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東龍の花嫁  作者: 朝生紬
一章・東の龍と西の娘
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龍の嫁入り 終話

 陽が落ち、軒下の提灯に火が入る頃、帝都の中でも中心部にある天峰・白龍山を背に頂く街は、この東和の中でも最も賑わいを見せていた。元々地上の星都とも呼ばれ、眠らない街である帝都だったが、この日は街中の老若男女がこぞって大通りに詰めかけ、若宮に嫁ぐ花嫁を一目見ようと押し掛けた。

 りぃん、りぃんという鈴を鳴らしながら行列は厳かに大通りを進んでいく。


 東宮の地位にある若宮は、滅多に公に姿を現さない。覇権争いの際に御顔に傷を作り、それを厭うて、尽く人を避けている。冷徹で気難しいともっぱらの噂である皇子へ嫁ぐ少女を、人々は祝福しながらもどこか同情の目で見ていた。しかし慶事というものはそれだけで人々の心を華やかにさせるもので、姫を見上げる瞳は明るかった。

 市井の民が金に玉に着飾った姫君を見られる機会は一生のうちにそう多くない。倹約屋で知られる今上陛下はもう既に四人の妃を迎えている上に、今の皇家には降嫁する皇女もいない。

 さらに言えば今回の花嫁は西の大国と名高い九条家の姫君だ。ここまで大掛かりな花嫁行列はこの先数十年お目に掛かれることもないだろうというのが人の足を進ませる要因の一つでもあった。

 りぃん。りぃん。と先頭を歩く緋袴の巫女が鈴を鳴らす。

 彼女の向かう先には数え切れないほどの篝火が焚かれ、陽は既に西の山間に落ちているというのに花嫁の姿は遠目にもはっきり見えるほど光の中にいた。胸元には小さな鏡のような首飾りが下がっており、松明の灯りを受けてきらきらと輝いている。

 夜風を受けて揺れる薄絹を被った少女は凛として山の上の宮を見据え、彼女を乗せた雪馬もどこか誇らしげに見えた。

「おかあさん、あれが若様さまの所にお嫁に行く、九条の姫さま?」

 母に抱かれた幼子が遠目に見える馬上の姫宮を見上げた。そうよ、と母が気遣わしげに頷くと幼子は小首を傾けた。

 やがて幼子達が立っていた場所のそばを姫宮が通り過ぎる。

 幾つもの灯りに照らされて紫紺の袿と赤い長い裳をひらひらとはためかせた姫宮は、幼子の目を奪うのに充分だった。帯には小さな花と鈴の根付が下げられており、それがまたきらりと光った。蜜を固めて作ったような黄色のそれは、姫宮の菫色と伝えられた星の石ではない。

 ならば、と幼子は思う。

 なら、あれはきっと、若宮のものだろうと。

「ねえおかあさん、じぶんの星石をあげるのってその人に、ずっとあなたを見つめてるっていう意味よね」

 そうよ。と母は笑って言う。お母さんも昔、お前のお父さんに貰ったわ、と。

「ならきっと、姫さまは若様と、ずっと仲良くくらせるね」

 ほんの一瞬ではあったものの、薄絹から見えた横顔を少女は確かに見た。

 桜色に頰を染めて幸せに満ちていた笑みで宮へ向かう姫の姿はこれ以上ないほど、この国で一番美しかったのだと。

 幼子は後に、自分が母になった時、同じように娘に語るのだった。




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