エドワード、妹を溺愛する
ティレーズの部屋を出て、私はお義父様とお義母様にお土産を渡してご挨拶を終えると、子供部屋にいるはずのノエルに会いに行きました。
離れていたのは数日間ですが、今後あまりかまえなくなると思うと、いてもたってもいられません。
子供部屋に入った私は、その場で固まりました。
ノエルを抱っこして愛おしそうに頭をなでているエドワードと、それを呆然と見つめるノア様。
「あの、ノア様はノエルを抱っこしないんですか?」
「それが……エドワードが手放さないんだ。私だって抱っこしたいのに」
「マー!」
ノエルが私を見て目を輝かせて手を伸ばします。
そのままノエルを抱っこしようとすると、エドワードがスッと遠ざけました。
「お母様にはお父様が。お父様にはお母様がいるじゃない。ノエルは僕のです」
凄まじい独占欲に体が固まります。
「エドワード?ノエルは家族みんなの宝物よ?」
「でも、僕の方が歳が近いし、いつでもノエルと遊んであげられるし」
た、確かに公務でなかなかノエルと遊んであげることはできませんけど……
「ノエルは一生僕が守るんです」
だめよ!
それは禁断の愛になってしまうわ!
それに、ノエルは幸せな花嫁さんにしてあげたいの!
「エドワード。あなたもいずれはどこかの令嬢と結婚して、ノエルもお嫁にいくのよ。
ノエルの花嫁姿、見たくないの?」
少し声を低くして聞くと、ウッとエドワードが詰まりました。
「きっと可愛いでしょうねぇ、ノエルの花嫁姿」
ここぞとばかりに押します。
隣では想像したのか、ノア様が目に涙を浮かべています。
「そうか!僕がノエルをお嫁さんにすればいいんだ!」
だからそれは禁断だからダメー!
「エドワード。兄妹は結婚できないのよ?」
「えっ」
エドワードの目にどんどん涙が溜まっていきます。
エドワードは片手でノエルを抱いたまま、私にしがみついて泣き出しました。
「ノエルと離れるなんて嫌です。こんなにこんなに愛らしいのに」
「そうね。ノエルは天使みたいだものね。でもね、あなたは大きくなったら可愛いお嫁さんをもらって、お父様の跡を継ぐのよ」
「イヤです!ノエル以上に可愛い女の子なんているはずない!」
この子、こんなにシスコンだったかしら。
お母様、将来が心配よ?
「エドワード、そろそろお父様にもノエルを抱かせてほしいな」
「お父様はお母様を抱っこしてればいいんです」
私とノア様はまた固まりました。
「ジュリア、これは早く3人目を作らないと……」
「仮に弟でもこんなに可愛がるでしょうか」
「私が幼い頃もティーダを溺愛していたらしいから、きっと大丈夫」
コソコソと話している間に、エドワードは自分の腕枕でノエルを寝かせて、寝物語を始めていました。
王女様が素敵な王子様と巡り合って、一生幸せに暮らしました、という物語です。
まさかとは思いますが、王女をノエルに、王子を自分に置き換えて話していませんよね?
禁断の愛だけはだめよ。
それから、シスコンも程々にしないと、ノエルの婚期が遠ざかってしまいます。
結局、話しながら自分も寝てしまったエドワードをベッドに運び、スヤスヤ眠るノエルをノア様と交互に抱っこして、そっとベッドに寝かせました。
「エドワードはノア様にそっくりですわ」
「いや、どうみてもジュリアだろう」
「いいえ。あの溺愛っぷりはノア様と同じものを感じますわ」
「仕方ないじゃないか。君も、君にそっくりなノエルもとんでもなく可愛いんだから」
ああ、せめてノエルがブラコンにならないことを祈りますわ。
でも、私に似てしまったら、もしかすると大人の色気満載なノア様にべったりなファザコンになる可能性もありますわね。
いけませんわ。
ノア様みたいな方は滅多にいらっしゃらないのですから、ノエルの婚期が遅れます。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ノア様は言いました。
「この際、エドワードを早めに婚約させよう。
出来るだけノエルに似ていて可愛い感じの令嬢を。なんならまだ赤ん坊でもいい。むしろその方がエドワードが可愛がるかもしれん」
「でも……赤ん坊はどんどん顔が変わっていきますし……エドワードがうんというかはわかりませんわ」
「構わない。早速エドワードにぴったりな令嬢を探そう」
こうして、エドワードの王子教育も始まらないうちから婚約者探しが始まったのです。
そして、それと同時進行で第3子作りにも余念のないノア様。
数ヶ月後、3人目がお腹に宿ったとわかるまで、私の睡眠不足は続いたのです。
一方、ティレーズの娘はメリーと名付けられ、ティレーズそっくりのメリーを、マルコが溺愛しています。
まだまだ魔の3時間授乳期間中ですので、ティレーズはフラフラですが、マルコはそれまでのクールさはどこにいったの?と聞きたいくらい目尻を下げてメリーに頬ずりしている姿をよく見かけるようになりました。
エドワードはメリーのこともとても可愛がっていますが、マルコはエドワードですらなかなか近付けようとしません。
攫われるとでも思っているのでしょうか。
私のお腹が大きくなる頃には、王城では「天使が3人」と有名になっていました。
中でも侍女たちの間で人気が高いのはエドワード。
エドワードは移動の途中で重そうな荷物を持っている侍女を見かけると、自分の体の大きさも考えずに手伝いを申し出るようです。
いえ……
女性に優しいのはいいことなんですが、ノア様そっくりの美形少年がそんなことをするものですから、侍女たちはメロメロらしいです。
でも、何ででしょう。
両手にノエルとメリーを抱いてお昼寝しているエドワードを見ると、なぜか「女たらし」という言葉が頭に浮かんでしまいます。
私は何度も何度もエドワードに言い聞かせました。
女性には優しく。でも不用意に触れてはいけません、と。
このままではチャラ男一直線です。
王子教育で、少しは堅物さも身につけてくれるといいのですが……
私は密かにため息をつきました。




