それぞれの落とし所
ノア様目線です
翌早朝。
朝食を済ませると、早速昨日の会談の続きを始めた。
「まず、ジン共和国ですが、アイン首相の仰る通り、リリアナ嬢は一貴族の娘に過ぎず、国とは直接は関係がありません。
キホーテ公爵家の爵位剥奪と追放、キホーテ公爵家の所有している領地を我が国へ献上する、キホーテ家の人間は二度と我が国には足を踏み入れないという事で、手を打ちましょう」
ジン共和国の首相が、朗らかにホッとしているのがわかる。
一方のキホーテ公爵は、青く強張った顔で、私の言葉を受け入れた。
公爵家という上位の貴族だったのが、平民に落とされるのだ。
土地以外の財産は持っていけるにしても、長年身に染み付いた貴族としての生活が抜けるかどうかは怪しい。
これまでのように使用人を雇ったり、散財したりしていたら、財産などすぐに底をつくだろう。
それをどこまで、この親子は分かっているのか。
「続いて、カルーア国についてですが、王位継承権を持たないとはいえ、王子の正式な妻が起こした事件です。
夫であるヨハン王子の処刑、メリッサ嬢はまた生き返られても困るので、生涯軟禁で手を打ちましょう」
「そんな!待ってください」
カルーア国王が真っ青を通り越して真っ白な顔色で待ったをかける。
「確かに、メリッサはヨハンの正式な妻。ですが、ヨハンもまた騙されていて、被害者なのです。どうか、ヨハンの命だけはお助けください。
責任を取るべきは、メリッサの本性を見抜けなかった私。
私の首を差し上げます」
ここまでは、ジュリアとの作戦通り。
「今、陛下が命を差し出せば、カルーア国は混乱し、我が国への謂れのない反抗心も芽生えるでしょう。
陛下のお命は頂戴できません。」
「ですが!」
私はここで、少し考えるように、間を作った。
「………ならば、我が国の従属国になりますか?
ミモザ国を見ていただければわかるように、国民は今まで通り暮らせますし、王家もそのまま管理者として残りますよ?」
「その場合、統治を我が国の王家が行い、主権は貴国に譲り渡すと考えればよろしいのですか?」
「詳しいことは条約書の作成で煮詰めていきますが、概ねそのようになります」
「分かりました。息子の命が助かるのなら、国の主権を譲るくらい、なんともありません。
メリッサに関しては、カルーア国王族直系だけに伝わる、身体凝固魔法で、犯罪者として永遠に晒し者になるように、王都の中央広場にわかりやすく黒い石像として晒しましょう。意識はあれど、身動きは取れず、永遠に犯罪者として晒し者になる魔法です。石像なので口も動かせず、自害することも、魔法を使うこともできません。これで、如何でしょうか」
「結構です。では、この後条約書を作成しましょう。
それと、陛下には、こちらの指輪を身につけて頂きます。
もし今後、陛下の第三親等までの中で反乱の意志があった場合、この指輪を通して反乱の意志とその内容が私と王妃に伝わるようになっております。
また、この指輪は生涯外れません。
外れるのは陛下が亡くなった時だけ。その際は、現在の王太子、ルカ王子に引き継いでください」
指輪は作るたびにグレードアップしている。
陛下は、恐る恐る指輪を嵌めた。
「本来ならば、カルーア国より人質を一人迎えるのですが、どなたを差し出しますか?」
「………ヨハンを。すまん、ヨハン」
「大丈夫です。分かっております」
「ではこれで、それぞれの解決策は見つかりましたね。
アイン首相は、キホーテ家の領地を我が国へ譲渡する手配をこの後我が国の宰相と行っていただきます。
カルーア国王陛下は、従属国とする為の条約を作成しましょう」
アイン首相は宰相と共に別室へ。
カルーア国王はこの部屋でこのまま条約内容を詰めていきます。
ちなみに、今日の会談の間、ジュリアは同じ部屋でメリッサ嬢とリリアナ嬢と一緒にお茶をしている。
男の話に女は不要だから、と理由をつけていたみたいだが、どうやらそれだけでは無いようだ。
優雅にお茶を飲むジュリアに対して、ガクガクと震えるメリッサ嬢とリリアナ嬢の様子から分かる。
私達の話し合いは聞こえていたはずだけど、メリッサ嬢の石像の話やキホーテ家の没落などだけが原因、と言うわけでもなさそうだ。
となると、昨日のジュリアが発動した夢を操る魔法が何か関わっているのだろう。
本当に、ジュリアは面白い性格をしている。
きっと、カルーア王族直系だけが使える身体凝固魔法についても興味を抱いているはず。
ジュリアは使いたい、と決めたら何が何でも使えるようになるまで努力をする子だから、きっとそのうち使えるようになるんだろう。
半日ほどで条約書が出来上がり、お互いにサインをして一部ずつ持つ。
ミモザの時もそうだが、人質とはいえ食費も人件費もかかる。
人件費はともかく、食費は上限を設けてそれぞれの国から送らせることになっている。
とはいえ、人質が増えて離宮が足りなくなるのも困りものなので、今回はミモザのロード王子とヨハン王子に同じ離宮の両端で過ごしてもらうことにした。
同じ女に騙された同士、話も合うんじゃないだろうか。
ヨハン王子は、このまま離宮に移り、後から荷物を送ってもらうようだ。
国王陛下より、ヨハン王子の方がよほどしっかりしていると思うのは気のせいだろうか。
学生時代はルカ王子もヨハン王子もリリアンに夢中で、授業そっちのけだった記憶しかない。
そう考えると、ヨハン王子は今回のことで少し大人になったのかもしれない。
宰相と話を終えたアイン首相がキホーテ公爵と共に挨拶に来て、もう一度詫びてから帰っていった。
カルーア国王もヨハン王子と別れを惜しみつつも、今回の事件について詫びてから帰国した。
ヨハン王子はマルコに連れられて、離宮へ。
その顔は、何もかもに絶望しきったような顔だった。
二度恋愛をして、そのどちらもが同じ人物で同じような事件を起こしたのだ。
せっかく過去の最愛の人にそっくりで、かつ賢明で優しい女性と結婚できたと思ったのに、ハネムーンでこんなことが起こったのだ。
落ち込んでも仕方ないだろう。
カチャカチャとジュリアの使っていたティーセットが片付けられている。
「ジュリア。相当怖がらせるような事でも言ったのかい?」
「まぁ!まさか。私はお二方とお茶をしていただけですわ。
ただ、夢見が悪かったようで、あまり気分が優れない様子でしたけれど」
ふふっ、とジュリアが黒い笑みを浮かべる。
ジュリアは、のんびりマイペースの食欲旺盛な女性、ただそれだけだった筈だが、こういった黒い面は、私と一緒にいるうちに身についてしまったのかもしれない。
そう考えると、悪いことをしたかな、とも思う。
何はともあれ、これでジュリアの命を狙う者がいなくなったので一安心だ。
私は大きく深呼吸すると、ソファーに座っていたジュリアの膝を枕に、ゴロリと横になった。
「お疲れ様でした、ノア様」
「疲れたけど、昨日の夜の作戦のおかげで上手くいったから良かったよ」
「ふふ。私も安心いたしましたわ」
ジュリアの太腿の感触が気持ちよくて、ウトウトしてくる。
「ノア様。まだ晩餐までは時間がありますから、ベッドで少し横になられては?」
「いや、いい。寝るなら、君の膝枕がいい」
ジュリアは頬を染めながらも、優しく俺の髪を撫でた。
実に長い、2日間だった。




