即位式
ティレーズは、結構つわりが重いタイプのようで、安定期に入るまでも働きたがるのではないかと心配していましたが、それどころではないようで、ほとんど横になって過ごしていたようです。
一度、お見舞いに行きましたが、真っ青な顔で無理に起き上がろうとするので慌てて止めて、それ以来お見舞いに行くのはやめました。
代わりに、城内の聖堂でジブリール様とアルミサエル様へ無事な出産を祈願いたしました。
そうしているうちに、気がつけばティレーズは安定期に入り、少しずつ仕事もするようになりました。
とは言っても、軽い仕事ばかりです。
無理をしそうなら無理矢理休ませます。
お茶会に誘って、帰りに二人でのんびり散歩したりもします。
ある程度の運動は必要ですからね。
晩餐の席で、陛下が即位式について口を開いたのは、ちょうどそんな頃でした。
「ティレーズも安定期に入ったことだし、そろそろ即位式を行っても良いかと思うんだがね」
ワクワクした様子でおっしゃいます。
そんなに譲位後の旅行が楽しみなのでしょうか。
ノア様はため息をついて答えました。
「ティレーズやマリアの負担を考えればもう少し先でも良いのではないかと思っていたのですが、どうせもう、待ちきれないのでしょう?」
「そんなわけではないが……君も私のそばで国王としての仕事を充分に学んだだろう?
ノエルの子育ても落ち着いてきたし、そろそろかと思ってね」
「分かりました。それで、いつを予定しているのですか?」
「1ヶ月後だ」
近隣各国の要人も招かなければいけませんし、最短で1ヶ月といったところでしょうか。
ギリギリを選択したのですね、陛下。
「実はもう、各国には即位式の招待状を送ってあるんだ」
「聞いていませんよ?」
ノア様が反駁します。
そうですね、私も王妃様から全く聞いていません。
ちらりと王妃様を見ると、目線を逸らされました。
あえて知らせなかったのですね、わかります。
「即位式の手順については、ポアロからしっかり聞いて、本番でしくじらないようにしてくれよ」
「………わかりました」
「お義母様?私も即位式ではなにかすることがあるのですか?」
心配になって、一応聞いてみます。
「そうね。ノアに比べればやることは少ないわよ。基本的には、ノアの戴冠後に一緒に立ってマントを着せられるくらいかしら。後は、国民への挨拶ね。詳しくはマリアに聞いてね」
「分かりましたわ」
そしてやってきた即位式の日。
大広間で司祭の手によって陛下の頭上から王冠が外され、ノア様の頭上へ。
ノア様が宣誓を述べます。
すごく長い文章です。
でも一言でも間違えるわけには参りません。
5分近くに渡る宣誓の言葉を言い切ったあと、ようやく、跪いていたノア様が立ち上がり、私がその横に並びます。
ノア様と私にそれぞれマントが着せかけられ、バルコニーへ出ると、集まった国民から大歓声が沸き起こりました。
それに、手を振って応え、拡声魔法でノア様が国王としての抱負を述べ、続いて私も王妃としての抱負を述べます。
バルコニーから部屋の中に戻ってノア様が玉座に、私がその横に座ると、各国の来賓の方々と主要貴族たちから、次々に挨拶を受けます。
これ、ノア様はお祝いの言葉と共に目の前で頭を下げられるだけですが、私は一人一人に手を差し出して、手の甲にキスを受けなければなりません。
ものすごく、手が疲れます。
最後の方は腕がプルプルし始めていました。
即位式自体は、これで終わりです。
後は、即位記念パーティーです。
これは、ノア様と私がまずダンスをすると決められています。
ダンスがおわったら席について、また挨拶を受けながら、ニコニコ、ニコニコ。
すごく美味しそうなお料理が並んでいますのに、私たちは手を付けられません。
ですが!
これに関しては、マリアンヌ様を通して、エリクに私達の分を別に取り分けておいてもらうようお願い済みです。
パーティーさえ終われば食べられるのです。
「ノア国王、ジュリア王妃。此度は誠におめでとうございます」
あら、ヘンリー陛下。
「その後、お妃探しはいかがですの?」
「何度かお見合いパーティーを開いて、先日ようやく、素敵な方と巡り会えました。
近い内に祝賀パーティーを開く予定ですので、是非お出でください。
民の生活も変わった我が国を、是非ご覧いただきたいのです」
多夫多妻制から一夫一妻制になり、田畑にも真面目に手をかけるよう、国民に告げられましたからね。
それに、ノア様も改正を手伝った新法がうまく回っているかも気になる所です。
「ありがとう。その際は是非伺わせてもらう」
ヘンリー陛下は頭を下げて去っていきました。
「国王陛下、王妃様。この度は誠におめでとうございます」
あら、お父様。
「貴国の今後の発展をお祈り申し上げます」
お父様はきちんと礼をした後、私の耳元で言いました。
「料理ばかり見るのはやめなさい。みっともない」
「だって、お腹が空いたのですもの」
「お前の食いしん坊は王妃になっても変わらないのか……」
お父様はがっくり肩を落として、申し訳なさそうにノア様に頭を下げて行ってしまいました。
ちなみに、お義父様とお義母様は、それは楽しそうに何度もダンスをしてらっしゃいます。
明日からさっそく旅行に出ると言うのに、疲れないのでしょうか。
「父上も母上もはしゃぎ過ぎだな」
挨拶が途切れたタイミングで、ノア様が呆れたようにおっしゃいます。
「でも、私達もお義母様たちみたいに、いつまでも仲の良い夫婦でいましょうね」
「ジュリア。当たり前だよ。私はずっとジュリアを愛し続けるからね」
んんっ、と咳払いが聞こえて振り返ると、後ろに控えていたポアロが呆れたように言いました。
「そういった桃色の空気は、お二人だけの時にしてください」
はい、すみません。
その晩は遅くまでパーティーが続き、私の空腹が限界に達した頃にようやく終わりを迎えました。




