきちんと見たことがない。九頭龍山の頂きから遠くに見たのと、縁寿から与えられた本の挿絵を見たという程度だ。茅羽夜の右眼のような、あの深い青をいつかこの目で見たいと思っているけれど、中々機会は訪れない。

「多分、白浬教の信者の証なんですね」

 露草は興味深そうにそれを眺めている。陸が遠くで、置いてくぞー!と叫ぶので、ふたりは慌てて(慌てたのは鈴だけだが)彼らに駆け寄った。

「白浬教について知りたい、ですか?」

「はい、そうなのです」

 里長の屋敷で鈴は頷いた。須河の長は蒜山の長よりも十程若く見えたが、足が悪いらしく、円座ではなく椅子に座っている。

 この里長の屋敷の軒下にも、青い玻璃の球が吊り下がっていた。

「京都にも白浬教のお噂は届いておりまして、なんでも占いがよく当たるとか」

「ええ、ええ、そうなのです。巫女様の占いは本当によく当たりまして、我が里も日照りの際に枯れた泉を取り戻して頂いたのです」

「まあ、占いで?」

「はい。巫女様は自ら我が里に赴き、水源の澱みをぴたりと当てて下さって。そこに祠を建てた所、泉がみるみる湧き出たのです」

 長はその時の光景を思い出したのか、感極まったような声で言った。その姿は心酔しきった信者のそれだ。

(水源の澱みを……?)

 ただの日照りによる水不足で枯れたのかと思ったら、そうじゃないらしい。

「その祠を見せて頂くことは出来ますか?」

「勿論でございます。近隣の里から参拝される方もいらっしゃいますし、妃殿下にも是非、あの清廉たる奇跡の泉を御覧頂きたい」

「ありがとうございます。ですが案内は無用です、別の者に頼んでございますので、どうか長殿は足を労って下さいませ」

「ああ、あの蒜山の炭売りの子ですね。遠路遥々来て頂いた所、申し訳ありませんが、お言葉に甘えさせて頂きます」

「参拝の許可を頂けただけで、充分です」

 礼を言って里長の屋敷を出ると、すぐそこに松葉と陸が里の若人たちと何やら談笑していた。ああやってすぐに誰とでも打ち解けるのは、松葉の凄いところだろう。鈴も近寄って、こんにちは、と里の者に話しかける。

「あ、え、こッ!ひ、妃殿下におかれましてはご、ご機嫌麗しゅう存じ奉ります……⁉︎」

「いやあの、平伏しなくて大丈夫だから気にしないで!額が汚れてしまうわ、顔をあげてください」

「で、ですが妃殿下のような殿上のお方にそんな……!」

 この対応に段々と疲れてきた鈴である。東宮が普段覆面を付けて引き篭もっている体で、茅羽夜として自由に歩き回っている気持ちが少し分かったかもしれない。あちこち回るだけでこんなに平伏されていては、気が滅入って来る。

 そんなやりとりを見ていた陸は頭の後ろで手を組んで「へえ」と感心したように呟いた。

「鈴って本当に妃殿下なんだな」

「今更?」

「だって全然それっぽくないじゃん。昨日いたお姉さんの方がお姫様っぽい」

「まだ擽られ足りないようね」

「そういうとこ!そういうとこ!」

「ははは、すっかり怯えちゃってるなー」

 さっと松葉の背後に隠れて顔だけ出して様子を窺う陸に、鈴はふんと鼻を鳴らした。姫様と恭しく接して欲しいわけではないが、年上としては敬って頂きたいものだ。

「あ、許可頂いてきたわよ。泉の祠ってどっちかしら?」

「それなら、あっちの森の方です」

 ようやく立ち上がった青年は里から東の森を指差す。視線は合わせて貰えなかったが。

「ありがとう。陸、場所分かるわよね?」

「わかるわかる」

「なら行くか。あれ、露草と宝生殿はどこ行った」

「僕ならここです〜」

 そう言いながら露草は屋敷の裏手からひょっこりと顔を出した。何をしていたのか訊ねると、軒下の玻璃の中身を観察して回っていたらしい。

「結構いろんな種類がありましたよ。貝も貝で巻貝から二枚貝まで十種類くらいありまして、あの形状は前に本で温暖な地域で生息する巻貝だと見たことが」

「うんうん、それはまた帰ったら聞かせて。祠の方へ行くわよ」

「はーい」

 彼もまた、話し出すと長い人種なので適当に切って、鈴達は陸の案内の下、例の祠へと向かった。そういえば宝生はまたどこへ行ったのか。陸に案内役を取られてからすっかり臍を曲げてしまったようである。

(……謝ろうかと思ったけどやっぱり職務怠慢よね、本体は付いて来なくていいからあの身分証明書みたいな木簡だけ貰えないかしら……)

 などと失礼なことを考えながら森に入るとそれはすぐに見つかった。泉というより湖とも呼べそうな大きさで、小さな水路が作られており、そこから田へ水を引くようになっているようだ。覗き込めば深さはそこまでない。魚でもいるかなと思ったが、生き物は見当たらなかった。

 透き通る水は見るからに清廉で、夏であれば掬って喉を潤したら気持ち良いだろうなと思う。

「祠はあの奥だって言ってたよ」

「お、あれか?」

 泉をぐるりと回って奥に入った所に、確かにまだ木の新しい祠があった。切妻屋根を備え、扉の前には御神酒が入っているだろう徳利、それから玉串が供えてある。

(……普通の祠と変わらないわね)

 里にいた時、鈴が毎朝お山の祠に供えていたものと殆ど同じだ。

 ふむ、と指先で唇を撫でる。そして懐から首飾りを出して、目を閉じ、大きく息を吸う。

 涼やかな音が、周囲に薄絹を重ねるように、鳴り響く。

(────この感じ)

 間違いない、この下に確かに龍脈がある。水源地というのは大抵が龍脈の上にあるので、それ自体はわかっていたがここのはかなり強くて太い場所のようだ。感じた清廉さは、それ故だろう。

 だがしかし、拭えない違和感がある。

(なんか窮屈というか、水が抑えられてる……ような……?)

