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嵐の前の静けさ

トリスの王城に戻って、まずはノエルを抱っこします。

私とノア様、どちらが先に抱っこするかで揉めて、結局じゃんけんで私が勝ちました。



「ノエルー。お利口さんにしてましたか?」


「ノエルちゃんは、大人しいしとても扱いやすかったわよ」



お義母様が言います。

ノエルは生まれた時から泣き声も静かで、少し大きくなってからも、ウトウト寝ているか、起きていてもお義母様方のお土産のおもちゃで一人静かに遊んでいる子です。

やんちゃも言わないし、とてもいい子なのです。

誰に似たのでしょうか。


ノア様は伴侶探しの旅に出てしまう程アグレッシブですし、私も幼い頃はあまり大人しくしていた記憶はありません。

のんびりマイペースだったと父から聞いたことがあります。

ちなみに、私は違うと思っていますが、周囲の方から見ると、私は今でものんびりマイペースだそうです。


ノア様と二人で目一杯ノエルを構うと、私はお義母様とお義父様にお土産を渡しました。

お義母様にはカルーアで最近人気だという銀細工のイヤーカフを。

お義父様には、ミモザで最近開発された、扱いやすい万年筆を。

ノア様と一緒に選んだのですが、お二人ともとても喜んでくださってのでよかったです。



「マリア。この後は特に急ぎの公務はなかったわよね?」


「はい。3時のお茶会ですか?」


「ええ。戻って早々で可哀想だけれど、マリアンヌちゃんも呼んでちょうだい」


「かしこまりました」



私はお義母様と一緒に、先に私と自室に入りました。

話す内容は、概ね見当がついています。



「マリアンヌちゃんが来るまで、ジュリアちゃんが見たっていう女性の話をしてくれる?」


「ほとんどは手紙に書いたとおりなのですが、この世界ではリリアン様以外では見たことのない、黒髪に黒い瞳。少しのっぺりしたお顔。

リリアン様にとてもよく似ていましたが、一瞬の事ですし、服装も下位貴族の着るような服で、花屋にいましたから、もしもリリアン様本人だとしたら、どこかの貴族と養子縁組をしたのかもしれません」



お義母様は難しい顔をしています。

それもそのはず。

リリアン様とイザークの一件は、あわや戦争、というところまでいった重大な事件だったのです。



「今は、マリアンヌちゃんの『影』が調べているのよね?」


「はい」


「上位貴族の『影』は優秀なことが多いですから、きっと、すぐに何かしらの情報を持ってきてくれるでしょう」



その時、ドアがノックされ、マリアンヌ様が到着されました。



「マリアンヌちゃん。来て早々に悪いけど、『影』から何か報告は?」


「いえ、まだ。」


「そう……何事もないといいわね。もしかすると、続編ルートなのかもしれないわ」


「ヒロイン復活ルートですか……私たちはみんな続編が出る前に死んでいますし、続編があるのかどうかも分かりませんから、なんとも言えませんわね」


「でも、やっぱりヒロイン復活ルートのような気がしますわね」



イザークルートのバッドエンド攻略者のみが続編で復活ルートに入れる、ありえない話ではありません。



「それに、ロード王子が仰っていた、聖女の奇跡についても気になりますわね」


「もしかしたら、私達がこの世界に転生した遥か昔の時代に、同じように転移した方がいらっしゃったのかも知れないわね。

聖典の話が本当だとすると、やはりジュリアちゃんが見たのはリリアン嬢という可能性が高いわね」



私たちは黙り込みました。

もしも復活ルートがあるのなら、何度殺されても、イザークのように魔法で捕縛しても、意味がないかもしれません。



「ま、とりあえずこの話はこれでお終い。マリアンヌちゃんの『影』から報告があるまでは、警戒しつつも普段通りに過ごしましょう」



そう言って紅茶を一口飲んだお義母様は、急に目を爛々とさせて身を乗り出しました。



「それで?マリアンヌちゃん。ノア以外の王子たちはどうだった?」



その言葉に、マリアンヌ様はため息をつかれました。



「ロード王子は根暗。ルカ王子とヨハン王子はウジウジ女々しくて、バロン国王はチャラ男でしたわ。

ナード様くらいかしら、目の保養になったのは」


「あら。やっぱりゲームの本筋とズレていることもあって、ゲームにあった魅力が無くなっているのかしら」


「性格はゲーム通りなのですわ。ただ、リアルだとそれが全面に出過ぎてて……」


「やっぱり1番はノアかしら」


「私の1番はエリクですけれど、キャラとして一番魅力があるのは、私的にはやはりナード王太子ですわね」



マリアンヌ様。

ブレませんね。

そして、ちゃっかり惚気を入れてきましたね。


 

「ジュリアちゃんは、前世でも現在でもノア一筋なんでしょう?」


「勿論ですわ!」


「私たちはみんなモブですけど、攻略キャラと結婚したのはジュリアちゃんだけね」

 

「リリー様はマーク様と。私はモブ中のモブ、料理長のエリクですからね」



確かにマリアンヌ様の仰る通り、エリクが1番モブ中のモブですわね。


続編のヒロインと思われるイザベル様は、ちゃっかり攻略キャラと結婚していますし。


ああ、でも!



「お義母様。私以外にもモブで攻略キャラと結婚した女性がいましたわ」


「あら?そんな方いたかしら」


「マキナ王妃です、ミモザの。マキナ様なんて、本当にモブの中のモブですのに、しっかり攻略キャラを捕まえましたわ」


「ああ!マキナ嬢。あの方もエリクに負けず劣らずのモブでしたのにねぇ」



人生って、本当に分からないものですわね。



「ロングアイランドのヘンリー国王も、カルーアのルカ王子とヨハン王子もまだフリーですわね。

ヘンリー国王はともかく、ルカ王子とヨハン王子はお見合いパーティーを開催するそうですわ」


「皆さん、婚活で大変そうですわね。でも、ヘンリー陛下は婚約なさったはずですが」


「お見合いパーティーで出会った方と?やはり時代はお見合いパーティーなのかしら」



私達はみんな既婚者で、しかもラブラブなので完全に対岸の火事です。

3人で静かにお茶を啜ります。



「いっそ、ジュリアちゃんのお守りを他国でも売ったらいいのに」



ええ……

やめてください。

私には本当に縁結びや安産の力などなく、今国内で流通しているという事だけでも申し訳無さでいっぱいですのに。



「あら。カルーアにも売っていましたわよ、ジュリア王妃のお守り」


「えっ!」



私の噂は、どこまで広がっていくのでしょうか。

なんだか一気に力が抜けます。


その後も他愛ない話をして、その日のお茶会は終了しました。


でも、今思えば、これはあくまでも嵐の前の静けさにすぎなかったのです。

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