トリス国秘蔵の魔法書
「お義父様。この国には王家の人間だけに伝わる魔法や秘蔵の魔法書などはありませんの?」
晩餐の席で、お義父様に早速聞いてみました。
カルーア王族直系にだけ伝わる身体凝固魔法、すごく使ってみたいのです
それが駄目なら、せめて似たような魔法を。
「秘蔵の魔法書か。あるにはあるが……」
「やはり、私は他国から嫁いできた人間なので、見ることはできないのですか?」
「いや、そういう訳ではないが……かなり古い書物だからな。使われている言語も、今より古い言語なんだ。だから、読めるかどうか……」
「それなら、辞書を片手に読みますわ。
お願い、お義父様。私、どうしても読みたいんですの」
必殺、おねだり作戦です。
「そうかそうか。読みたいか。では早速明日にでも国立図書館の地下にある特別書庫に取りに行くといい。王族以外は立ち入り禁止だが、ジュリアならなんの問題もないからな」
おねだり作戦、成功です。
お義母様が呆れたようにお義父様を見ているのが少し笑えます。
私の視線を感じたのか、お義母様はふっとこちらを向くと、楽しそうにおっしゃいました。
「ジュリアちゃん。また何か、楽しいことを企んでいるんでしょう」
「企むだなんて、人聞きが悪いですわ。ちょっと、カルーア国王族直系のみに伝わる身体凝固魔法が面白そうだな、と思いまして。
もしかしたら、国土防御結界をバージョンアップできるかも知れませんの」
「国土防御結界を?」
「はい。今は国外に弾き出すだけですけれど、数日間、または数ヶ月間、中央広場に、何を企んでいたか、或いは罪状を記した台座とともに石像化しようかと思いまして。
出来れば、罪の重さに応じて石像にする期間を決めたいですわね。
そうすれば、民も顔がわかるから石化が解けたあとも警戒するでしょうし、石化した人もいたたまれなくてすぐに国から逃げていくでしょう?
それで心を改めれば良し、他国で罪を犯そうとしたら、今度はその場で石化。もちろん、罪状を記した台座とともに、です。
回数を重ねるごとに石化の期間も長くなるようにしたいですわね」
ノア様は呆気にとられています。
お義父様はニコニコ。お義母様は自分も協力すると仰ってくださいました。
ティーダ様は……いつも通りです。
メリッサが工事中の王城の地下で練り上げた魔力を、言葉一つで消失させた時。
あの時が一番長く話していたかもしれません。
「マーク。旅の続きは、ジュリアちゃんの魔法が完成してからでもいいんじゃないかしら」
「そうだな。完成した魔法を是非見てみたいし」
「マリア、ティレーズ。そういう訳だから、私とジュリアちゃんの公務を少し調整して、勉強する時間を作ってもらえる?」
「かしこまりました」
秘蔵の魔法書に、そういった事が書いてあれはいいのですが……
もし無いようなら、アレンジして自分で作るしかありませんね。
それでも、基本となる魔法はどうしても必要なので、石化の魔法だけでも載っていることをねがいますわ。
そして早速翌日、私はお義母様と一緒に国立図書館の地下の特別書庫へと、向かいました。
司書の方は私とお義母様の顔を見るなり、地下へと案内してくれました。
おそらく、王族が国立図書館に来る時は、ほとんどが地下書庫に用がある時だからでしょう。
「本日は、どちらの本をお探しですか?」
「王家秘蔵の古い魔法書を」
「それならこちらのコーナーでございます。何冊かございますので、どうぞ、そちらのソファーでお読みください。
持ち出しは厳禁となっておりますので、ご了承ください。
もし何かお困りごとがございましたら、お気軽にそちらのベルでお呼びください」
「わかったわ。案内ありがとう」
司書の方は深々と頭を下げて、地下書庫を出ていきました。
とりあえず、古い魔法書を何冊か手にとってソファーに腰掛けます。
本の表紙には魔法陣が描かれていて、どうやらここに魔力を流し込まないと読めない仕組みのようです。
私やお義母様のように王家の血を引いていない場合はどうなるのかと思いつつも魔力を流しこんでみると、魔法陣が光り、「現王妃、ジュリア。王太子エドワード・トリスの母」と私の身分が浮かび上がりました。
なるほど。
王太子を産んでいるので、王家の人間として認められたわけですね。
古びた魔法書は、かなりボロボロで、そっと捲らなければすぐにホロホロと崩れてしまいそうです。
別の棚から取ってきた辞書を片手に、とりあえず読み始めます。
うーん。
難解です。
日本で言うなら、古文で書かれているような感じです。
微妙に文法も違いますし、言葉もほとんどが古語です。
私はお義母様と協力しあって、数時間後には何とか読めるようになりました。
協力しあって、というよりも、お義母様に文法を教わった感じです。
はっきりいって、文法を覚えるまで、私はなんの役にもたっていませんでした。
「お腹、空きましたね」
「そうね。でも、飲食厳禁でしょうね」
「ですよね………」
空腹と戦いながら読み進めるうちに、やっとそれらしい魔法を見つけました。
「石化及び麻痺に関する魔法」とあります。
麻痺させてから、石化するのでしょうか。
それとも石化が解けてから麻痺?
私としては後者の方が面白いのですけど。
挿絵には、石像に落書きをしている子供の絵が載っています。
どこの世界にもいるんですね、石像や白い壁に落書きをしたがる人が。
それはともかく、私はそのページをメモを取りながら、読み進め、どのような魔法なのか。
発動条件や石化期間、詠唱などを必死で読み解きました。
「ジュリアちゃん、これは?」
お義母様が読んでいた本を見せてくださいます。
そこには確かに「永遠石化の魔法」の文字が。
きっとこれが、カルーアの魔法に近いものでしょう。
ですが、今回は永遠石化はそれほど興味が無いのです。
もちろん、重罪人などは用いることもあるでしょうから、こちらもメモを取ります。
数日に渡ってお義母様と国立図書館へ足を運び、何度も読み返して調べて、そうして、私はようやく、石化及び、罪状を記した台座の同時作成、罪状や回数によって石化期間を変えられるような魔法陣の作成方法を、見つけました。