「この泉、本当はもっと大きかったんでしょうか」

 うんうんと鈴が考え込んでいる後ろで露草が呟いた。

「どうして?」

「ほら、あそこ見てください。泉のこの淵の辺りまで草が生えてないでしょう。多分前はここまで水があったんです」

 露草が指で指し示したあたりは確かに、草花は生えていない。水面はそれよりもずっと下で揺らめていてる。

 鈴は祠の下に蹲み込んで、そっと耳を地面に付けた。目を閉じて意識を深く深くに潜らせていくと、微かな水の音が聞こえて来る。

 けれどやはり、その水の音はくぐもっていて、どこか遠い。何か、見えない蓋でもされているような────

 はっとして鈴は体を起こした。すぐ側で様子を窺っていたらしい陸が「うわ!」と声を上げる。

「って、ちょっと鈴!何やってんだ⁉︎」

 鈴は立ち上がっておもむろに祠へ手を伸ばすと、その両開きの扉に手をかけた。ぎょっとした陸が鈴の袖を引いて止めるけれど、それよりも鈴が扉を開ける方が早かった。

「……やっぱり」

「おい鈴!何してんだよ、里の人に怒られるぞ!」

「ここの泉が枯れたのは、異常気象のせいでも、日照りのせいでもないわ」

「は?」

 祠の、本来御神体などが入れられているところにあったのは、赤黒い文字で書かれた一枚の札と鈴の指の長さ程の白い塊だった。お札に書かれた文字と同じものが、祠の内側にもびっしりと書かれている。微かな饐えた匂いに、鈴はその文字が何で書かれたものか、すぐに理解出来た。

 好奇心に負けて覗き込んだ陸も、うわ……と顔を顰め、露草も「おお……」と感情の読み取りにくい声をあげた。

「なにこれ……」

「呪具よ。龍脈に直接根を張り、吸い上げる為のね」

「ええっと、つまり……?」

「白浬教はとんだ詐欺師ってこと」

 泉が枯れたのはこの呪具のせいだ。自分たちが枯らしておいて、澱みとはよく言ったものである。ここを訪れた巫女とやらがどれ程のものかはわからないが、この呪詛自体は比較的新しいものだ。彼らが仕掛けたものと見て間違いないだろう。

「この白いのって……」

「人の骨」

「骨ェ⁉︎」

「呪具にはよく使われるわよ、動物の血とか死体とかでも出来るんだけど」

「…………」

 真っ青になって押し黙る陸に、鈴はしまったと口を押さえた。

「それって……まさか……」

「大丈夫よ、感じからして多分由宇ちゃんよりはもっと幼い子供のものだと思うし……」

「でもそんなものを使うような所に、由宇はいるんだよな……?」

「それは……」

 何とも言えない。そもそもああはいったが、由宇を連れて行った人間が白浬教の者なのかはまだわからないのだ。

 海真教の呪術師は器を作っていた。そして海真教は白浬教となんらかの関わりがある。

 そういう仮定を前提として調べているだけで、この仮定がそもそも間違っている可能性だって充分にある。

「今はまだ、はっきりとはわからないわ。でも何らかの関係はあるとわたし達は見ている」

「……だったらッ」

「でもわたし達もひとつひとつ、手順を踏むしかないの。彼らの目的や関係を見極めないと、もっと大きなものを取り逃してしまうかもしれない……」

「それは由宇の命より、大事なものなの」

 追い縋るように、袖を掴む少年を見て、鈴は唇を噛んだ。陸の気持ちは、鈴にも痛いほどよく分かった。

(小鞠が攫われたと聞かされた時、わたしも縁兄さんに同じようなことを言った)

 頭では理解していても、目の前の大切な命を捨て切れる程、大人じゃない。どう説明したら、陸の心を傷つけないか、わからなかった。

「陸、鈴をあまり責めてやんないでくれないか」

 ぽんと陸の頭に大きな手を乗せて、彼の視線まで屈む松葉を見る。

「俺達もさ、何も由宇ちゃんを見捨てようとしているわけじゃない。それは、陸だってわかるだろ?」

「……」

「そもそもさ、由宇ちゃんが今どこで何してるかもまだわからないんだ。十二国内にいればいいけど、国外にいる可能性だって当然ある。何処にいるのか、誰が彼女を引き取ったのか、その理由は?……そういったことを調べてからじゃないと、俺達だってどこで何をすればいいのかわからないのは、賢いお前ならわかるだろ?」

 頷く陸に、松葉はにかっと笑って頭を撫でた。鈴にとっては見慣れた「お兄ちゃん」の顔だ。

「よし、なら今日はこの辺で引き上げるか。冷えてきたし、怪しまれてもいけないしな」

「そうね」

 迷ったけれど、呪具はそのまま、祠の中に返して鈴は扉を閉めた。ここで呪具を解けば、必ず本人へ還る。そうなった時、鈴達の存在はすぐにばれてしまうだろう。

 今はまだ、もう少し情報が欲しい。

 鈴達は挨拶もそこそこに、淋代へ戻る為に再び馬に乗り込んだ。

 


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