第3子出産
ティレーズの育児がある程度収まったら旅に出る、と仰っていたお義母様たちですが、ここにきて私の妊娠がわかったので、旅はまた延期になりました。
今回も順調に育っているようで、時々ポコポコとお腹を蹴る元気な子です。
三人目にもなれば、私も妊娠中の過ごし方がわかります。
穏やかに、時折散歩しながら過ごしているうちに、あっという間に産み月を迎えました。
今回もマリアンヌ様と産婆さん任せです。
ノア様は、エドワードの時とノエルの時とで学んだようで、ずっと部屋の外いるから、何かあったら呼ぶように、とおっしゃいました。
ノア様とそういう話をすると、大抵その翌日には陣痛が始まるのですが……
ええ、もちろん今回もその話をした明け方、陣痛が始まりました。
ノア様の言葉には、陣痛を起こす作用でもあるのでしょうか。
不思議です。
ノエルの時は二人目だから産道が広くなっていて楽に出産できた、と思っていたので、今回もそれほど大変ではないだろうとタカをくくっていたのですが……
加護をくださったジブリール様もびっくりな程の難産でした。
「きっと身体の大きな子なのね。ほら、ひっひっふー」
マリアンヌ様に促されて、ラマーズ法を再開させます。
ひっひっふー、ひっひっふー
めちゃくちゃ痛いです。
前世でよく鼻からスイカ、と聞きましたが、まさにそんな感じです。
ひ、ひっひっふー、ひっひっふー!
「オッケー!頭出た。楽にしてー」
陣痛が始まってから24時間、やっと出産が終わりました。
もっとも、本当の難産は丸2日かかる方もいるそうですので、私は加護がある分だけまだましですね。
「んぎゃー!」
ほっと一息ついていたら聞こえてきた我が子の声。
エドワードの時もノエルの時もこれほど大声ではなかったのですが、本当に元気な子供のようです。
「ジュリア様、元気な男の子ですよ。やはり平均より少し身体が大きめですね」
だから、生むのが大変だったのですね。
胸元に置かれた赤ちゃんを見ると、確かにエドワードの時よりも大きい気がします。
「ジュリア!」
入室が許可されたのか、ノア様が駆け込んできます。
抱きしめようとした両手を慌てて引っ込めて、私の手を握りしめました。
「聞いたよ。元気な男の子だって」
「第二王子を出産できて良かったですわ」
「そんなことを気にしていたのかい?確かに継承者が多いにこしたことはないけれど、君と子供が無事にこの世にいることが何より大切だよ」
「ありがとうございます、ノア様。
それで、この子の名前はどうなりました?」
今回も命名権を巡って行われたくじ引き大会。
最初に引かせてもらった私は早々に離脱し、今回はなんと、エドワードが命名権を獲得しました。
エドワードは最初から弟だと信じて疑っていなかったようで、男の子の名前しか用意していなかったようです。
女の子だったらどうするつもりだったのでしょう。
「名前は、アルフォンスに決まったよ」
「アルフォンスって確か……」
「エドワードの好きな物語の主人公の名前だね」
私達は苦笑しながらアルフォンスの寝顔を見つめました。
「この世へようこそ、アルフォンス」
その後、エドワードはアルを見たいとグズりましたが、まだ生まれたばかりなので駄目なのよ、とマリアンヌ様に言い聞かされて、大人しく引き下がりました。
数日後、ようやくエドワードがアルを見た瞬間、エドワードは雷に打たれたように固まりました。
生まれたばかりの子はお猿さんみたいですから、理想が壊れたのでしょうか。
「この子が、僕の弟のアルですか?」
「ええ、そうよ」
「…………天使」
え?
