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ミッション失敗

マリアンヌの『影』目線です

お嬢様からの命令で、私は急ぎカルーア国へ向かった。


今回のミッションは、元騎士のイザークと共にトリス王城で陛下と王妃様のお命を狙った女、リリアンが生きているのか調べること。

そしてもう一つ、生きていた場合、今はどのような立場で、何を狙っているのかを調査することだ。


ターゲットは黒髪に黒い瞳という目立ちやすい見た目なので、探すのにはさして苦労しなかった。

お嬢様が死亡確認をした時、私も陰から見ていたので、顔はわかる。


カルーアで見つけたのは、見た目は間違いなくリリアンだった。

とりあえず、見た目は間違いなくリリアンであったことを紙鷹でお嬢様へ報告する。


その後の調べで、リリアンと酷似しているその女は、現在はカルーアの下位貴族、レミ男爵家の養女として暮らしていることがわかった。

どうやら、半年前レミ家所有の領地内で記憶を失って倒れていたところを助けられ、子供のいなかったレミ家にそのまま養女として引き取られたらしい。

今の名はメリッサというらしい。


この事も、分かり次第報告した。


問題は、彼女の狙いだ。

記憶喪失が本当ならば、ふさわしい階級の男を婿に取るだろう。

それならそれで問題はない。

しかし、もし記憶喪失が嘘、或いは既に記憶を取り戻しているとしたら。

また王妃様のお命を狙ってくる可能性がある。

以前、王妃様のお命を狙った時には精神に異常をきたしていて、罪の意識が無かったために王妃様の結界をすり抜けた。

しかし、調べてみても今のところ、精神に異常をきたしているようには見えない。

どうみても、ありふれた下位貴族の令嬢だ。


それならば、もし王妃様のお命を狙ったとしても、国土防御結界をすり抜けることは不可能だから、安心していいだろう。


だが、数週間様子を見ていても、何かを企んでいるようには見えない。

他の貴族や領民からの評判も良いようだ。


その事も、お嬢様に報告したが、もうしばらく様子を見るように、とのことで、私はまだカルーアに留まっている。


そうする内に、カルーアのルカ王子とヨハン王子のお見合いパーティーが開かれることとなり、メリッサも参加することになった。


使用人に扮して、パーティーに紛れ込む。

ルカ王子とヨハン王子はメリッサに挨拶をされた瞬間とても驚いた様子だったが、すぐに彼女に夢中になったのがわかった。

このままいけば、おそらくどちらかの王子の花嫁候補に選ばれるだろう。

爵位は低いが、令嬢としての素質を示し、花嫁教育をしっかりこなせば結婚もあり得なくはない。


リリアンはご友人もおらず、花嫁教育もままならないような不出来な令嬢だったらしいが、メリッサは勉強熱心で、 領民を大切にし、ご友人の令嬢達とも仲良くお茶会をしている。

少なくとも、リリアンほど不出来ではないようだ。


ルカ王子とヨハン王子がそれぞれ彼女とダンスをしている間に、私は人気のない場所に移動し、お嬢様に報告の手紙を送った。



「どうもここしばらく誰かの視線を感じると思ったら、あなただったのね。

あなた、誰の使用人?」



その声に振り返ると、立っていたのはメリッサ。

そんなまさか。

彼女は今、ヨハン王子とダンスをしているはずなのに。


そこで私は思い至った。



「幻惑魔法、か」


「あら、それくらいのことは分かるのね」



それにしても、私が人の気配に気づかず背後を取られるとは。


ありふれた令嬢だと思っていたが、メリッサは只者ではない。

それは、私の視線を感じていたという言葉からもわかる。


この場を、どうやって切り抜けるか。

逃げ出すこと自体は可能だ。

魔法で転移してしまえばいい。


しかし、メリッサが只者ではないとわかった以上、もう少し調べなくては。


私はジリジリとメリッサから距離を取りながら、口を開いた。



「リリアン。あなたの狙いはなんだ」



誤魔化しをせずに、ストレートに聞く。



「私が元リリアンだと言うことも知っているのね。

馬鹿な人。そんなこと言わずに知らんぷりしていれば、見逃されたかもしれないのに」


「あなたは、最初から私を見逃すつもりなどない」


「うふふ。よく分かってるのね。これだけ優秀だということは、トリスかミモザの上位貴族か王族の『影』ね。

どちらにせよ、まだ作戦の途中である以上、このままあなたを主人の元へ帰らせるわけにはいかないの」



やはり、何かを企んでいたのか。

せめて、その「作戦」がどのようなものなのか、ヒントだけでも掴めれば……



私は後ろ手に手紙を書き、何時でも紙鷹で飛ばせるよう準備をした。


目の前で、メリッサが魔力を練り上げる。

これまで感じたことのないような、負の魔力。

これ以上は危険だ。今ある情報だけでもお嬢様へ伝えなければ。


私は瞬時に魔力を練り上げた。



「『デッドライト』!」



転移の瞬間、上級攻撃魔法を食らったが、なんとかお嬢様の元へたどり着くことはできた。


お嬢様は王妃様と元王妃様とご一緒にお茶をしていらしたようだ。

突然現れたボロボロの私に、3人とも驚愕している。


しかし、一番早く反応したのはお嬢様。



「あなたの正体はなんとなく予想がついているわ。

すぐに怪我の治療をしなければ」


「では、私は治癒魔法を」


「私も治癒魔法を」



王妃様と元王妃様がお二人で治癒魔法を私に使っている間に、お嬢様は手早く医療用キットで私の傷口に薬を塗り、縫っていく。



「肋骨も折れているみたいね。ジュリア様、ここの骨がくっつくようイメージしてください。リリー様は右大腿骨を」



テキパキと指示を出しながら、私の治療をしていくお嬢様。



「お嬢様、申し訳ありません。ミッションは、失敗に終わりました。しかし、幾つか得た情報はあります」


「ありがとう。でも今は喋らなくていいわ。治療が終わったらちゃんと聞くから、今はおとなしくしてなさい」



お嬢様はそうおっしゃいましたが、私は自分の命がもうあまり長くないことを悟っていた。



「ジュリア様。肺を見たことは?」


「レントゲンでなら」


「それでいいです。先程くっつけた肋骨のあたりの肺が、レントゲンで見るような正常な状態になるようイメージを」


王妃様が額に汗を浮かべて治癒魔法を施してくださっているが、おそらく、難しいのだろう。


私はゴフッと血の塊を吐いた。



「お嬢様。どうか聞いてください。メリッサは、間違いなくリリアンです。そして、記憶喪失ではありません。何か作戦を立てていると言っていましたが、まだ途中であるということしか聞き出せませんでした。

それから、以前よりおそらく厄介です。

私が幻惑魔法にかかり、気配に気づかず背後を取られたくらいですから。

ルカ王子とヨハン王子は、既にメリッサに夢中です。

皆様、どうか御身お気をつけて」



それだけ言い切ると、私は身体から力が抜けていくのを感じた。

もう、苦しくも痛くもない。

きっと、命の灯火が消えようとしているのだろう。


ミッションを失敗して、お嬢様方にご迷惑をかけた上に死ぬとは、『影』として大きな失態。

メリッサの「作戦」のヒントさえ掴めなかったことだけが、心残りだが、危険を知らせることが出来ただけでも良しとしなければならないのか。


私はふうっと息を吐いて、そのまま暗闇の中へ沈んでいった。


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