二人の夜
「ふぅ、やっと終わったな。ジュリアも疲れただろう?」
パーティーが終わり、二人の寝室に入ると、ノア様がぐったりした様子でベッドに座り込みました。
「私よりノア様の方がお疲れでしょう?明日は一日公務がないとはいえ、即位のお祝いの手紙に返事も書かないといけませんし」
「手紙は山のように届いているだろうからな。手首を痛めそうで不安だよ」
ノア様は冗談めかして言うと、私の頬をふに、と突きました。
「それより、ジュリアはもうお腹が空いてどうしょうもないんじゃないのかい?」
仰っしゃる通りです。
パーティーの最中は、お腹が鳴らないように必死でお腹に力を込めていましたが、もう限界です。
「エリクに夜食を頼んでおいたのですけれど」
「そうなのかい?じゃあ、もうすぐ届くんじゃないかな」
ちょうどそのタイミングで、ドアがノックされました。
「王妃様、夜食をお持ち致しました」
ティレーズです。
「ティレーズ!あなたこんな重い物を運んできたの?」
ティレーズはお料理が大量に乗ったワゴンを押しています。
「力仕事はマルコに頼まないとだめよ?」
「ありがとうございます。でも、これくらいなら大丈夫ですわ。
それより、お二人でお食べになるとは思いますが……こんな時間ですのであまり食べすぎないようになさってくださいね」
「………ええ」
ティレーズから視線を外して答えると、王妃様、と冷たい声が聞こえました。
「だって!お腹がものすごく空いているんだもの!」
「体型の維持も王妃様としてのお仕事の一つですよ」
「わかってるわ」
「明後日からは、マリア様がメインで、私はサブとして王妃様のお世話に当たらせていただきます。どうぞ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
「では、また明日ご挨拶に参ります」
ティレーズはワゴンを中に入れると部屋から出ていきました。
「ノア様、頂きましょう?」
「そうだね」
答えて、ノア様はバルコニーに続く窓を開けます。
どうやらバルコニーの様子を見ているようですが、何をなさっているのでしょう。
「やっぱりあった。ジュリアこっちへおいで」
ノア様はワゴンをを押して、バルコニーへ出ました。私もあとに続きます。
ああ、なるほど。
バルコニーには、部屋からは死角になる位置にソファーセットが置いてありました。
「父上の性格からして、絶対にあると思ったんだ」
なるほど。
確かに、ここでしたら不意に誰かが訪ねてきてもすぐには見えませんし、二人きりの気分を味わえますね。
まぁ、不意に訪ねてきて許可も得ずに入ってくるような方はお義父様とお義母様くらいなものでしょうけど。
「今夜はここで夜食を食べよう」
「ノア様とバルコニーにいると、色々と思い出しますわね」
「そうだね。流星群を見たり、帰還パーティーの後逢引したりしたね」
「懐かしいですわ」
ほんの数年前のことなのに、もう随分前のことのような気がします。
ノア様は私の耳元に口を近づけて言いました。
「私の勘だけど、ティーダはここで授かったんじゃないかな」
え。
ここで、ですか?
ここ、屋根があるとはいえ外ですわよ?
「父上は早くに即位したし、父上の即位の年とティーダの歳を考えると、時期的にぴったりなんだ。父上はこういう環境が大好きだしね」
その言葉に、なんだか恥ずかしくなって俯きました。
なんででしょう。
自分のことでもないのに、覗かれていたような気分です。
「私達も、ここでもう一人授かるように頑張ってみる?」
の、ノア様の色気が……
桃色の空気に包まれた瞬間、それをぶち壊すように私のお腹が鳴りました。
プッ、とノア様が吹き出します。
「それより先に、ジュリアのお腹を満たさないとね。ほら、あーん」
チキンのソテーを口元に運ばれて、素直に口を開きます。
「おいしい?」
私はコクコクと頷きました。
でも、その、やはり食べさせてもらうのは恥ずかしいです。
自分で食べようとしましたが、その手をノア様に押さえられ、サンドイッチが口元に。
無意識で口を開きます。
ノア様はクスクス笑って、下から見上げるように私を見つめました。
「本当に、私のジュリアは可愛いな」
ノア様、色気がダダ漏れてます。
年々ノア様の色気が増している気がするのは、気のせいでしょうか。
「ノア様も召し上がって下さい」
「うん。じゃあジュリア、あーん」
このシチュエーションも久し振りですわね。
私はノア様の口にチキンのソテーを運びます。
「ねぇ、ジュリア。覚えている?初めて君から食べさせてもらったのも、チキンだったよね」
もちろん覚えていますとも。
あれはお弁当に入っていたチキンのハーブ焼きでした。
あの日から、ノア様とランチの時間にお話しするようになったのですもの。
忘れられませんわ。
「ノア様も覚えていてくださって、嬉しいです」
「あの頃君はまだ学生だったのに、今では王妃か」
「ノア様だって、お忍びの講師でしたのに、今では国王ですわ」
「あの頃の自分に教えてやりたいよ。お弁当をつまみ食いさせてもらってる令嬢と結婚して、その令嬢は王妃になるんだとね」
話しながらも食べさせてもらったり食べさせたりしている間に、お料理は残り少なくなりました。
「ジュリア、知ってる?君が王子たちで目の保養をしていると知って、私は少なからずヤキモチを妬いていたんだよ」
「ノア様が、ヤキモチを?」
「その話をマルコにしたら、それは恋だと指摘されたんだ」
マルコとコイバナをしているノア様……想像がつきません。
「今も、私だけを見ていてくれないと嫉妬してしまう。こんな心の狭い男は嫌?」
「いいえ。私も同じですもの。ノア様が他の令嬢を見ているだけで嫉妬してしまいますわ」
「ジュリア、可愛い」
ノア様のキスが降ってきて、私が目を閉じると同時に、私はソファーに押し倒されました。
お義母様みたいに子供を授かるかはわかりませんが、私達もそれはそれは甘い夜を過ごしました。