いや、確かに私もノア様もアルが可愛くてたまりませんが、感無量といった感じで「天使」と呟くエドワードもなかなかのものです。
「お母様は、いつも天使を生むんですね。すごいです」
両手を胸の前で握りしめたかと思うと、優しく優しくアルの頭をなでました。
「兄様だよ、アル。仲良くしようね」
なんて微笑ましい光景でしょう。
これで、ノエルだけに向けられていたシスコン的愛情が分散されて、シスコンぶりが改善されるといいのですが……
エドワードとノエルは明らかにノア様似でしたが、アルはどうやら私の見た目に似たようです。
地味なブラウンの髪に同色の瞳。
地味な人生にならないといいのですが。
「エドワード様。そろそろエリザベス様がいらっしゃいますので、ご準備を」
マルコに言われて、ピクンとエドワードが反応します。
エリザベスちゃんというのは、現段階でエドワードの最有力婚約者候補です。
可愛らしい見た目に、愛くるしい言動。
ワガママを言うこともなく、天真爛漫でありながら、既に淑女教育が始まっているらしく、お転婆なところはありません。
つまり。
エドワードのドストライクの令嬢なのです。
エドワードの好みに合う令嬢を見つけるために、ノア様が必死で探し出した令嬢です。
エドワードも満更でもなくて、今もアルの側を離れたくないという気持ちとエリザベスちゃんに会いたい気持ちで葛藤している様子。
「エドワード。アルは毎日王城にいるのだから、すぐに会えますよ。
それより、女性を待たせるなんて、紳士としてはカッコ悪いですよ」
「カッコ悪い……」
エドワードはショックを受けた顔をしましたが、すぐにアルの額にキスをしました。
「ちょっと行ってくるね、アル。また後で」
カッコ悪いというのが余程ショックだったのか、エドワードは急ぎ足で部屋を出ていきました。
次に、ノエルが侍女に連れられてやってきます。
「ノエル。あなたの弟のアルよ」
「おとーと?」
「そう。まだ一人では何も出来ないし、おしゃべりも出来ないから、ノエルも可愛がってあげてね」
分かったのか分かっていないのか、ノエルはコクンと頷きました。
「ノエルは、アルに沢山お話をしてあげればいいわ。きっとアルも喜ぶから」
そう言うと、ノエルはキラキラした目で頷きました。
「かーいい」
「そうね、可愛いわね。ノエルも生まれたときから可愛かったのよ」
褒められて、少し照れているノエル。
頬がピンク色に染まって本当に天使みたいです。
ノエルが出ていくと、娘のメリーを抱いたティレーズがやってきました。
「王妃様。おめでとうございます」
「ありがとう、ティレーズ。あなたもまだ3時間授乳の期間が終わったばかりで疲れているのだから、挨拶に来なくても良かったのよ?」
「そういう訳には参りません。今のうちからアルフォンス様には私の顔や声に慣れていただかないと」
メリーが少し大きくなるまで、エドワードとノエル、それにアルはティレーズがメリーと一緒に世話をすることになっています。
「私から母親の座を奪わないでね?」
クスクス笑って言うと、ティレーズがとんでもない!と真面目な顔で返してきました。
「本来なら、メリーも一緒に育てさせていただくだけでもありがたいですのに、王妃様から母親の座を奪うだなんて!」
「え、ええ……分かっているわ。冗談よ?」
ティレーズ、マルコと結婚してからあまり冗談が通じなくなった気が……
いえ、気のせいでしょう。
「授乳期間中は私が育てるけど、その後のことはお願いね?」
「おまかせください!全力でお子様方のお世話をさせていただきます!」
「う、うん。程々にね?」
気合い充分なティレーズが出ていって、私はようやく一息つきました。
お義父様やお義母様は、またしても孫フィーバーを起こしています。
ノア様は、
「娘じゃなくてよかった。どちらでも良かったけど、二度も娘を嫁がせる経験なんてしたくない」
と本音を覗かせていました。
こうして、新しいロイヤルファミリーのアルフォンスは、みんなに歓迎されて生まれてきたのです。




