例のお二人の帰国
「ジュリア、ティーダ見てごらん」
晩餐が終わった頃、ノア様が私達に一通の絵葉書を見せてくれました。
お義父様とお義母様からです。
『私達は今、ジン共和国に来ています。
王城に寝泊まりするのは肩が凝るのでお断りして、二人で身分を隠してちょっとリッチなホテルに宿泊しています。
先だって大きな地震があったので、街の至るところに瓦礫の山ができていて、国としても総力をあげて復興しているようですが、まだ時間がかかりそうです。
復興支援募金などを募ったり、職人や医師を派遣して恩を売ってもいいかもしれないですね。
そちらは皆さんはご無事でしたか?
もう少ししたら、次の国に行く予定です。
絵葉書を楽しみに待っていてくださいね』
お義母様の字です。
「最後の文字?は何でしょうね」
最後に一言付け加えられていたのは、日本語。
『リリアナ様はまだお相手がみつからないそうよ。あの性格じゃ、仕方ないわね』
わざわざ日本語で書かれていたのはゴシップでした。
お義母様らしくて、ちょっと笑えます。
「今朝、紙鷹で届いてね。ちょうどいいタイミングだったんだよ」
「ちょうどいいタイミング?」
「ミモザ国が、世代交代をするらしい。
1ヶ月後にバロン殿下が国王に、マキナ嬢が王妃になるようだよ。
王太子は、二人に子供が生まれるまでは、とりあえずナード殿下になるらしい。
これも、今朝、紙鷹で届いた」
マキナ様。
とうとう王妃様になられるのですね。
私のお茶会で、結婚を諦めようとしていたのが遠い過去に感じます。
「ミモザは従属国だし、私とジュリアが即位式に参加しないわけにはいかないだろう?
かといって、その間、公務を全部ティーダに任せるわけにもいかないし。
ここは一旦、父上と母上に一時帰国してもらおう」
なるほど。
たしかにいいタイミングでしたわね。
今日もノア様とティーダ様のデザートを貰ってすっかり満腹になった私と、ノア様は寝室へ行きました。
寝室のデスクで、こちらの事情を書いて、すぐに戻ってきてくれるようお願いします。
それを、私の紙鷹で飛ばしました。
「一時帰国とはいえ、途中で帰らせるから、後から何か要求されるかもしれないね」
ノア様は苦笑してらっしゃいます。
確かに、お二人が旅立ってからまだ一月程しか経っていません。
お義父様はともかく、お義母様は、貸し1つ、と言いかねませんね。
何か喜んでいただけるものを用意しなくては。
その翌日の夜、お二人から紙鷹が届きました。
一時帰国は了承して頂けましたが、やはりお義母様は「貸し1つよ」と付け加えていました。
それから一週間後、お二人が帰国しました。
それぞれ、仕事の進捗と簡単な引き継ぎを済ませ、私達はミモザに向かう準備をします。
「今回はロード王子と、エドワードも連れて行こうと思う。
ロード王子は軟禁中の身とはいえ、自国の代替わりだし、エドワードもそろそろお披露目しなくてはいけないしね」
「教育係の話では、エドワードはちょうど王族としての挨拶の仕方とパーティーでの立ち回り方を学んだと聞いていますが、遠方ですし、少し心配ですわ」
「少し早いが、王太子である以上、こういう事にも慣れてもらわないといけないからね」
ノア様の言葉に、私はしぶしぶ頷きました。
まぁ、今はお義母様がおみやげに買ってきてくださった玩具に夢中ですし、なんとかなるでしょう。
そんな話をした翌日、お義母様からお茶会のお誘いを受けました。
いつもの、秘密のメンバーです。
「で、どうでしたの?二人きりのフルムーンは」
「うふふ。言ってもいいの?砂糖を吐いても知らないわよ?」
いつも以上にお肌がツヤツヤしています。
これはあえて聞かないほうが良さそうですわね。
私とマリアンヌ様は顔を見合わせて、お義母様に、遠慮しておきます、と申し上げました。
お義母様が話したくてムズムズしているのはわかるのですが、さすがに、ねぇ?
「本当に聞かなくていいの?ジュリアちゃん、私はあなたとノアに貸しがあるわよね?」
ええ……
むしろこんなところでそれを使っちゃっていいんですか?
「リリー様。私はリリー様に借りはありませんよ?」
「だめよ。この部屋に入った以上は逃げられないわよ」
マリアンヌ様の言葉は一蹴されました。
お義母様。
そんなに話したいのでしょうか……
「わかりました。それで、お二人のフルムーンはいかがでしたの?」
改めて聞くと、お義母様はフニャリと顔を緩ませました。
「マークったらね、行く先々でドレスやアクセサリーを買ってくれるのよ。君が着飾っている姿は他の何よりも美しいからって。あの口下手のマークがよ?
それでね、招かれた夜会には全部参加してね、ずぅっとダンスをしていたの。私も流石に疲れちゃってね、足が痛いって言ったら、馬車から降りるなりずっとお姫様抱っこで運んでくれてね、うふふ」
お義母様のお惚気はまだまだ続きましたが割愛します。
ごめんなさい、お義母様。
とりあえず、今もラブラブなことだけはわかりました。
本当に、ティーダ様に弟か妹ができるかもしれませんわね。
「マリアンヌ様。もしお義母様が妊娠なさったら、その時はよろしくお願いしますわ」
「リリー様には不敬にあたるかもしれませんが、高齢出産ですからね」
「マリアンヌちゃんがいれば安心だわ。もし妊娠したらお願いね」
その後は、地震のことやイザーク復活の話などをしました。
イザークの復活には、流石にお義母様もマリアンヌ様と驚いていました。
「すごい執念ですわね。普通なら、数日で息絶えるでしょうに」
「流石に今度の捕縛魔法を破ることはできないと思いますけれど、マリアが気づいてくれてよかったですわ」
「マリアは優秀でしょう?元々私が幼い頃から侍女として付いていてくれてたのを、結婚するときにつれてきたのよ」
ああ。
私とティレーズのような関係なのですね。
マリアも早く引退したがってますし、いずれはティレーズがマリアのようになるのでしょう。
でも、マリアの年齢から考えれば、引退はまだまだ先の話です。
何しろ侍女長なのですから、そんなに早く引退されては困ります。
せめてあと10年は頑張ってもらわないと。
「ところで、ミモザにはどれくらい滞在する予定なの?」
「ロード様の一時帰国も兼ねていますから、5日程滞在しようかと。私も、久しぶりに両親に会いたいですし。本当はティレーズも連れていければよかったのですけれど、妊娠中にあまり遠出もよくありませんので。代わりに私が挨拶をしてきますわ」
「ミモザといえば、セブプリの舞台ですわよね。羨ましいですわ、私も行きたいです。ルカ王子とヨハン王子には会えなくても、他の王子様方はどんなお顔をされているのか、生で見てみたいですわ」
マリアンヌ様がしみじみとおっしゃいます。
セブプリファンとしては、やはり見ておきたいですよね。
「………専属医、という形を取ってついて行っちゃったら?」
「名案ですけれど、私とノア様、エドワードにマルコ、ロード王子にその従者。マルコとロード王子の従者は別の馬車ですけれど、私達の乗る馬車が定員オーバーになりますの。ロード王子を別の馬車に乗せるのは、あまりよろしくないので」
「そう言えば、エドワードも連れて行くのでしたわね」
「私、ミモザに行けるのなら自分の馬車でも構いませんわ!」
マリアンヌ様の鼻息が少し荒くなっています。
私がこの国に来たばかりの頃、ミモザに遊びに行っては?と提案したときはそんなに乗り気ではありませんでしたのに、やはり結婚して少し心に余裕ができたからでしょうか。
「では、ノア様に聞いてみますわね」
「お願いしますわ」
その頃、ノア様とポアロ達がお義父様から延々と惚気話を聞かされているとも知らず、私たちはマリアンヌ様とミモザに行けるのをとても楽しみにしていました。
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誤字脱字が多く読みにくい点も多々あると思いますが、これからも1日1ページを目標に頑張ります!




